古賀克重法律事務所ブログ

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気管切開チューブ逸脱・迷入による死亡が6例、日本医療安全調査機構が医療事故の再発防止に向けた提言4号を公表

医療事故の再発防止に向けた提言4号

 日本医療安全調査機構が、医療事故の再発防止に向けた提言4号「気管切開後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析」を公表しました。

 気管切開術は、患者の生命維持および生活の質向上のために実施される侵襲的医療行為です。ですが人工的な気道として使用される気管切開チューブは、閉塞したり抜けたりする可能性を有していて、場合によっては換気が困難になり生命の危険に陥ることになります。

 また単に気管切開チューブ逸脱・迷入によって死亡するケースだけではなく、抜けかかった気管切開チューブを戻そうと押し込むことや、逸脱・迷入した気管切開チューブから強制的に陽圧換気を行うことによって、皮下気腫・縦隔気腫・緊張性気胸に至って死亡するケースもあります。

 つまり迷入しかかった状況における対応によって、患者の病態が悪化していることも分かってきたのです。

 今回集積された事例としては下記のようなものが報告されています。

70歳代女性。慢性腎不全、低栄養、解離性大動脈瘤で大動脈弁置換術後の患者
・気管切開術12日後、集中治療室で体位変換を実施した際に、気管切開孔から気管切開チューブのカフが見え、気管切開チューブが右側に傾いたため、位置修正を試みたが気管切開孔から出血。最終的に気管切開孔より気管切開チューブを再挿入したが、低酸素状態となり、逸脱後7日目に死亡。

60歳代男性。橋出血発症後、肺炎合併の患者。
・気管切開術当日、集中治療室で体位変換の10分後、頸部から前胸部にかけて皮下気腫を発見。吸引カテーテル挿入困難、声漏れあり。経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)が低下し、気管切開チューブを介して加圧換気するが送気不能。気管切開チューブを抜去し気管切開孔から経口用の気管チューブを挿入するが、同日死亡。

40歳代男性。脳膿瘍、重症肺炎の患者。副腎皮質ホルモン薬使用中
・・気管切開術 7日後、予定していた気管切開チューブ交換を実施。その2日後、車椅子移動時に気管切開チューブが 1cm 程度抜け、気管支鏡下に気管切開チューブを再挿入。再挿入の当日夜間に一般病棟に転棟後、ベッドアップし、経腸栄養施行。約1時間後に気管内吸引をした。吸引後10分で分時換気量低下アラームが鳴り、その1時間後に患者の発声あり。次第に呼吸苦を訴え、皮下気腫が出現。低換気となり、気管切開チューブの挿入を試みるが気道確保できずに、呼気リーク上昇後約2時間で死亡。

再発防止に向けた提言

 事例を見ると、医療従事者が気管切開術後、2週間程度は気管切開チューブが逸脱しやすいことを認識して、患者移動や体位変換に注意することが求められています。

 そこで以下のような提言がなされています。

  気管切開術後早期の患者移動や体位変換は、気管切開チューブに直接張力がかかる人工呼吸器回路や接続器具を可能な限り外して実施する。

 「カフが見える」「呼吸状態の異常」「人工呼吸器の作動異常」を認めた場合は、気管切開チューブ逸脱・迷入を疑い、吸引カテーテルの挿入などで、気管切開チューブが気管内に留置されているかどうかを確認する。

 気管切開術後早期に気管切開チューブ逸脱・迷入が生じた場合は、気管切開孔からの再挿入に固執せず、経口でのバッグバルブマスクによる換気や経口挿管に切り替える。

 気管切開術後早期の気管切開チューブ交換は、気管切開チューブの閉塞やカフの損傷などが生じていなければ、気管切開孔が安定するまで避けることが望ましい。

 気管切開チューブが抜去等すると、生命維持ができないわけですから死亡を含む重大な結果が発生します。その意味でも、極めて基本的な事項ですが、院内での安全教育の推進も求められています。

医療過誤とされた事例

 基本的な経過観察義務違反によって重大な結果が生じることが多いため、医療過誤ではないかという医療相談に結びつきやすい類型にもなります。

 例えばウイルス性脳炎で錯乱状態にあった患者を鎮静させ、筋弛緩剤を投与した上で気管切開をして人工呼吸管理をしていたところ、カニューレが気管が抜け出したため換気障害を起こして患者が死亡したケースんにおいて、神戸地裁姫路支部平成8年3月11日判決は、カニューレの装着又は管理上の過失を認定しています。

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