古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

脂肪注入術による豊胸手術の効果について説明義務違反を認めた裁判例

◆脂肪注入術による豊胸手術について説明義務違反を認めた裁判例

 脂肪注入術による豊胸手術の効果について、電話での事前説明が不適切であったが、手術当日における説明が適切に行われた場合、医療機関は説明義務違反があるとして法的責任を負うのでしょうか。

 東京地裁平成25年2月7日判決は、説明義務違反を認めて、295万円の支払いを医療機関に命じました。

 事案は、豊胸目的で入れていたインプラント(シリコンバック)を抜去して、大腿部から吸引した脂肪を注入する手術を受けたものです。

 脂肪注入術による豊胸効果は、吸引できる脂肪の量、注入した脂肪の生着率によって個人差がありますから、「手術の効果は確実です」と宣伝したり、その旨説明すれば、説明義務違反が認められる可能性は極めて高いでしょう。
 本件判決もこのような考え方を前提にしています。

◆事案の特殊性

 本件の特殊性は、予約段階における電話による事前説明は不十分だったけれども、手術当日には、看護師から「注入した脂肪は100%正着するものでない」という説明を受けたものです。

 本件患者は電話による説明を信じて手術のために上京し、手術当日にキャンセルすればキャンセル料が100%かかるという状況でした。

 実際、当日の説明を受けた患者が手術を辞めたいと述べたにもかかわらず、看護師が、「申込書にサインするまでは医師に会えない」、「既にローンの支払い終わっているのでキャンセルできない」、「当日のキャンセルはキャンセル料が100%かかる」と説明して、手術申込書にサインさせています。

 東京地裁は、「このようなキャンセル料が規定されている場合、手術実施当日に、実施予定の手術の内容、効果、不随する危険性等について必要な説明を行ったとしても、その規定を知らされた患者は、当該手術を受けないという選択をしても、当該手術を受けた場合と同額かつ相当高額なキャンセル料(173万円)を支払わなければならないと考えるのが通常であり、手術当日に説明を受けた時点では、患者はもはや当該手術を受けるか否かという意思決定を適切に行えないか、これが著しく制約されることになる」と判示しました。

 その上で、「手術を受けるか否かという意思決定を適切に行うためには、キャンセル料が発生するよりも相当期間前に、必要とされる術前説明が尽くされていなければならないというべきである」と判断したものです。

 事例判断とはいえ、美容整形においては手術前に時間的余裕があることが通常であることから、他の医療行為よりも高度の注意義務・説明義務を医療機関に課すという裁判例の流れに沿ったものとして参考になるでしょう。
 なお損害額としては、手術費用・交通費239万0370円、医療費1万8195円、慰謝料30万円、弁護士費用25万円が認定されています(被告控訴)。

◆豊胸術における法的責任とは

 豊胸術にはいくつかの方法があり、ヒアルロン酸、シリコンバッグ、自家脂肪移植が主流になっています。

 この点、シリコンバックによる豊胸は、効果が持続し、乳房に大きな変化を期待できる方法とされています。一方において、カプセル拘縮、インプラントの位置異常、破損、感染症などの合併症も数多く報告されているところです。

 そのため、手術前の説明内容が豊胸術の限界(主観との相違)をふまえたものだったか、合併症などのリスクについても十分に説明していたか、豊胸術の手技として妥当だったか、合併症が発症した後の経過観察や診断・治療が相当だったのかなどが問題になってきます。

◆古賀克重法律事務所の解決事例

 私が担当した事案から一例ご紹介します。
 シリコンバック挿入による豊胸手術を受けた患者が度重なる再手術を余儀なくされてしまったという事案です。

 医療機関側が、患者の胸に拘縮が発生した際にも、「しばらく様子を見れば大丈夫」などその場しのぎの説明を繰り返したため、解決が長引きました。結局、再手術が必要になりましたが、そのリスクの説明も不十分でした。

 私が示談交渉から依頼を受けて、美容整形側と交渉したところ、責任を認めるに至ったものです。

 損害額については当初開きがありましたが、最終的に500万円強(通院慰謝料・休業損害。なお慰謝料では争いのある後遺障害について考慮)にて双方が歩み寄って示談が成立ました。

 詳細は「シリコンバック挿入による豊胸手術の手技ミスにより再手術を余技なくされた」を参照してください。