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交通事故 裁判例・解説

古賀克重法律事務所 交通事故 裁判例・解説

日本全国の交通事故は年間53万6899件、死者数4177人、負傷者数66万6023人(平成27年・警察庁調べ)にも達しています。
福岡県内の交通事故に限っても年間3万9734件、死者数152人、傷者数5万2758人に達しています(平成27年・福岡県警調べ)。

このような多数の交通事故の発生に比例して、全国の簡易裁判所に提訴された損害賠償請求訴訟も急増しています。
2005年は5000件を下回る程度でしたが、2015年には1万9000件を越えています。
簡易裁判所の全ての裁判数が、2009年の65万8000件から2015年の32万1000件と半減していますので、交通事故訴訟の増加ぶりが分かるかと思います。

その背景は、弁護士費用特約保険(弁護士特約)の普及です。弁護士特約とは、年間2000円から3000円程度の保険料で、事故に合って損害賠償請求する場合には、紹介した弁護士、もしくは、自分が選任した弁護士に対して弁護士費用を支払ってくれる制度です。

そのため例えば、駐車場で接触して5万円の損害が発生したが過失割合が納得いかない、交差点でミラーが接触したが信号の色に食い違いがある・・・というように少額の紛争でこれまでは弁護士を選任すると費用倒れになったようなケースについて、弁護士を選任できるようになっているのです。

一方でその解決水準は自賠責保険基準、任意保険会社基準、裁判基準と分かれています。そのため被害者が十分な被害賠償を受ける、逆に加害者が不正な支払を行わないために、弁護士がその解決に関与していく必要性が極めて高い分野といえるでしょう。

実際、最高裁判所の司法研修所も、簡易裁判所の審理を迅速に進めるためのポイントを手引きにまとめて、福岡簡易裁判所を含めて全国の簡易裁判所に配付するほどです。
その中では、「交差点の衝突事故で双方が青信号と主張しているケース」、「バックで駐車場に駐車しようとしたら、横に停車していた車が動いて接触したケース」など10の事例を取り上げて、事実認定のポイントを解説しています。

そして交通事故の多さに比例して、裁判例もいわば星の数ほどあるのが実情です。

ここでは損害の公平な分担という不法行為制度(民法709条)の趣旨を実現するために参考になる裁判例について、弁護士古賀克重が随時解説していきたいと思います。

交通事故 裁判例・解説

さいたま地裁熊谷支部 平成29年7月5日判決

頭蓋底骨折の傷害により高次脳機能障害2級の後遺障害を後遺した女子高校生の損害について2億3000万円余りの賠償を命じた

解説交差点歩道で佇立中に乗用車に衝突され、頭蓋底骨折の傷害により高次脳機能障害2級の後遺障害を後遺した事案です。

被害者が17歳の女子高校生だったことをふまえ、裁判所は、「本件事故当時、原告が就職するか進学するかは未定であり、多様な就労可能性があったといえることから、逸失利益算定の基礎収入賃金センサス男女計・学歴計の平均賃金が相当である」とした上、労働能力喪失期間は症状固定時の20歳から就労可能な67歳までの47年間・100%労働能力喪失を認定しました。

また将来介護費については被害者の症状・家族関係、さらに介護に休息をとるための時間(レスパイト)等も詳細に認定して、年間335日は近親者介護・日額8000円、30日は職業人介護・日額2万円を認定するなどし、即額2億3000万円余りの賠償を命じました。

東京地裁 平成30年3月29日判決

8歳男児の高次脳機能障害について2級1号と認定した上、将来介護費用を日額9000円で認めた

解説小学生が片側1車線道路を自転車で横断中、軽貨物自動車に衝突されて外傷性脳損傷等の傷害を負って、自賠責2級1号認定の高次脳機能障害を後遺したという事案です。

将来介護費用については、裁判所は、「原告が必要とする介護は声掛けや看視を主としたものであるが、原告母が今後就労を再開する可能性があること、原告母が高齢となった時期には職業付添人による介護が必要となることを考慮すると、近親者による介護と職業付添人による介護を合わせた費用として、70年間を通じて日額9000円を認めるのが相当である」と認定しました。

