大阪地裁 令和5年10月27日判決
自賠責12級6号左肩関節機能障害の他に10級10号右肩関節機能障害を残したとする原告の腱板断裂は本件事故によって拡大悪化し可動域制限等の症状を生じさせたと認め併合9級後遺障害を認定し3割の素因減額を適用した
解説
【事案の概要】
原告(80代男性)が自転車に搭乗し交差点付近を横断中、被告車両に衝突され、右肩腱板断裂、左肩鎖関節脱臼、右鎖骨骨幹部骨折、右上腕骨大結節骨折等の傷害を負い、約260日入院、約50日実通院しました。
自賠責12級6号認定の左肩関節機能障害の他、10級10号右肩関節機能障害が残存し併合9級後遺障害を残したとして、既払金約220万円を控除し約1500万円を求めて訴えを提起しました。
大阪地方裁判所は、原告の本件事故による10級10号右肩関節機能障害を認め、併合9級後遺障害の残存を認定し、3割の素因減額を適用したほか、原告の過失を2割と認めました(控訴後和解。自保ジャーナル2166号20頁)。
【裁判所の判断】
自賠責は、原告の左肩関節の機能障害について、12級6号に該当すると判断する一方で、右肩関節の機能障害については、右鎖骨骨幹部骨折の骨折部は変形なく骨癒合傾向が認められること、腱板断裂については本件事故に起因して生じたものと捉えることが困難であることを理由に、後遺障害には該当しないと判断し、異議申立てに対しても同様の判断をしていました。
これに対して、大阪地方裁判所は、以下の通り、右肩関節の機能障害として10級10号の後遺障害が認められると判断しました。
右肩の傷害及び後遺障害について、原告は、本件事故前には毎日のように自転車に乗るなど右肩を動かすことに支障はなかったが、本件事故後には、右肩に強い痛みを感じるようになり、また、右肩を上げることが困難となり、その原因は右肩の腱板断裂によるものであったとしました。
そして、原告が本件事故によって自転車から地面に投げ出されて全身を強く打っており右肩にも大きな衝撃が加わったこと、医師が本件事故前から存在していた腱板断裂が本件事故により拡大悪化し発症したと考えていることを踏まえると、本件事故前から存在していた腱板断裂が本件事故によって拡大悪化し、強い痛みや可動域の制限等の症状が生じたと認めるのが相当であるとしました。そして、腱板断裂が拡大悪化し発症したことは、本件事故と相当因果関係のある損害であると認められると判断しました。
その上で、主治医により症状固定日と診断された令和2年9月16日において、原告の右肩の可動域は参考可動域角度の2分の1以下に制限されて、その原因は、本件事故前から存在していた腱板断裂が拡大悪化したこと、後上方修復腱板が手術後に再断裂していたこと、前上方修復腱板は維持されているものの動力源である筋腹の萎縮も著しいことなどであるから、前記の可動域制限は器質的損傷によるものであると認められるとしました。
以上をふまえて、大阪地裁は、右肩の可動域制限は、右肩関節の機能障害として10級10号に該当する後遺障害であると認めるのが相当であるとしたものです。
そして、左肩関節の機能障害として12級6号に該当する後遺障害であることから、原告には、併合9級に該当する後遺障害が残存していると判断しました。
一方、大阪地裁は、被告主張の素因減額について、右肩の傷害及び後遺障害については、本件事故前から存在していた腱板断裂が拡大悪化したものであり、また、前記の可動域制限の原因として筋腹の萎縮が著しいことも挙げられているとしました。これらの点は、本件事故以前から原告が有していた素因の影響を受けていると認められ、本件事故後に原告の受けた治療の中での右肩の腱板断裂に対する治療の割合や後遺障害である右肩の可動域制限に与える影響の程度を考慮すると、原告に生じた損害に対して30%の素因減額を認めるのが相当であると判断しています。