金沢地裁 令和4年7月28日判決
頸椎捻挫等から自賠責14級9号認定の後遺障害を残す原告の人身傷害保険金請求は、本件事故により原告に医学的他覚所見を伴う後遺障害が生じたとは認められないとして保険金請求を棄却した
解説
【事案の概要】
原告(50代男性)は、普通乗用車を運転して走行中、電柱に衝突する自損事故を起こし、頸椎捻挫等の傷害を負い、約1年間通院し、頸部症状から自賠責14級9号認定の後遺障害を残したことから、自動車保険契約を締結する損保に対し、人身傷害保険金約126万円を求めて訴えを提起したものです。
裁判所は、本件事故により原告に医学的他覚所見を伴う後遺障害が生じたとは認められないとして、保険金請求を棄却しました。
【裁判所の判断】
裁判所は、B病院の医師は、初診時及び終診時のいずれの時点においても他覚的所見が認められない旨の意見を述べ、また、同病院における診療録からも原告の訴える症状を裏付ける異常所見は窺われないことに加え、原告は、本件事故の前から疼痛を訴えていることからすれば、B病院診断書に記載された傷病名や症状等が本件事故により生じたもので医学的他覚所見を伴うものとは認められないとしました。
そして、B病院診断書から、本件事故により原告に医学的他覚所見を伴う後遺障害が生じたと認めることはできないとしました。
また原告は、C大学病院診断書を提出して異常所見を主張しましたが、裁判所は、C大学病院診断書は、本件事故から約1年が経過した時点で作成されたものであり、それ以前に作成されたB病院診断書からは、原告に医学的他覚所見の伴う後遺障害が生じたと認められないことからすれば、C大学病院診断書に記載のある傷病名、自覚症状及び検査結果等が本件事故により生じたものとは直ちに認められないとしました。
そして、B病院の診療経過において、握力、背筋力、立位体前屈、挙上検査についての異常所見は認められず、むしろ、同病院診断書には、頸椎部の運動障害として、前屈30度、後屈0度、右屈20度、左屈20度、右回旋40度及び左回旋40度と記載されており、C大学病院診断書作成時点における頸椎部の運動障害の程度は、B病院診断書作成時点より悪化していることからすれば、C大学病院診断書作成時点の運動障害は、本件事故後の事由によるものである可能性も否定できないとしました。
さらに、C大学病院診断書に理学的検査において異常所見が認められる旨の記載があるとしても、それらの所見が本件事故によるものであるとは認められず、同診断書から本件事故により原告に医学的他覚所見を伴う後遺障害が生じたと認めることはできないとしました。
以上により、裁判所は、本件事故により原告に医学的他覚所見を伴う後遺障害が生じたと認めることはできず、原告の後遺障害についての人身傷害保険金の請求は認められないと判断したものです。
なお、本判決は確定しています。
【ポイント】
人身傷害保険金において、請求者は医療機関の後遺障害診断書に基いて請求するものの、治療経過に整合しなかったり、診療録の記載と矛盾していたり、他の医療機関の診断と整合しないケースは少なからずあります。
本件も「医学的他覚所見」ないと認定して、保険金請求を棄却したものになります。