名古屋地裁 平成30年3月20日判決

事故後に意識障害が生じ情緒障害・行動障害が認められる15歳女子に高次脳機能障害を認め、労働能力20%喪失の逸失利益を認定した

解説丁字路交差点を自転車で右折中に車両に衝突され、頭部挫創・全身打撲の傷害を負い35日間入院した事案です。

被害者は15歳女子で、自賠責は非該当でしたが後遺障害5級の高次脳機能障害を主張して提訴したものです。

裁判所は、「車両のフロントガラスには凹みとひびが生じたこと等に鑑みると、原告の頭部には相当は衝撃が加わったと推認され、外傷性高次脳機能障害の原因となり得る頭部の外傷を受傷したと認められる」と判断しました。

その上で、事故後に撮影された「頭部CT画像上、原告の脳には小出血痕があったことが疑われるとともに、PETによれば酸素消費量は脳全般で低下している」、「本件事故後、原告には、暴力、暴言、コミュニケーション障害、家事や育児に困難を来すなどの種々の情緒障害・行動障害がみられる」ととして高次脳機能障害を認定しました。

逸失利益については賃金センサス・女性・短大卒・全年齢の平均額を用いた上、事故後の状況を詳細に認定し、労働能力喪失率は20%と認定したものです。

高次脳機能障害の残存が争われたケースとしては、大阪地裁平成28年4月14日判決が、自賠責9級認定に対して5級を主張したケースについて、性格や人格変化が認められ、他者とのコミュニケーションに困難を来すが、インターネットオークションを手広く手がけていることから自賠責9級と認定したものがあります。

また東京地裁平成25年1月11日判決は、新しいことを覚えられない、複数の作業を同時に行えない、感情の変動が激しく、気分が変わりやすい、感情や言動をコントロールできないといった症状が時々起こるなどから9級を認定しています。

神戸地裁明石支部 平成29年12月22日判決

歩行中に乗用車に衝突して右膝後十字靱帯損傷による後遺障害12級について、事故前の治療歴から4割素因減額した

解説男子会社員の原告が、店舗駐車場を歩行中、後退してきた被告乗用車に衝突され、右膝後十字靱帯損傷を後遺して自賠責12級7号の後遺障害認定を受けた事案です。

一方、原告は2年前、右膝後十字靱帯損傷による治療歴がありました。

裁判所は「2年前の膝の症状は保存的治療を継続せずに短期間で軽快し、その後、日常生活への支障も認められていないのに対して、本件事故後の右膝の痛みは長期間継続し、本件事故後の症状の方がより重いと認められ、これを既存の後十字靱帯損傷によって全て説明することは困難であり、本件事故により原告の右膝従事靱帯に新たな損傷が生じたものと推認するのが相当である」として事故と後遺障害との因果関係を認定しました。

一方において、「原告の右膝十字靱帯訴訟により生じた損害は、既存の靱帯損傷と本件事故による靱帯損傷とが共に原因となって生じていると認められ、原告の損害の内容及び額、既存の靱帯損傷の寄与度等を勘案すると、被告に損害の全部を賠償させるのは公平を失する」として4割を素因減額しました。

従前事故による素因減額が争われた裁判例は多く、例えば、京都地裁平成27年9月16日判決は、交通事故によって10級右肩関節機能障害を残したケースについて、本件事故の3年5月前に右肩関節機能障害を残しており、重篤化・難治化する素因があったとして5割減額しました。

金沢地裁 平成29年9月26日判決

高次脳機能障害7級の認定は、家族の補助なければ仕事不可能であるから十分信用できると判断した

解説大型自動二輪を運転中、対向普通貨物車両に衝突され、脳挫傷・胸椎破裂骨折等の傷害を負って自賠責7級4号の高次脳機能障害を後遺したという事案です。

これに対して被告は診療録の記載などから後遺障害は高くとも12級が相当と主張したものです。

裁判所は、後遺障害診断書や神経系統の障害に関する医学意見書、被害者が作成した日常生活状況報告の記載が診療録の記載と整合すること、その他被害者の供述・被害実態をふまえて、7級の認定が相当と判断したものです。

高次脳機能障害については、自賠責の認定があっても後遺障害の程度について争いが生じることが少なくありません。

例えば、仙台地裁平成28年9月29日判決は、自賠責5級の高次脳機能障害認定の40代男性の事案において、易怒性と物忘れは顕著で、他にも反応が鈍く動作が遅い、言葉がうまくでてこない、収入もかなり減少していることから、自賠責同様5級を認定しました。

