古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

薬害対策弁護士連絡会(薬害弁連)とは、経験交流と連帯そして法律家の役割の継承を目指して

薬害対策弁護士連絡会(薬害弁連)とは

 薬害対策弁護士連絡会(薬害弁連)とは、薬害訴訟の経験を持つ全国の薬害弁護団や薬害・医療に造詣の深い弁護士らが参加し、2005年8月24日に設立されました。
 全国から70名近い弁護士が参加しています。
 弁護団としては薬害肝炎弁護団、薬害スモン、薬害HIV、薬害ヤコブ病弁護団、薬害イレッサ弁護団、HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団が加入しています。

 薬害被害救済事件の法的論点の研究、薬害被害救済事件の相互支援、薬害被害救済及び再発防止実現のための諸活動を目的としています。
 私も2005年の設立以来、幹事の一人として加入しています。

薬害弁連の役員(2021年8月時点)
 代表      鈴木利廣 
         豊田誠
         中島晃    
 事務局長    山西美明
 事務局長代行  服部攻志
 会計      西念京祐

薬害弁連の活動

 設立された2005年10月には新人弁護士向けに薬害訴訟ガイダンスを開催。その中から薬害肝炎弁護団や薬害イレッサ弁護団に加入した弁護士もあり、着実に活動の輪を広げています。

 そのほか年1回、8月24日の薬害根絶デーの前後に総会を開催するほか、メーリングリストなどで意見交換・情報共有を行っています。

 2005年の設立以来の大きな活動の流れは以下の4期に分けられます(分類は、薬害弁連代表の鈴木利廣弁護士による)。

 第1期は、薬害肝炎と薬害イレッサという活動中の弁護団による定期的な意見交換が中心でした(2005年から2008年まで)。
 2005年というと全国5地裁で審理する薬害肝炎訴訟が佳境を迎え、全面解決に向かう時期ですので、薬害弁連でも様々な意見交換をしたことを思い出します。

 第2期は、薬害イレッサ訴訟の支援を中心に活動しました(2013年まで)。

 第3期は、HPVワクチン薬害についての調査・研究に取り組んだ時期にになります。

 第4期は、HPVワクチン薬害訴訟の支援を中心にしつつ、薬害弁連の意義や目的に応じた活動を目指している時期になります(2016年以降)。

モデルケースとなった公害弁連

 薬害弁連結成のモデルケースになったものの一つに全国公害弁護団連絡会議(公害弁連)があります。

 公害弁連は、全国各地で展開されている公害、環境、大型公共事業などを巡る裁判の弁護団の横断的な組織です。

 1972年1月に公害研究集会が開催されました。
 この研究集会の成果をふまえて、公害弁連は、裁判実務に即したより実践的な法理論の構築、弁護団相互の経験交流と支援体制の確立、被害者・支援団体・研究者との連携の強化を目的にして設立されました。
 1972年といえば、前年のイタイイタイ病、新潟水俣病判決につづき、四日市判決が言い渡されようとしている時期。全国各地の弁護団が結集して被害者運動の団結とを図っていく一助になりました。

 結成以来、公害弁連は水質汚濁、土壌汚染、大気汚染、空港・基地騒音、新幹線公害、食品公害、薬品公害、道路公害の分野にも活動の範囲を拡げ、近年はゴミ・廃棄物問題、ダイオキシン問題も取り扱っています。

 このように公害弁連は、全国の様々な公害環境問題の弁護団が加盟するものですが、薬害弁連は公害弁連の活動を参考にしつつ、弁護団だけではなく、個別の弁護士の参加も認めて、より柔軟かつ機動的な連絡会としての活動を行っています。

薬害弁連結成の経緯

 薬害弁連結成の経緯は、2004年8月24日の薬害根絶デーに開催された「薬害対策弁護士交流会」に始まります。

 東京HIV訴訟弁護団 ・薬害ヤコブ訴訟弁護団 ・薬害肝炎東京弁護団が呼びかけ団体として「法律家の役割を考える」とする集会を開催することになりました。

 我が国では、サリドマイド、スモン、クロロキン、薬害エイズ、薬害ヤコブ、薬害C型肝炎、MMR被害、薬害イレッサなど薬害が繰り返されてきました。

 薬害根絶のための「誓いの碑」が199年8月24日に厚労省玄関脇に建立されたことをきっかけにして、薬害事件の被害者は、全国薬害被害者連絡協議会を結成。
 連帯しながら薬害根絶のための粘り強い活動を続け、独立行政法人医薬品医療機器総合機構の安全対策・救済等の審議機関に複数の代表を参加させる等の成果もあげています。

