古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

原発いじめ第三者委員会報告書の二つの問題点

◆長崎いじめ自死訴訟に出頭

 いじめ自殺訴訟で遺族代理人として長崎地裁の進行協議に出廷しました。中学生がいじめを苦に自殺したため遺族が学校を運営する町・県を被告として損害賠償請求した事案です。
 町側は第三者委員会がいじめと自死との因果関係を認めた後も、示談を拒否していましたが、訴訟では一転して概ね事実関係と法的責任を認める展開になっています。まだ進行中の事件ですから記者会見した以上のことには触れませんが、この種の裁判としては早期に解決に向けて訴訟進行しており、ある意味、今後のモデルケースになるかもしれません。

 さて博多から長崎までは特急列車で片道2時間・往復4時間かかります。今回は往復の時間を利用していわゆる「原発いじめ事件」の第三者委員会報告書に目を通しました。

◆原発いじめの第三者委員会報告書

 原発事故で福島県から横浜市に自主避難した中学生に対するいじめ問題。被害生徒から加害生徒らに対する合計150万円の提供について「いじめ」ではないと判断したため、厳しい批判にあって撤回を余儀なくされ、大きく報道されました。どうしてこのような判断に至ったのか興味を持って、揺れる車内の中で報告書を読み進めました。

 まず全体のトーンとしては、意外と学校側に対して厳しい論調になっているということです。
 例えば答申の結論部分においては、次のように学校側の問題点を指摘しています。
「ただ単に学校になじめない不適応行動を表現する児童という捉え方での対応のみに終始してしまったことは大いに反省を即したい」
「十分な児童理解に基づいた教育活動が行われてはいなかったのではないかという疑念はぬぐえない」
「学校側は真相解明と金銭問題ということで積極的に当該児童及び係わった児童に対しての支援を行っていないことは、学校教育を行うものとしての見識を疑う」
「金品持ち出しに対する指導やゲームセンターへの出入り等に対して積極的に教育的支援を行わなかったことは、教育の放棄に等しい」

 ところが、金銭の授受がいじめに該当するか否かに関しては一転してトーンダウンしてしまいます。
「その後の「おごりおごられ」行為そのものは、「いじめ」であったとまでは認定できない。しかしながら、過去の「いじめ」の状況がなかったとしたら起きなかった行為と考えられなくもない」
「学校側からの報告書等では当該児童から加害を疑われている児童たちに、自主的におごったこととされているが、思春期前記にさしかかり他の児童たちとの相互関係の在り方に伴う不安定さに由来すると考察すると(ママ)、どちらが真実であろうかと認定することは難しい」
 報告書を見ると加害児童から意見を聴取すべきという委員とすべきでないという意見が対立した結果、聴取しなかったということも分かりました。今回の第三者委員会の活動の問題点として、2つの問題点を指摘できます。

◆いじめの認定は可能

 第一は、加害児童からの聴取をしなくともいじめとの認定は可能であったということです。

 いじめ防止対策基本法においていじめとは「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と位置づけられました。

 国会審議において、いじめの定義について、より厳密な定義を置くべきとか、客観的に認められるものに限るとか、攻撃的という要件を入れるべきという意見もありましたが、最終的には、「いじめ」はあくまでいじめられた児童生徒の被害者の立場に立って判断をしていくべきであり、定義はできる限り範囲を幅広くすべきという与党案が採用され、2条が定められたという経緯があります。
よって、「行為を行う側が攻撃する意図を持ってその行為を行うかという点については定義上の要件とはしていない」(国会における答弁)、つまり、あくまで被害児童の立場にたって、その心理的影響によって判断することになっているのです。