神戸地裁 平成29年7月12日判決

12級右肩関節唇損傷はラケットボール全国大会に出場していることから否認した

解説自賠責保険が後遺障害14級認定していたところ、被害者が、右肩痛等から12級後遺障害の後遺を主張したという事案です。

裁判所は、「関節唇損傷は、外傷性のものだけではなく、肩を挙上して振りかぶる動作や肩関節を捻転する動作を繰り返すことにより発生する場合がある」という医学的知見を認定した上、「右肩関節唇損傷の所見が初めて得られたのは事故から6か月以上が経過したMRIによるものであること」、「原告は、本件事故から同日まで、ラケットボールの全国大会に出場するなど右肩関節唇損傷の機序となりうる動作を行っていることなどをあわせ考えると、右肩関節唇損傷が本件事故に基づくものとは認めるに足りない」と本件事故による右肩関節唇損傷の受傷を否認しました。

被害者の生活歴やスポーツ歴から受傷の事実や後遺障害の有無について疑義が生じるケースは少なくありません。

横浜地裁 平成29年7月14日判決

自賠責14級認定を受けた32歳女性が事故1週間後から約1年9ケ月渡航していたこと等から後遺障害の残存を否認した

解説乗用車に同乗中、被告車両に出会い頭に衝突あされて、頸椎捻挫後の頸部痛から自賠責14級9号の後遺障害認定を受けた事案です。

しかしながら、被害者には事故前から腰部痛等の症状があったにもかかわらず、医師が作成した後遺障害診断書においては、既存障害が「無」とされていました。

また、被害者は事故から1週間後には外国へ出国しており、医師が再度受診できたのは1年9か月後で、その数日後に症状固定と診断されました。
自賠責保険に提出された後遺障害診断書には、外国出国中にも通院治療が継続したと理解できるような記載がされており、「このような後遺障害診断書等を基にして作成された、損害保険料率算出機構による後遺障害の判断は採用することができない」と横浜地裁は認定したものです。

医師作成による後遺障害診断書の信用性・証明力が否定された事案になります。

後遺障害認定が否定された裁判例としては、事故から7年以上が経過してから通院を開始して後遺障害の診断が下された事案において、札幌地裁平成28年11月1日判決は、「仮に同障害の残存が事実であるとしても、本件事故により生じたとは認められない」と判断しています。

東京高裁平成 29年4月13日判決(最高裁平成29年9月15日決定)

要介護3の50歳代男性が追突された症状は軽微で1か月程度で治癒と認定し、休業損害も否認した

解説要介護3の男性が自車車両を運転して停止中、普通貨物車両に衝突されて5級後遺障害を後遺したと主張した事案です。

東京高裁は「原告の後縦靱帯骨化症は平成10年より前に発症し、緩徐に進行していったもので、原告は既に事故前に要介護3に認定され、主に上肢の筋力が低下して上肢全体に知覚鈍麻があるなどの症状が出ていた」、「本件事故は軽微で、原告の受傷も比較的軽症であったと認められること、診療録にも事故を起こす前のレベルまで筋力ほぼ回復傾向とあること」等から、原告の本件事故による受傷は、事故から1か月程度で治癒したものであると症状固定日を認定しました。

また原告の請求する休業損害について、年収を算定できる資料を提出しないこと、確定申告をしていないと述べながら保険会社には所得税の申告内容確認票を提出するなど矛盾した行動を取っていることから、「原告が本件事故による休業損害があったと認めるに足りる証拠はない」と認定しました。

収入が認められず休業損害を否認した裁判例は少なくなく、例えば大阪地裁平成24年3月23日判決は、背部痛から自賠責14級9号の後遺障害を後遺した女性ピアノ講師について、市民税・府民税証明書において収入0円とされていることから、「本件事故前に得ていた収入の存在を認定する証拠がない」として休業損害を否認しています。

なお被害者は最高裁判所に上告および上告受理申立てを行いましたが、平成29年9月15日決定にて上告棄却となっています。

横浜地裁 平成29年7月18日判決

後遺障害1級1号の四肢麻痺等を残す50歳男性の人身損害額として4億3328万円を認定した

解説50歳の男性コンサルト業を営む男性が交差点を自動二輪車で進行中、被告車両に衝突されて、外傷性くも膜した出血、急性硬膜下血腫等の傷害を負った結果、四肢麻痺等の後遺障害を後遺したという事案です。