 この点、私達弁護士も、薬害訴訟について先人の教えに学びつつ、各自の独自の工夫を重ねながら今日に至っていますが、経験の交流と連帯という点では、薬害被害者に一歩先を越されているところがありそうです。
 また、薬害問題に関する法律家の使命と役割についても、後輩弁護士達に必ずしも伝えきれていないという反省もあります。

 以上の問題意識のもと、薬害訴訟に関わりをもった弁護士が集まり、経験を交流し、また、薬害訴訟の現状と薬害根絶活動に果たすべき弁護士の役割等について、語り合う機会を設けることになったのが2004年の「薬害対策弁護士交流会」でした。

 薬害対策弁護士交流集会における意見交換を通じて、薬害対策弁護士連絡会を立ち上げていくことが確認されました。

 2004年12月1日に第1回準備会が開催され、その後も2005年2月24日に第2回準備会、同年5月17日に第3回準備会、同年7月5日に第4回準備会、同年8月4日に第5回準備会を経た上、薬害弁連は2005年8月24日に正式に発足したものです。

 遅ればせながらスタートした薬害にかかわる弁護士の連携は社会的にも注目され、下記のように各メディアで報道されています。

薬害弁護士連が発足

 薬害エイズやヤコブ病、サリドマイドなどの薬害訴訟にかかわってきた弁護士らが連携して24日、組織的に薬害問題に取り組むための「薬害対策弁護士連絡会」(薬害弁連)を発足させた。過去の訴訟で培った経験や情報を共有し、被害者の早期救済や再発防止策の整備などを進めるのが狙いで、都内で開かれた設立総会には全国から約40人の弁護士が集まった。

 国内の薬害問題をめぐっては、旧厚生省が1999年8月24日、薬害根絶を目指した「誓いの碑」を同省庁舎前に建立。これを機に被害者団体などが8月24日を「薬害根絶デー」として、毎年国への要望活動などを行っており、薬害弁連もこの日に合わせて設立総会を開いた。

 総会では、▽法理論の研究▽被害の掘り起こし▽被害者団体との連携--などを進めていくことで合意。代表には、薬害スモン訴訟に携わった豊田誠弁護士ら3人が就任し、今後、定期的に会議を開いて情報交換を進めることを確認した。

2005年8月25日・読売新聞

薬害:「薬害弁連」結成 根絶に向け全国から結集--きょう

 薬害エイズやスモン、サリドマイドなどこれまでの薬害訴訟で培ってきたノウハウを被害の防止や早期救済に役立てようと、薬害に詳しい全国の弁護士が結集する「薬害対策弁護士連絡会」(薬害弁連)が24日、設立される。弁護士同士の個人的なつながりで受け継がれてきた情報を組織的に蓄積し、薬害問題解決のシンクタンク的な役割を担うことを目指す。薬害弁連には肝炎、イレッサ、ヤコブなどの薬害訴訟の弁護士も加わり、数十人規模でスタートの見通し。

 すでに解決した薬害事件や継続中の訴訟にかかる弁護士が昨年8月、初めて交流会を開いた。繰り返される薬害の被害をなくすためには、経験のある弁護士が情報交換する場をつくり、知恵を生かす必要があるとの認識で一致。会合を重ねてきた。その結果、薬害弁連の課題として(1)審理期間の大幅短縮など、早期救済への訴訟上の工夫(2)恒久対策づくりなど裁判後の被害者支援(3)厚生労働省などの行政機関に対する再発防止策の提言--などが挙げられた。24日に開く「薬害根絶デー」に合わせ、東京都内で設立総会を開く。

2005年8月24日・毎日新聞・江刺正嘉

薬害弁連の具体的活動

 こうして2005年8月、薬害弁連が正式に設立されました。

 その後、薬害弁連は随時、各訴訟の情報を共有しながら、様々な問題についてアプローチしています。
 前記の通り、4期にわかれた活動に整理できますが、いくつか取り上げてみましょう。

第1期の活動

 第1期には、野間啓弁護士を中心に研究会を開催。2005年10月3日に第1回研究会、2006年1月18日に第2回研究会が開催されました。また2007年4月11日には薬害イレッサ弁護団の水口弁護士の提案で「有用性研究会」も開催しました。
 2006年2月24日には薬害弁連学習会を行い、「感染病の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律案」、「薬事法の一部を改正する法律案」、「胎児死亡と医薬品副作用被害救済」、「承認条件と添付文書の記載と国賠法上の違法」を取り上げて、意見交換を行いました。学習会には薬害弁連の弁護士以外に、司法修習生や薬被連からも参加しました。