 本件において、学校側の調査の際に加害児童が「自主的におごってもらった」と述べていることを理由に、いじめの認定を見送るという手法は、明らかに立法趣旨に反するものです。あくまで被害児童が当時どのような心理的影響を受けていたかについて、事実経過・金額の多寡などから認定すべきだったものです。
 この点、横浜市の岡田優子教育長が、市議会の委員会での質問に対して、「関わったとされる子どもたちが、『おごってもらった』と言っていることなどから、いじめという結論を導くのは疑問がある」と述べたそうですが、いじめ防止対策基本法の立法趣旨を全く理解していない答弁と言わざるをえません。

◆事実に迫る努力が極めて不十分

 二つ目はやはり加害児童から聴取すべきであったということです。第三者委員会がいじめとの心証を取れなかったというのですからなおさらです。

 この点、報告書は「児童の人権への配慮と教育的な意味を勘案して積極的に行う必要性に疑問を呈する意見があった」といいますが、加害児童の心情に配慮するのは当然でおって、そのために教育、法律の専門家だけでなく心理学の専門家も委員になってるのですから、非常に残念な対応だったと指摘せざるを得ません。
 ちなみに第三者委員会の委員は9名であり、教育(大学教授)2名、法律(弁護士)2名、心理(大学教授)2名、福祉(福祉大学教授)1名、医療(精神科医、児童相談所)2名になっています。第三者委員会としてかなり多い人数です。選任過程が分かりませんが、本当に適切な人選・人数であったのか、横浜市側のバイアスがかかっていなかったか、横浜市・学校から独立して自由に議論できていたのかも問われそうです。

 「中学校への進学を控えた」難しい時期だったというのも抗弁にはなりません。私が委員として関わった第三者委員会(福岡第三者委員会)でも、当事者は中学を卒業しており、他県で就職・進学している元同級生も多数いました。そこで学校の協力を得て夏休みの帰省時期に合わせて集中的に加害生徒及び加害生徒家族からヒアリングを実施しました。

 さらにアンケートさえ実施しなかったのも不可解であり、第三者委員会として事実に迫ろうとする努力が欠けていたように感じます(ちなみに、報告書が「真実」「真実」と連呼しているのも、資料に基づいて事実を認定するという姿勢に欠けるように感じられ、法律家が2名も参画しながら首を傾げたくなります)。
 例えば、福岡第三者委員会でも加害生徒・同級生が中学校を既に卒業していることからアンケートに対する回答がどの程度あるかは危惧しました。ですが出来る限りの調査を尽くそうとアンケートを実施したところ、多くの同級生から回答がありました。中には「卒業してこのようなアンケートは初めてだが、言いたいことがいえる機会があり良かった」という回答もあり、非常に参考になりました。
横浜第三者委員会の加害生徒らの教育を受ける機会を尊重したという言い分を前提にしても、アンケート調査は実施可能でしたし、実施すべきだったというべきでしょう。

 そもそも横浜第三者委員会は、「関係する児童の記憶が正確に再生できるかということについては、変容し曖昧になっていると推察され、小学校側から提出されたその当時の児童聞き取り調査資料以上のもおを期待することはできないと判断されることと、十分ではないかもしれない資料ではあるが、小学校側の提出資料でおおむね事実の確認ができると判断されたためである」という見解も問題です。

 どのいじめ自死事件でも事件から調査まで時間が経過して当事者の記憶が曖昧になっている可能性はあります。しかしだからといって調査委員会が当事者からのヒアリングなど事実調査を怠って良いということにはなりません。第三者委員会が自ら事実に迫る調査をする中で新たに見えてくる事実も必ずあるのです。
またいじめ自死事件では学校側が何らかの調査はしていることが大半です。ただ遺族がその調査に疑問を感じていることが多いからこそ、調査委員会が自ら調査をすることの意義があるのです。

 いじめ防止対策法律の審議過程について国会議事録を見ると様々なことがわかります
 被害児童側にたっていじめの有無を判断していくという制度趣旨・立法趣旨がまだ学校関係者ばかりか第三者委員会の委員を含む関係者の隅々にまで浸透していません。

 逆説的になりますが、学ぶことの多い第三者委員会の活動であったと言えそうです。