過失相殺する前の人身損害額として4億円を超える損害を認定した裁判例です。コンサルト業の収入として年2400万円を認定して同額を基礎とした上、休業損害と後遺症逸失利益を算定しているため総損害額が高額になっているものです。休業損害としては3228万円、後遺症逸失利益としては67歳まで15年間・100%の労働能力喪失率にて2億4911万円を認定しています。

その他の損害項目としては、家屋改造費770万円が認定されています。原告が提出した見積額は1106万円でしたが、「本件事故がなくても相当期間経過後には修繕が見込まれたこと、家屋改造によって原告以外の家族も一定の利益を受ける」ことから見積額の約7割を損害として認定しました。

さいたま地裁 平成29年6月1日判決

追突事故によって12級13号後遺障害が残存したとの原告の主張に対し事故との因果関係を否認し、頸椎・腰椎の身体的素因から3割素因減額した

解説30代の運転代行業の男性が追突事故によって頸椎捻挫等から12級後遺障害が残存したとして約1200万円の損害請求訴訟を提起した事案です。

さいたま地方裁判所は、事故直後に診察した病院では四肢にしびれはないと診断されていること、その後の別の病院への通院期間中も、診療録にはしびれの症状記載は一切ないこと、事故から5か月後の診断書で初めて両上肢のしびれ感の記載が現れていること等から後遺障害の残存を否認しました。

そして、原告は事故によって頸部打撲捻挫、むち打ち症、左胸背部打撲、腰部打撲捻挫等の傷害を負って、受傷から6か月経過して症状固定したと主張していました。

これに対しても、裁判所は、上記傷害が本来、軟部組織の損傷であって、一般的には3か月程度で治癒するものであることからすれば、受傷から症状固定まで6か月の長期間を要したことや、症状固定後も痛み症状が残存したことなど、原告の損害が拡大したことには、原告の頸椎・腰椎の既存の身体的素因による影響があったものと推認できるとして3割素因減額して合計約160万円の損害のみ認定した判決です。

判決文を子細に読みますと、医療機関にもかなり問題があったようです。患者が通院していた7か月間に渡って診療録にいっさい「しびれ」を記していないにもかかわらず、後遺症診断書には「患者はしびれを訴えている」と記載していました。また通院期間中に歩行障害があった旨の記載がないにもかかわらず、後遺障害診断書には「歩行障害」とも記していました。

いつも言うのですが、交通事故の真の被害者を適切に救済するためには、一方において、長期間の治療が不必要なケースにおいては、医療機関も不要な治療は毅然として行わない等のプロフェッショナルな姿勢が求められます。「交通事故だからどうせ保険会社が支払ってくれるだろう」という一部医療機関にうかがえる安易な姿勢が、医療費がなかなか減っていかない構造の一要素になっています。

なおこの事案は治療が長期化したため、加害者側から債務不存在確認訴訟を提起したため、損害保険料率算出機構による自賠責保険における後遺障害の認定は受けていない事案でした。

名古屋地裁 平成28年12月21日判決

被害者の親族が被害者のエホバの証人としての信条に基づき輸血を拒否したことについて、輸血拒否がなく通常どおり手術が行われた場合には被害者が死亡しなかった可能性があることから、損害の公平な分担の観点から被害者に30%の過失を認めた

解説信教の自由は憲法上、最大限に尊重されなければならない基本的人権の一つです。一方で信教の自由に基づいた選択の結果、難しい法的な論点を導き出してしまうこともあります。

エホバの証人による輸血拒否については最高裁判決も含め、多数の裁判例が出ています。本判決は交通事故における賠償額を認定する際、その選択が過失相殺に影響したものです。

名古屋地裁は、「患者が輸血を拒否せず、通常どおり手術が行われた場合には、患者は急性硬膜外血腫によって死亡しなかった可能性があり、輸血拒否の事実は、患者の死亡について因果的寄与を及ぼしているから、損害の公平な分担の観点から、民法722条2項又はその類推適用により、過失相殺がなされるべきところ、患者の受傷内容・程度・治療経過・各医師の見解等を総合的に考慮して、患者に30%の過失相殺をするのが相当である」と判断したものです。

患者側は「患者はその信条に基づき輸血を拒否したもので、この判断は憲法上保障された信教の自由として、最大限保障されるべきである」と主張したのに対して、裁判所は、「信教の自由は最大限尊重すべきではあるけれども、その自由に基づく選択の帰結として生じた不利益の全てを、民事訴訟の相手方である被告に負担させることは、損害の公平な分担の見地からして相当ではないといわなければならない」と判示しています。