 東京・大阪にて新人弁護士ガイダンスも開催しました(新人弁護士向けのガイダンスや講演等は、開催地を名古屋や京都にも広げ、その後も現在に至るまで随時実施しています)。

 2006年10月10日の薬害弁連幹事会から、薬害肝炎弁護団が利用していたテレビ電話会議システムを活用して、全国の弁護士をつないで会議を行えるようにもしていきました。
 今ではZOOMやマイクロソフトチームズ等にて簡単にweb会議できますが、当時は費用もそれなりにかかり大変でした。集団訴訟弁護団でテレビ電話会議システムを本格的に活用したのは薬害肝炎弁護団が最初だと思います。
 薬害肝炎全国弁護団は、2006年の大阪地裁判決を目前に控えた2006年3月、勝訴判決を念頭に随時全国で会議していけるようにテレビ電話会議システムの導入を決めました。

第2期の活動
 第2期には薬害イレッサの東京高裁判決に対して抗議声明を出しました。

イレッサ判決に薬害弁連が抗議声明―「医薬品安全対策の原則を否定」

肺がん治療薬「イレッサ」の副作用をめぐる訴訟で、「国と企業に賠償責任はない」とした東京高裁判決に対し、薬害対策弁護士連絡会(鈴木利廣代表)は16日、「医薬品安全対策の大原則である予防原則を根底から否定する判断だ」とする抗議声明を発表した。
東京高裁判決では、間質性肺炎が抗がん剤の一般的な副作用であり、がん専門医であれば、致死する可能性も認識できたなどとして、添付文書(第1版)に欠陥はないとされた。また、民事損害賠償訴訟では、医薬品と副作用報告との因果関係の程度を評価した上で、違法性を判断するとの判断も示された。
声明では、「『因果関係がある可能性または疑いがある』副作用に対してこそ、十全な安全対策が求められる」とし、国と製薬企業には、この予防原則に基づいた安全対策が薬事法で求められていると指摘。民事損害賠償訴訟上も、両者に課された義務だと主張している。
さらに、「被害の責任を現場医師に押し付けている」として、「東京高裁判決の論理によれば、もはや薬害を防止することはできない」と訴えている。

2011年11月17日・CB医療介護ニュース

 2012年11月15日には、薬害弁連の拡大幹事会において、「審議革命~英国の公職任命コミッショナー制度に学ぶ」(日隅一雄編訳・青山貞一監修・現代書館)をベースに勉強会を行いました。


第3期の活動

 薬害弁連は2013年10月5日、、薬害弁連拡大幹事会を開催して、子宮頸がん問題を取り上げました。そして薬害弁連としても医師・被害者を交えた学習会や海外含めた文献収集などの調査・研究を開始していくことになりました。

 同年11月9日の学習会の開催、研究会の立ち上げ、記者会見と110番の実施を経て、薬害HPV弁護団への結成とつながっていきました。

第4期の活動

 現在、全国で薬害HPV訴訟が継続しており、薬害弁連としてもHPV訴訟の支援を中心に活動を継続しています。

薬害弁連の成果と課題

 2005年の結成以来、薬害弁連は、薬害弁護団や弁護士らが連携しつつ各訴訟の支援や情報共有を行い、各訴訟のポイントの時期には声明を出すなど、一定の成果を出していると思います。

 また新人ガイダンスや学習会を開催し、薬害問題に関心を持った司法修習生の中からは後日、弁護団に加入する弁護士も出てきました。
 その意味で薬害訴訟のノウハウ・知識・経験の承継にも一役買っているといえるでしょう。

 弁護士の意識と活動はどうしても現在、動いている事件に労力を割くことになりがちですが、医療制度の問題など中長期的な薬事行政の課題について目を向けていくためにも、薬害弁連の地道な活動は今後ますます重要になっていくでしょう。

関連記事

 ・薬害弁護士交流集会

参考文献

 ・薬害肝炎裁判史(日本評論社・薬害肝炎全国弁護団編)
 ・集団訴訟実務マニュアル(日本評論社・古賀克重)
 ・知っておきたい薬害の教訓(薬事日報社・医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団)
 ・薬害エイズ裁判史(日本評論社)

集団訴訟マニュアル

外部リンク

 ・薬害対策弁護士連絡
 ・全国公害弁護団連絡会議
 ・公害弁連ニュース
 ・全国薬害被害者団体連絡協議会