古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

京都大学病院に1億3500万円の賠償命令、抗菌薬の投薬を怠り29歳女性が髄膜炎菌感染症で死亡

京都大学病院に1億3500万円の賠償命令

血栓症を予防する薬剤「ソリリス」の投与を受けていた女性患者が髄膜炎菌感染症による敗血症で死亡したケースについて、京都地方裁判所が京都大学病院に対して、新薬の添付文書に従い、女性の容体悪化後、速やかに抗菌薬を投与していれば救命できた蓋然性が高い」として、1億3500万円の賠償を命じました。

髄膜炎菌感染症とは

髄膜炎菌感染症とは、グラム陰性球菌である髄膜炎菌(Neisseriameningitidis)による感染症です。潜伏期は2~4日。

病初期に適切な抗菌薬が投与されれば予後は良好であることが多いと言われています。
しかし治療開始のわずかな遅れ、あるいは初期治療で抗菌薬の選択が不適切であった場合には死亡を免れても高度の知能障害、発達遅滞、てんかんなどの重篤な中枢神経障害を残すのが注意が必要です。

本件医療事故において、京都地裁判決が速やかに抗菌薬を投与しなかった不作為と結果との因果関係を認めたのはこのような医学的知見に基づくものと思われます。

なお髄膜炎の中でも、化膿性性髄膜炎(細菌性髄膜炎)ではなく、結核性髄膜炎は治療成績は悪く、30%程度に後遺症が残ったとする報告も見受けられるところです。

ソリリスの添付文書

2020年12月に改訂された添付文書では、髄膜炎菌感染症を発症することがあり、疑われる場合には抗菌薬の投与等の適切な処置を行うように警告されています(なお本件医療事故は2018年)。

 警告
本剤の投与により、髄膜炎菌感染症を発症することがあり、死亡例も認められているため、以下の点に十分注意すること。

本剤の投与に際しては、髄膜炎菌感染症の初期徴候(発熱、頭痛、項部硬直等)に注意して観察を十分に行い、髄膜炎菌感染症が疑われた場合には、直ちに診察し、抗菌剤の投与等の適切な処置を行うこと。

緊急な治療を要する場合等を除いて、原則、本剤投与前に髄膜炎菌に対するワクチンを接種すること。必要に応じてワクチンの追加接種を考慮すること。

髄膜炎菌感染症は致命的な経過をたどることがあるので、緊急時に十分に措置できる医療施設及び医師のもとで、あるいは髄膜炎菌感染症の診断及び治療が可能な医療施設との連携下で投与すること。

髄膜炎菌感染症のリスクについて患者に説明し、当該感染症の初期徴候を確実に理解させ、髄膜炎菌感染症に関連する副作用が発現した場合には、主治医に連絡するよう患者に注意を与えること。

裁判例

「髄膜炎」については医療過誤の裁判例が少なくありません。

例えば、髄膜炎の診断についてルンバール検査不実施を理由に医師の責任を認めた裁判例が散見します。

東京地裁平成9年3月24日判決(判例タイムズ953号24頁)は、髄膜炎の可能性が高くない場合でも、髄膜炎の予後は重大で急激な進行の危険があるから確定新d何を積極的に行うべきであるとし、髄膜炎症状がみられない場合でもルンバール検査を実施すべきと判断しています(注:ただしルンバール検査について明確な診断基準が確立されているわけではありません)。

 平成28年、京都大病院で血栓症を予防する薬剤「ソリリス」の投与を受けていた女性=当時(29)=が死亡したのは、副作用の感染症が発症した際に適切な治療が行われなかったのが原因として、女性の夫(40)らが京大と担当医師らを相手取り計約1億8750万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が17日、京都地裁であった。野田恵司裁判長は「医師が適切に抗菌薬を投与していれば救命できた可能性が高い」として、京大側に計約1億3500万円の損害賠償の支払いを命じた。

判決によると、女性は妊娠中に血栓症になる危険性のある疾患「発作性夜間ヘモグロビン尿症」で、妊娠に伴い28年4月から、同病院でソリリスの投与を受けていた。出産後の同年8月22日、ソリリスの副作用で「髄膜炎菌感染症」を発症し同病院を受診したが、その後容体が悪化し死亡した。

判決で野田裁判長は、医師が副作用で感染症が起こり得ることを認識していたとした上で、「診察後に速やかに抗菌薬を投与せず、経過観察としたのは注意義務に違反する」として京大側の過失を認めた。

夫は「主張が認められほっとした。再発防止に努めてほしい」と話した。京大側は「判決を確認していないのでコメントは差し控える」としている。(2/17付産経新聞)