横浜地裁 平成29年6月29日判決

右上肢の神経症状等から後遺障害12級を請求した女子美容師の逸失利益について自賠責認定14級10年間5%の限度で労働能力喪失を認めた

解説後遺障害14級の後遺障害認定を自賠責から受けた女子美容師が、訴訟を提起して後遺障害12級を主張した事案です。

裁判所は「本件事故に起因する骨折等の外傷性の異常所見は認められないこと、受傷当初の診断書等には右肩部の傷病名は認められないこと等に鑑みれば、後遺障害は14級9号に該当すると認められる」として後遺障害12級の主張を認めませんでした。

また原告は、労働能力喪失率についても、「繊細に手先を利用して稼働する美容師であること等から14%とすべきである」と主張しましたが、裁判所は、「手先を利用する職業は、パソコンのキーボード操作を必須とする職業など他にも多数ある」とした上、労働能力喪失率は5%の限度で認めたものです。

14級9号後遺障害を後遺した事案において喪失期間を10年間とする裁判例としては、右足関節内果骨折による14級9号後遺障害を後遺する女子美容院店長の逸失歴について10年間・5%を認めた神戸地裁平成26年5月23日判決があります。

仙台地裁平成28年12月26日判決

無免許・飲酒・仮眠状態の車に衝突された死亡慰謝料3000万円、夫200万円の固有の慰謝料を認めた

解説60歳の女性が、交差点横断歩道を横断中、無免許運転をし、しかも飲酒をして仮眠状態だった車両が信号無視で車両に衝突した後、女性に衝突して死亡させたという痛ましい事件です。

裁判所は被害者の女性が夫の世話をしながら自営業で一家の支柱として生計を支えていたことを認定した上で、被告が対面信号が赤色を表示しているにもかかわらず高速度で交差点内に進入して事故を惹起した上、事故後に何らの救護措置もとらずに現場を逃走していることから、本件事故の悪質性・被告の過失の内容・程度・事故後の対応を考慮して、死亡慰謝料3000万円、夫固有の慰謝料として200万円を認定しました。

いわゆる赤本では死亡慰謝料は、一家の支柱2800万円、母・配偶者2500万円、その他2000~2500万円となっています。

ただし事案によってより高額の死亡慰謝料も認定されています。

例えば、大手監査法人勤務職員(男性34歳)が死亡した事案について、死亡慰謝料3000万円、妻200万円、父母各100万円の合計3400万円を認定した東京地裁平成20年8月26日判決があります。

また、生後11か月の長男とともに死亡した男性21歳について、死亡慰謝料2800万円、妻400万円、両親各100万円の合計3400万円を認定した秋田地裁平成22年7月16日判決があります。

さらに、飲酒の影響によって35~45キロの速度超過でセンターラインを越えて反対車線の車両に衝突して、母と同居の50歳男性が死亡した事案について、死亡慰謝料3200万円、母300万円の合計3500万円を認定した東京地裁平成28年4月27日判決もあります。

加害者側の悪質性や事故の悲惨さ等からいわゆる赤本基準を超えた死亡慰謝料が認定される傾向にあります。

この点は医療過誤事案も同様であり、基本的には赤本基準をベースにしつつ、過失の程度によって加算して認定される傾向があります。

札幌地裁平成28年3月30日判決

1級1号遷延性意識障害を残し余命期間にわたって入院の30歳男子の将来医療費を年額840万円で認定した

解説30歳男子公務員が交差点を歩行横断中、被告運転の普通貨物車に衝突されて、外傷性脳内出血、外傷性くも膜下出血等の傷害を負い、遷延性意識障害の1級1号後遺症を後遺したとして、既払金1億2209万円を控除して4億6379万円を求めて訴えを提起した事案です。

札幌地裁は、原告の将来医療費を余命期間にわたって年額840万円で認め、将来介護費は年額219万円で認めました。

将来医療費については、「原告が症状固定時から引き続き46年の余命期間にわたって入院する必要があり、1年当たり840万円の医療費が生じることになったものである」、「原告は平成28年1月まで、国民健康保険法に基づく保険給付等による助成を受け、入院に伴う医療費を支払っていないが、その後は、同様の保険給付等の存続が確実であるということができないから、損害から控除すべき保険給付等は、当初の3年のものである」と判断したものです。

