東京地裁 令和3年1月12日判決
原告スノーボードとスノーモービルの衝突について禁止コースを前方注視せずに滑走したとして6割の過失を認定
解説
【事案の概要】
原告(30代女性・外国籍)がスキー場内をスノーボードで滑走中、下方から上方に向けて走行していたスキーパトロール隊員が運転するスノーモービルに衝突し、右足関節捻挫、左腸骨部挫傷、左大腿部筋挫傷、左膝蓋骨骨折等の傷害を負い、1年10か月通院し、10級10号の左膝関節機能障害を後遺したとして、1億2500万円強の損害賠償請求訴訟を提起した事案です。
【裁判所の判断】
東京地裁は、後遺障害の発生を否認し、過失割合として原告の過失60%とした上、物損含めて約247万円の支払を命じました(自保ジャーナル2089号170頁・控訴)。
東京地裁は、「本件事故が発生した主な原因は、原告が滑走禁止コースを滑走し、上方を滑走しているにもかかわらず前方を注視せずに滑走したことにあるから原告の過失は重い」としました。
一方、被告の過失についても、「雪上車両がスキーヤーと衝突すれば、スキーヤーの身体生命に重大な危険が及ぶこと、そもそもスキー場の開放中は雪上車両の運行は極力制限しなければならないこと、被告運転手は本件事故当時被告車両を時速30キロメートル程度と相当の速度で走行していたことに照らせば・・・営業時間内に雪上車両を走行させる場合には、特に慎重に前方を注視して滑走者の有無を確認すべきである」としました。
その上で、「双方過失内容等を比較検討した結果、本件事故の過失割合は、原告60%、被告40%と認めるのが相当である」と判断したものです。
【ポイント】
本件は、上方から滑走してきた原告の過失を60%、下方から上方に向けて走行していた被告の過失を40%と判断した事例判決です。
この点、平成7年3月10日最高裁判は、北海道ニセコ国際スキー場で滑走していた26歳の主婦が、18歳の大学生と衝突転倒して、3か月の入院加療を要する損害を被った事案について、「上方から滑走する者に、前方を注視し、下方を滑走している者の動静に注意して、その者との接触ないし衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を怠った過失がある」と判断しています。
最高裁判決後も、平成11年2月26日神戸地裁判決(木島平スキー場で、プルークボーゲンで滑走中、スノーボードで上方から滑走してきた加害者に衝突された事案)、平成18年12月7日東京高裁判決(上越国際スキー場ゲレンデで、スキーで滑り降りてきて立ち止まっている被害者に、上方からスノーボードで滑走してきた加害者が衝突した事案)などの判例が、上方から滑り降りてきたスノーボーダーに全責任があると判断しています。
これに対して本件は、被告が雪上車両であり、雪上車両の安全運転マニュアルによれば、「スキー場の開放中は雪上車両の運行は極力制限しなければならず、雪上車両の運転中は常に周囲の人や障害物に注意を要する」と定めていることもふまえて、下方を走行してきた車両の過失を認め、過失割合を認定したところに特徴があります(なお当事者の主張によると、原告は無過失を主張し、被告は自らの過失は30パーセントを超えないと主張していました)。