古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

「交通賠償実務の最前線」、医療過誤と交通事故の因果関係の違いとは

日弁連交通事故相談センター設立50周年

財団法人日弁連交通事故相談センターが設立して50周年を迎えました。

同センターは日弁連が設立母体となって、昭和42年9月に設立されたものであり、法律扶助協会に次ぐ二番目の日弁連関係団体になります。
平成24年4月に内閣府から認定を受けて公益財団法人となって平成29年9月に50年目を迎えたわけです。

日弁連交通事故相談センターが設立されたのは、昭和30年代後半に交通事故が急増するとともに事件屋・示談屋が跋扈して被害が発生したという社会状況がありました。

センターは全国の弁護士会に業務を委託し、各弁護士会は、電話相談、面談相談、高次脳機能障害相談、示談斡旋等を行っています。

50周年記念誌が発刊

この50周年を記念して「交通賠償実務の最前線」(ぎょうせい)が2017年9月、発刊されました。

「赤字の事業所得者の休業損害」、「東洋医学による施術費」、「女性の高額所得者の生活費控除率」、「外国籍の被害者」、「責任無能力者(未成年者)の監督者の責任」、「脳脊髄液減少症」など52の論点について最新の議論をまとめているほか、「雪道の交通事故における過失相殺率の認定・判断についての考察」や「改正民法と損害賠償実務」という論文も掲載され、読み応え十分な一冊になっています。

因果関係についての座談会

また50周年記念座談会として、「民事交通事故損害賠償における因果関係」について法律家による座談会が行われ、冒頭に掲載されています。

座談会の出席者は、加藤晋太郎氏(元裁判官・中央大学大学院法務研究科教授)、大島眞一(大阪家庭裁判所判事)、中西茂(東京高等裁判所判事)、新美育文(明治大学法学部専任教授)、高野真人(弁護士)、古笛恵子(弁護士・司会)。

元裁判官の立場、裁判官の立場、弁護士の立場から実務における因果関係判断の実情にコメントした後、各論についても意見交換しています。

交通事故事案と医療過誤事案との違い

その中で「交通事故事案と医療過誤事案との違い」という項もあり興味を引きました(49頁)。

交通事故賠償の世界では因果関係の問題と訴因減額の問題が同じ次元で語られることが少なくありません。素因減額のある交通賠償の世界と一般的には素因減額というのに余りなじまないと言われている医療事故の世界で因果関係の議論は全く同じなのか。

そういう問題意識で意見交換が行われています。

司会から「素因減額の法理を採用して以降、因果関係の認定がルーズとまではいわないが、緩やかになったのではないか」と問題提起されました。

それに対して、加藤晋太郎元裁判官は以下のようにコメントしています。

自賠責があるかないかという点が、判断する側のメンタリティーとしては違うところがあるように思います・・

交通事故訴訟は被害者救済が自賠責の目的ですから(因果関係を)認めた上で素因減額の手法により損害の公平な分担を図りバランスを取るという枠組みはできています・・

これに対して、医療過誤は、交通事故と違って立場の互換性がなく、医療側としては徹底的に争わなければいけないという面があり、因果関係も徹底的に争うことが多いので、審理もきちんとするし判断も精密になるという傾向があります。つまり、当事者の争い方によるところが大きいというところが指摘できるのではないかと思います。

医療訴訟では原告側主張の構成がポイント

交通事故専門部、そして医療過誤集中部の両方の経験がある大島裁判官は以下のようにコメントしています。ちなみに大島裁判官は「Q&A医療訴訟」(判例タイムズ社)という著書もあります。

医療訴訟というのは、結構難しいです。医療側に過失があったことがかなりはっきりした事案は、医療側は訴訟前に責任を認めて示談することが多いので、訴訟になる事件というのは大体医療側が真剣に争っている事件が多いと思います。

審理の結果、過失があるのだが、因果関係がよく分からないというような事案もあるのはあるわけで、その時にどうするかという問題が生じます。

その上で、加藤元裁判官は、医療過誤訴訟においては不作為の過失があるので、医療訴訟では原告側が主張の構成をどうしていくかが、交通事故訴訟よりもポイントになると指摘しています。

交通事故訴訟では道路交通法上の注意義務や過失相殺率を定めた別冊判例タイムズ記載の注意義務によってほぼ定型的に定まってきます。

これに対して医療過誤訴訟の場合、「予期せぬ重大な結果」を引き起こした機序は何か、機序から遡ってどのような問診・検査・診断・治療が必要だったのかという観点から第三者の協力医の意見に基づいて注意義務違反があるか、あるとしてどのような構成が妥当かを検討することになります。

因果関係についても交通事故訴訟でも問題になりますが、いわば定型的な争い方が多くなります。
これに対して医療過誤の場合は診療科毎に、医学的知見を前提にした上、患者の年齢・既往症・診療経過等に基づき、個別具体的な検討が必要になるため難易度が高まることになります。

交通事故訴訟と医療過誤訴訟の因果関係について余り意識的に比較検討することは少ないため、視点設定としては面白い座談会の内容でした。