将来の医療費については重篤な後遺障害を後遺した場合に特に論点となります。

同様の裁判例としては、1級1号高次脳機能障害を残す62歳男子の将来入院費について、月額12万円で平均余命の21年間に渡って認めた東京地裁平成25年8月6日判決や、1級1号遷延性意識障害を残す74歳女子について、平均余命12年間について毎年108万円の治療費を認定した大阪地裁平成27年5月27日判決などがあります。

大阪地裁平成28年8月29日判決

1級四肢麻痺を残す47歳男子の将来介護費を職業付添人と近親者合わせて日額1万8000円で認定した

解説47歳男性が自動二輪車で走行中、対向右折車を避けて転倒し、頸髄損傷等による四肢麻痺障害を後遺したものです。

大阪地裁は、将来介護費について、職業付添人と近親者合わせて日額1万8000円を認定しました。

原告(被害男性)は常時会介護を要する状況であり、妻がその一部を担っていましたが、大半は介護サービスを利用して職業付添人が行っていました。

裁判所は、職業付添人とともに妻による在宅介護を合わせて行う必要性・相当性があると認定した上、合わせて1万8000円の介護費を損害として認定したものです。

交通事故の損害賠償額算定基準(いわゆる赤い本)によると、「職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日につき8000円」とされますが、裁判例は、各介護の実情に応じて柔軟に認定しています。

例えば、大阪地裁平成19年1月31日判決は、高校生女子が遷延性意識障害を後遺した事案において、現在介護に当たっている母が67歳までは母も補助を行う可能性を考慮して日額1万4000円、母の67歳以降は日額1万8000円、合計1億977万円の損害を認定しています。

横浜地裁平成28年6月30日判決

左大腿切断等から2級後遺障害を残す66歳男子の自宅付添費を日額3500円で認め、将来介護費は日額1000円で平均余命分認定した

解説66歳男子会社員が原付自転車を運転中、先行する中型貨物が路外施設に左折して衝突されたものです。

横浜地裁は、左大腿切断等から2級後遺障害を残した被害者の自宅付添費を日額3500円で認め、将来介護費は日額1000円で平均余命分認定しました。

被害者は日常生活はほぼ独力で行うことが可能な状況でしたが、呼吸苦・動悸によって100メートル以上の報告が困難な状態であり、今後も外出時や入浴には近親者の介助が必要でした。裁判所は、「介護が必要な場面は限定されたものにとどまり、将来職業介護者を依頼する必要性が生じる蓋然性があるとは認められない」として、日額1000円という認定をしたものです。

脳機能障害など1級後遺障害の場合は、近親者付添人として1日8000円程度が認められますが、本件は、症状に照らして1000円という認定をしたものになります。

なお2級障害であっても、高次脳機能障害の場合には日額7000円を認めた判例もあります。

そのほか、右大腿骨切断等によって3級後遺障害を残すケースについて日限1000円・31年間を認めたもの(福岡地裁小倉支部平成25年5月31日判決)、10歳男子が遷延性意識障害、13級左眼視力障害、7級神経障害の併合3級を残した将来介護料について、「相応の介護がなければ生活していくことは困難」として日額5000円を認めたもの(平成12年2月9日大阪地裁判決)などもあります。

大阪地裁平成28年3月28日判決

研修医の事故1か月半後に弾発股が発生したとの主張について因果関係を否認して後遺障害の残存も認められないと否認した

解説30代の男性(研修医)が交差点を直進中、右側一時停止道路から進入してきた加害車両に出会い頭衝突され、後遺障害11級(自賠責被害等)を主張して7400万円強の損害を請求した事案です。

大阪地裁は、原告が主張する弾発股及び股関節唇損傷の発生と事故との因果関係を否認しました。

つまり、弾発股の発生機序として「腸脛靭帯が損傷した場合に、治癒の過程で肥厚化し、大転子と接触して弾発股が生じること、及び弾発股が受傷後3週間以降、徐々に進行することを認めるに足りない」としました。

そして、「少なくとも本件事故から10日以上の間、原告には目立った股関節痛が認められなかったことや、原告に弾発股の症状が現れたのは本件事故から約1か月半が経ってからであることに照らすと、本件事故の際に、原告の右半身側面が原告車の右ドアの内側に衝突したことが認められるとしても、弾発股の原因となるような損傷があったとは認められない」と判断しました。

