古賀克重法律事務所ブログ

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低酸素脳症をきたした死亡事案で看護師に生体情報モニタのアラーム設定確認の過失を認めた判決

事案の概要~生体情報モニタ設定を誤り見落とし

 くも膜下出血のために入院していた患者(当時66歳・男性)が、低酸素脳症をきたしていわゆる植物状態になり、その後に死亡したという医療事故です。

 患者遺族は東京地裁に提訴して、本件病院の医師又は看護師が生体情報モニタのアラーム設定を誤ってこれを見落した過失、鎮静剤を不適切かつ過剰に投与した過失、亡Cの監視・観察を怠った過失があったほか、上記モニタ及びその管理システムを製造・販売した被告に、製造物責任法における仕様設計上の欠陥ないし不法行為における過失、同法における指示・警告・説明上の欠陥ないし不法行為における過失があったなどと主張した事案になります。

裁判所の判断

 東京地裁は、本件病院の医療従事者が生体情報モニタのアラーム設定を誤り、これを見落とした過失があるとして、本件病院の注意義務違反を下記の通り認めました(東京地裁令和2年6月4日判決・判時2486・74)。

 まず東京地裁は、「くも膜下出血を発症して本件病院のSICU(外科系の集中治療室)、SHCU(外科系の高度治療室)に入院していたのであるから、その病態自体からして再出血を来すなどして容体が急変する危険性があったばかりか、再出血を防止するために十分な鎮静が必要とされていたのにもかかわらず、既往症である統合失調症の影響と思われる不穏な言動が見られたことなどから、鎮静剤として成人投与量の上限であるフルニトラゼパム1回2mgのほか、ニトラゼパム1回5mgが併用投与されていたところ、これらの薬剤には呼吸抑制の副作用があるとされていたから、本件病院の医療従事者には、亡Cの血圧動向に注視するのみならず、その呼吸状態にも気を配り、それらの急激な悪化があったときには、すぐにそれらを察知することができるように監視すべき注意義務があったというべきである。」として注意義務の存在を認めました。

 そして、「バイタルサインの把握については、看護師による見回りや目視による確認には限界があるから、医療機器に頼らざるを得ないし、医療機器の方が経時的かつ正確にこれを把握することができるという利点があるところ、本件病院においては、1日2回、ベッドサイドモニタのアラーム設定画面を開いて、その設定内容を確認するよう求められていたのであるから、本件病院の医療従事者には、亡Cの急変に備え、そのベッドサイドモニタのアラームを医師の指示どおりに設定するとともに、その設定が維持されているかについて継続的に確認すべき注意義務があったというべきである。」と判断しました。

 その上で裁判所は、大学病院に注意義務違反があると判断したものです。

 本件病院の看護師は、亡CのSHCUへの転床に伴って、一度はH医師の指示どおりにSPO2やAPNEA(無呼吸)等のアラーム設定をONにしたものの、その後に行われた電子カルテの転床操作によって再度SPO₂、APNEA(無呼吸)、呼吸数等のアラームがOFFとなったことを看過し、かつ、上記のとおり1日2回にわたってアラームの設定内容を確認することが求められていたのに、3月25日午後4時頃に上記アラームがOFFに設定されてから同月30日午後5時頃に亡Cが急変するまでの約5日間にわたって、誰も上記アラームがOFFに設定されていたことに気付かなかったのであるから、本件病院の医療従事者には上記注意義務を怠ったことについて過失があったと認められる。

アラーム機器の製造物責任の有無

 なお、本件の特殊性は、原告がアラーム等の機器の製造物責任についても請求したところにあります。

 これは本件病院側が、ベッドサイドモニタのアラーム設定がOFFに上書きされたのは、医療機器に仕様設計上又は指示・警告上の欠陥等があったからであり、病院には責任がないなどとの主張をしていたからだと推測されます。

 この点については、東京地裁は、「本件各仕様は、転床前後でアラーム等の設定値に変更がない場合が多いことを想定し、従前の設定をそのまま引き継ぐことを基本として、変更が必要であれば転床操作後に行えば足りるという考え方に基づいて採用されていると推認されるところ、その考え方が不合理であるとか、通常有すべき安全性を欠くと認めるべき根拠はないし、転床のたびに上書きの有無について確認又は選択することは、かえって混乱を招きかねず、効率性を妨げる可能性もあるから、本件各仕様が仕様設計上の欠陥等に当たるとは認められない」等として、製造物責任法又は不法行為に基づく損害賠償請求は理由がないと判断しました。

 そして裁判所は、仮に上書きされたことについて本件病院の医療従事者には認識がなく、その責任がなかったとしても、アラームの設定内容が維持されていることを継続的に確認すべき注意義務を免れるものではないと判断したものです。

 本東京地裁判決は病院側から控訴なく一審で確定しています。

ポイント

 入院中の重篤な患者や高齢者に対しては、モニターを装着して観察することが行われます。

 ただ入院患者のモニターは設定いかによって何らかのアラームが頻繁に鳴ってしまうことが多いと言われます。
 その結果、医療従事者、特に看護師が日常の慣れから関心が落ちてしまし、アラームに対する対応が遅れがちになることも見受けられるということです。

 例えば、神戸地裁平成23年9月27日判決(判タ1373・209)は、入院中の患者が呼吸停止状態に陥って植物状態になり、敗血症等により死亡した場合、心拍数モニターに係るアラームに気付かなかった看護師に過失があったとして、病院側の責任を認定しています。

 医薬品医療機器総合機構(PMDA)の発行する「医療安全情報」でも、セントラルモニタ、ベッドサイドモニタ等の取扱い時の注意点が取り上げられています。

 例えば、「適正なアラームの設定」として、心拍数や不整脈のアラームは患者の病態に応じて適宜、設定を変更することによって、頻繁なアラームを減らすことができると指摘されています。
 また、患者ごとにベットサイドモニタ等の必要性をチームで検討し、アラームが鳴動した際の基本的な対応方針を明確にすることも指摘されてます。

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外部リンク

 ・セントラルモニタ、ベッドサイドモニタ等の取扱い時の注意点(PMDA)