東京地方裁判所 令和7年3月26日判決
22歳男子大学生の自賠責12級14号顔面部瘢痕を7級12号と認定し13級5号歯牙障害と併せ併合6級後遺障害を認めセンサス男性同学歴全年齢平均を基礎収入に67歳まで25%の労働能力喪失で後遺障害逸失利益を認定した
解説
【事案の概要】
22歳男子大学生の原告は、信号のない交差点を原付自転車を運転して直進中、対向の被告運転の普通貨物車が右折してきて衝突され、顔面挫創、顔面骨骨折、歯牙欠損等の傷害を負い、入院含め約13年6カ月半通院し、自賠責12級14号顔面部瘢痕、同13級5号歯牙障害から併合11級後遺障害認定も、顔面部瘢痕は7級12号に相当し併合6級後遺障害を残したとして、既払金を控除し、物的損害約13万円を含め約1億円を求め(第1事件)、原告母は、固有慰謝料550万円を求めて訴えを提起しました(第2事件)。
東京地方裁判所は、原告の顔面部瘢痕を7級12号と認定し併合6級後遺障害を認め、センサス男性同学歴全年齢平均を基礎収入に67歳まで25%の労働能力喪失で後遺障害逸失利益を認定しました(第1事件控訴中。自保ジャーナル2192号37頁)。
【裁判所の判断】
裁判所は、外貌に生じた後遺障害は、左頬の膨らみの形状が右頬と異なり、対面すれば傷跡があるとわかる程度の変形及び瘢痕が残存するものの、色調の変化は少なく、外見上の違和感はさほど大きなものではないという状態に至っている。歯牙欠損については、インプラント治療が実施され、就労上の支障は生じていないことが認められる。
原告の就労及び収入の状況をみると、原告は、本件事故の翌年である平成21年4月、本件事故以前に内定を得ていたL株式会社に就職し、総合職として平成21年に約256万円、平成22年に約343万円、平成23年に約457万円、平成27年に約571万円、平成28年に約650万円、平成29年に約691万円、平成30年に約711万円、令和元年に約754万円の給与収入を得ており、令和2年から令和4年までは新型コロナウイルス感染症流行の影響による減収があったものの、令和5年は800万円近い収入を得たこと、令和5年4月、同期の標準的な昇進から1年遅れて管理職に昇進したこと、原告は、口の動かしにくさや痛み等のため、長時間の会話や笑顔を見せることに苦痛を感じていることが認められる。
原告の後遺障害の内容、程度並びに就労及び収入の状況を踏まえて検討すると、原告の後遺障害は、L株式会社に勤務している現時点では、昇進に若干の影響を与えたことがうかがわれるにとどまり、収入額にさほど大きな影響を与えていないものの、対面業務に支障がないとはいえず、原告本人の努力により就労を維持してきたものであり、将来的に、原告が転職をする場合には、後遺障害の存在が一定程度の制約となることが予想される。これらの事情を総合的に考慮すると、原告の労働能力喪失率は、就労可能期間31年(ライプニッツ係数15.5928)を通じて25%とするのが相当である。基礎収入は、640万2700円(賃金センサス令和4年男性大学卒平均賃金)を相当と認めると判断しました。
また裁判所は、後遺障害慰謝料について、原告の顔面部瘢痕は、平成23年政令116号による改定後の後遺障害等級7級12号に相当し、歯牙障害は13級5号に該当し、併合6級に相当するから、後遺障害慰謝料は1180万円が相当であると判断しました。
そして裁判所は、近親者慰謝料については、原告は、本件事故により重傷を負い、長期間にわたり手術を繰り返してもなお後遺障害が残存し、現在も仕事や私生活において制約を受けていること、他方、原告の外貌は、現在ではさほど大きな違和感のない程度まで改善していること、原告は、内定を得ていた会社に予定通り就職して勤務を継続し、高収入を得ており、学生時代から行っていた競技(K競技)を再開して活躍し、婚姻もするなど、公私にわたり充実した生活を送っていることが認められる。そうすると、原告の母に、原告の生命侵害の場合と比肩し得るような精神的苦痛が生じたということはできず、固有の慰謝料の発生を認めることはできないと判断しました。
【ポイント】
平成22年6月10日以降に発生した事故については、男女の区別なく、「外貌に著しい醜状を残すもの」が7級、「外貌に相当程度の醜状を残すもの」が9級、「外貌に醜状を残すもの」が12級とされます。
7級認定の裁判例はさほど多くありませんが、7級まで認定された逸失利益は67歳までなど比較的長期間認める傾向にあります。ただし喪失率は、被害者の実情に応じて認定されており、本件も7級の通常の喪失率56%ではなく、「25%」と判断しています。裁判例では、「10%」「20%」「喪失率否定」、「14%」などかなり幅があります。