大阪地裁は、後遺障害に関する損害は認めず、休業損害・通院慰謝料等として既払い金を除き、約120万円の損害を認定しています(過失1割)。

弾発股(だんぱつこ・snapping hip)とは、股関節の運動に伴って弾発現象(パキンと音が聞こえる等)を生じる複数の病態の総称をいいます(「今日の整形外科治療指針・第6版)。スポーツをする小児から青年にみられる股関節周辺の筋腱や靱帯による弾発と疼痛を来す疾患とされ、運動による繰り返される機械的負荷が発生原因と考えられています(医学大事典・第2版)。

本件のように、事故と受傷との因果関係が争われる場合、主張する障害の発生機序、事故から障害発生までの時間、障害の治療経過等が問題になります。

大阪地裁平成28年2月5日判決

第1事故で左膝痛12級を受ける28歳男子の第2事故による左膝可動域制限を10級認定し、加重部分を第2事故と因果関係のある後遺障害と認めた

解説タクシーとの衝突事故によって28歳男性が、左膝可動域制限を10級の後遺障害を負った事案です。

裁判所は、「原告は、第1事故によっても同じ左膝前十字靱帯を損傷しており、第2事故以前に、左膝の可動域がすでに12級7号に相当する程度に制限されていた」と認定した上、「第2事故と相当因果関係のある後遺障害としては、左膝可動域制限のうち、12級相当から10級相当に加重された部分というべきである」と判断しました。

その一方において、「第1事故による後遺障害の存在により第2事故後の治療が増大したとまでは認められず、積極損害について、第1事故による寄与度減額をするのは相当でない」と判断したものです。

当該交通事故によって被害を被る前から後遺障害が存在する場合、既存後遺障害部分を損害としては控除すべきかが争点になります。本判決は左膝という同一部分であることから既存後遺障害部分を控除、つまり既存の12級から10級に重くなった部分に限定して、本件事故と因果関係があると判断したものです。

また裁判所は、逸失利益については、原告が症状固定時に30歳と若年であることから、後遺障害による影響が長期に渡るとした上、67歳までの37年間の労働能力の喪失期間を認定し、10級の27%から、12級の14%を控除した13%の労働能力喪失率を認定したものです。

平成28年2月18日最高裁判所決定

損保会社従業員が同意なく診断書等を取得しプライバシー権を侵害したとする慰謝料請求につき、原審(福岡高裁)は、一括払同意の客観的裏付けがあるので、個人情報取扱いについての同意も得ているとして請求を棄却し、最高裁も上告を受理しなかった

解説横断歩道を横断中、タクシーに衝突された被害者が、同意なく病院から診断書等の個人情報を取得されたとして、損保会社に対してプライバシー侵害を理由として損害賠償請求した事案です。

事故から4日後、損保会社は被害者に電話をして、口頭で個人情報の取扱に関する同意と一括払いの同意を取り付けたことから(事実に争いあり)、同意書を送付したものの、返信はなされませんでした。

一方、被害者もその後、3か月に渡って、損保会社からの電話連絡に出ず、また自ら一括払いに同意しないと積極的に告げることもしませんでした。

そこで保険会社は、口頭で同意を得ていたとして、医療機関から診断書等を入手した上、医療機関に治療費を支払ったものです。

原審の福岡高裁は、一括払いの口頭の同意については、「一括払いチェックシート」にチェックが記入されているから、客観的な証拠によって裏付けられているとしました。

そして個人情報の取扱いに関する同意については客観的資料はないものの、一括払を行うためには自賠責保険の支払請求をする際に被害者の診断書等を提出する必要があって、被害者から予め個人情報取扱に関する同意を得ておく必要がある。そうすると、一括払のために必要な個人情報取扱の同意についても、一括払の説明・同意とともにいわばセットになって説明・同意しているものと推認されるとして、プライバシー侵害を認めずに請求を棄却していました。

これに対して、被害者が最高裁に上告しましたが、最高裁は上告を受理せずに確定しました。

なお本件は、診断書を送付する医療機関が自ら被害者の意思を確認していなかったため、被害者は医療機関に対しても損害賠償請求し(請求額2万円)、医療機関は請求を認諾して2万円を支払っています。

東京地裁 平成27年12月24日判決

中央線を越えた衝突は直前にくも膜下出血を発症して正常な運転ができない状態に陥っていたと認定し、被告車の運行によって生じたとはいえないとして自賠責保険金の請求を棄却した

