東京高裁 令和3年12月2日判決
車両離合時の軽微接触による頚椎捻挫等の受傷は、プロの格闘家で外力に対する抵抗力が通常の者より強い等からも通院を要する傷害を負ったとは認められないと否認した
解説
【事案の概要】
信号交差点を左折したところ、左折先の道路で停止していた対向貨物車が前進してきて接触し、頚椎捻挫及び左肘部打撲の傷害を負ったとする事案です。
原告(30代・男子)は3か月通院し、車両も損傷したとして、物的損害含めて約140万円の支払いを求めて訴えを提起した事案です。
【裁判所の判断】
原審は、本件事故による受傷を認定し、事故後20日で症状固定と判断していました。
これに対して、控訴審である東京高裁は、「Y車が低速でその右フロントタイヤをX車の右側後部に押し込むように1回接触したものであって、このような事故態様からすれば、Xが受けた衝撃はかなり小さいものであったと認められること、本件事故は、狭い道路で車両同士のすれ違いの際に発生したものであり、Xは、当然に他方の車両であるY車の動向を注視していたものと考えられることからして、およそ不意を突かれた予測不能な事故とは異なること、そして、Xは、プロのキックボクサーであり、そもそも外力に対する抵抗力が通常の者より強いと考えられること」を指摘しました。
さらに、東京高裁は、「Xは、本件事故の翌日以降頸部痛を訴えて通院していながら、当初は警察に本件事故を物損事故として届け出ており、人損事故に切り替えてくれるよう申し出たのは本件事故から約1か月半後であったこと、XがプロのキックボクサーであることやXが本件事故以前にも数回交通事故に遭っていることからすると、本件事故以外にもXの頸部痛等の原因は考えられる」ことを指摘した上、「Xが本件事故の翌日以降通院しているとの事実があるとしても、Xが本件事故により通院を要するような頚椎捻挫や左肘打撲の傷害を負ったと認めることはできない」として、Xの受傷を否認しました。
【ポイント】
一審と控訴審で評価が分かれた事案です。
控訴審は事故の態様と被害者の個性(プロのキックボクサー)であることを重視して心証を形成したものと思われます。
離合時の接触事故は千差万別であり、一概に軽微事故であるから人身被害ないとはいえません。一方、事案によっては様々な間接事実を拾い上げて、受傷の有無について検討する必要がでてきます。