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交通事故 裁判例・解説

交通事故 裁判例・解説- 逸失利益 -

札幌高裁 令和2年12月4日判決

開業医の尺骨神経障害を14級9号認定し役員報酬6割を基礎収入に5年5%の労働能力喪失で逸失利益を認めた

解説

【事案の概要】

法人理事長及び開業医である男性医師(内科医・神経内科医)が片側1車線道路を直進中、左方の路外駐車場から右折進入してきた車両に衝突され、頚椎捻挫・左肩打撲・左上肢打撲等の傷害を負い、約8か月間通院したという事案です。

自賠責は後遺障害非該当でしたが、男性医師は、肘部管症候群の発症等による左上肢のしびれ、放散痛から14級9号後遺障害を負ったとして、既払い金16万円を控除して約1091万円の損害賠償請求訴訟を提起しました。

【裁判所の判断】

札幌地裁は後遺障害を否認しましたが、控訴審である札幌高裁は、尺骨神経障害について14級9号を認定しました(自保ジャーナル2087号44頁)。

札幌地裁は、「本件事故の衝撃の程度や受傷時の原告の体勢を考慮しても、本件事故によって、頚椎捻挫による神経根障害や、左上肢の肘部管における尺骨神経の損傷が生じたというには疑問を差し挟む余地がある」として後遺障害を認定しませんでした。

これに対して、原告は控訴し、控訴審において後遺障害に関する追加主張を行いました。神経伝達速度検査の結果を証拠提出してそれに基づいて主張したものです。

札幌高裁は、医学的文献に基づく医学的知見を認定した上で、「控訴人には、本件事故直後の時点で、Tinel様徴候が認められていること、環指・小指のしびれ及び知覚過敏が認められていること、に加え、左肘関節部遠位と左肘関節部近位との間の運動神経伝達速度の有意な低下が認められることからすれば、控訴人は、本件事故により、肘部管症候群(尺骨神経障害)を発症したものと考えられる」と判断したものです。

なお後遺障害逸失利益の基礎収入について、会社役員の場合、労務提供の対価部分が認定されます(赤い本など)。

本件は、年額3600万円の役員報酬を得ていたところ、控訴人が法人の理事長であること、法人の開設するクリニックの唯一の常勤医師であること、クリニックの従業員数は9名であることから、役員報酬の60%に相当する額を労務対価部分として認定しています。

【ポイント】

肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん)は、尺骨神経溝における絞扼性神経障害です。

変形から発症まで数十年以上を要することもあり、特に遅発性尺骨神経麻痺とも呼ばれています。

肘部管症候群は、肘の使用とともに徐々に神経圧迫が進行する病態と考えられており、原則的には手術治療が勧められています。

本件は原告の控訴審における主張立証によって後遺障害が一部認定された事案になります。

なお肘部管症候群の場合、前記の通り、原則的には手術治療になることから、被控訴人は、より積極的な治療を実施すべきだったのであり、損害軽減義務違反があると主張しましたが排斥されています(なお被控訴人が最高裁に上告)。

医師の後遺障害14級認定事案においては、大阪地裁令和2年2月5日判決が役員報酬の1割を基礎収入に5年・5%認定、東京地裁平成25年7月16日判決が申告所得額を基礎収入に5年・5%認定した判決などがあります。

横浜地裁 平成29年6月29日判決

右上肢の神経症状等から後遺障害12級を請求した女子美容師の逸失利益について自賠責認定14級10年間5%の限度で労働能力喪失を認めた

解説後遺障害14級の後遺障害認定を自賠責から受けた女子美容師が、訴訟を提起して後遺障害12級を主張した事案です。

裁判所は「本件事故に起因する骨折等の外傷性の異常所見は認められないこと、受傷当初の診断書等には右肩部の傷病名は認められないこと等に鑑みれば、後遺障害は14級9号に該当すると認められる」として後遺障害12級の主張を認めませんでした。

また原告は、労働能力喪失率についても、「繊細に手先を利用して稼働する美容師であること等から14%とすべきである」と主張しましたが、裁判所は、「手先を利用する職業は、パソコンのキーボード操作を必須とする職業など他にも多数ある」とした上、労働能力喪失率は5%の限度で認めたものです。

14級9号後遺障害を後遺した事案において喪失期間を10年間とする裁判例としては、右足関節内果骨折による14級9号後遺障害を後遺する女子美容院店長の逸失歴について10年間・5%を認めた神戸地裁平成26年5月23日判決があります。

大阪地裁 平成27年10月9日判決

81歳女子医師の労働内容は夫の監護として賃金センサス女子学歴計70歳以上を基礎収入と認定した

解説81歳の女子医師(病院副院長経験)Xが横断歩道を歩行中、車両に衝突され、121日入院後に死亡した事案です。

裁判所は「平成21年以降(注:事故は平成24年)は医師としての労働はなく給与収入はなく、事故当時のXの労働内容は、夫の監護である」とした上、センサス女子学歴計70歳以上平均を基礎収入として認定しました。

Xは病院の副院長経験者であり、家庭裁判所からの依頼で鑑定を行ったり、複数の病院の非常勤として勤務し、平成3年から8年にかけては2000万円前後の給与収入があったものの、平成13年から平成18年前後には400万円から700万円、平成19年は157万、平成20年は8万円、平成21年以降は給与収入は0という状況だったケースです。

なお慰謝料については、Xの死亡慰謝料2200万円、夫・子2名の各固有の慰謝料として100万円、合計2500万円の慰謝料を認めています。

同種裁判例としては、息子経営の会社の監査役の78歳女子について、監査役は名目的にすぎないとして否認され、家事労働分としてセンサス65歳以上の70%と認定した東京地裁判決などがあります。

高齢者の収入については資格・肩書きなどで形式的に算定するのではなく、実態に着目して実質的に算定し損害の公平な分担を図るのが裁判例の傾向と言えるでしょう。

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