東京地裁 平成27年12月24日判決
中央線を越えた衝突は直前にくも膜下出血を発症して正常な運転ができない状態に陥っていたと認定し、被告車の運行によって生じたとはいえないとして自賠責保険金の請求を棄却した
解説女性A運転の直進乗用車が、右折待機中の対向被告乗用車に接触し、縁石等に衝突後、くも膜下出血でAが死亡した事案です。
Aの遺族が、被告及び損害保険会社に対して損害賠償を求めて訴訟提起しました。
これに対して、裁判所は、Aが事故直前にくも膜下出血を発症し、正常な運転ができない状態に陥っていたとして、自賠責保険金の請求を棄却したものです。
つまり、Aが正常な運転ができない状態に陥った原因としては、事故直前にくも膜下出血が生じたことによると考えるのが自然であり、車の運行によって死亡したものではないと判断したものです。原告代理人の医療相談に対する回答書が証拠提出されたようですが、「精神的ショックからくも膜下出血の原因となった可能性は否定できないが因果関係としてはかなり弱い」としていることから、積極的な証拠としては評価されませんでした。
Aの死亡の機序が争点となった珍しい事案です。
医療過誤訴訟でも、「機序(因果関係)」を確定させることが出発点になります。つまり確定された機序(因果関係)を前提に、過失(注意義務違反)があるか否かを詰めていくことになるわけです。
原告の主張の機序(てんかん発作を起こして一時的に意識を喪失し、衝突後に意識を回復して、事故のショックによって血圧が急上昇してくも膜下出血を起こした)は、元々、Aにてんかん発作や高血圧の既往歴があればともかく、医学的に立証することはなかなか難しい印象です。その意味で妥当な結論の判決と言えるでしょう。