解説女性A運転の直進乗用車が、右折待機中の対向被告乗用車に接触し、縁石等に衝突後、くも膜下出血でAが死亡した事案です。

Aの遺族が、被告及び損害保険会社に対して損害賠償を求めて訴訟提起しました。

これに対して、裁判所は、Aが事故直前にくも膜下出血を発症し、正常な運転ができない状態に陥っていたとして、自賠責保険金の請求を棄却したものです。

つまり、Aが正常な運転ができない状態に陥った原因としては、事故直前にくも膜下出血が生じたことによると考えるのが自然であり、車の運行によって死亡したものではないと判断したものです。原告代理人の医療相談に対する回答書が証拠提出されたようですが、「精神的ショックからくも膜下出血の原因となった可能性は否定できないが因果関係としてはかなり弱い」としていることから、積極的な証拠としては評価されませんでした。

Aの死亡の機序が争点となった珍しい事案です。

医療過誤訴訟でも、「機序(因果関係)」を確定させることが出発点になります。つまり確定された機序(因果関係)を前提に、過失(注意義務違反)があるか否かを詰めていくことになるわけです。

原告の主張の機序(てんかん発作を起こして一時的に意識を喪失し、衝突後に意識を回復して、事故のショックによって血圧が急上昇してくも膜下出血を起こした)は、元々、Aにてんかん発作や高血圧の既往歴があればともかく、医学的に立証することはなかなか難しい印象です。その意味で妥当な結論の判決と言えるでしょう。

大阪地裁 平成27年10月9日判決

81歳女子医師の労働内容は夫の監護として賃金センサス女子学歴計70歳以上を基礎収入と認定した

解説81歳の女子医師(病院副院長経験)Xが横断歩道を歩行中、車両に衝突され、121日入院後に死亡した事案です。

裁判所は「平成21年以降(注:事故は平成24年)は医師としての労働はなく給与収入はなく、事故当時のXの労働内容は、夫の監護である」とした上、センサス女子学歴計70歳以上平均を基礎収入として認定しました。

Xは病院の副院長経験者であり、家庭裁判所からの依頼で鑑定を行ったり、複数の病院の非常勤として勤務し、平成3年から8年にかけては2000万円前後の給与収入があったものの、平成13年から平成18年前後には400万円から700万円、平成19年は157万、平成20年は8万円、平成21年以降は給与収入は0という状況だったケースです。

なお慰謝料については、Xの死亡慰謝料2200万円、夫・子2名の各固有の慰謝料として100万円、合計2500万円の慰謝料を認めています。

同種裁判例としては、息子経営の会社の監査役の78歳女子について、監査役は名目的にすぎないとして否認され、家事労働分としてセンサス65歳以上の70%と認定した東京地裁判決などがあります。

高齢者の収入については資格・肩書きなどで形式的に算定するのではなく、実態に着目して実質的に算定し損害の公平な分担を図るのが裁判例の傾向と言えるでしょう。

東京地裁 平成27年11月25日判決

歯科開業医の休業損害を全日休業の7日間100%、短時間診療の2日間50%、1時間短縮営業の50日間15%で認めた

解説男子開業医のXが乗用車を運転中、追突され、頸部捻挫、右肩関節捻挫、腰部捻挫等の傷害を負い、68日通院したケースです。裁判所は、歯科開業医の休業損害として、全日休業の7日間100%、短時間診療の2日間50%、1時間短縮営業の50日間を15%休業として認定するなど、他の損害も含めて345万円の支払いを認容したものです。個人営業の休業損害は認定の難しい分野です。特に「1人営業」の経営者などの場合、極めて不透明な請求をすることも多く、紛争になりがちです。この点、開業医という比較的経営実態が明らかなケースについて、被害者の実際の経営状況に応じて休業損害を認定した裁判例であり、参考になるでしょう。

同種裁判例として、頸髄損傷等から3級3号後遺障害を残す52歳男子歯科開業医の休業損害について、事故前所得に固定経費を加算した日額8万強を基礎収入として症状固定まで339日の休業損害を認めた東京地裁判決や、右肩関節拘縮による可動域制限から10級10号後遺障害を残す56歳男子歯科開業医の休業損害につき、歯科医院の営業は継続していて、その業務内容から事故前58か月間の平均収入の60%を基礎収入に、症状固定までの休業損害を認めた大阪地裁判決などがあります。

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