大阪地方裁判所 令和6年9月5日判決
酩酊状態の運転手に運転中止や停止を求めた形跡も認められず飲酒運転を助長、促進したと同乗者2名に飲酒運転幇助を認め、併合7級顔面醜状及び腰痛等を残す被害者(40代男性)の後遺障害逸失利益を67歳まで5%の喪失率で認定した
解説
【事案の概要】
原告(男性・40代)は、片側2車線道路を自動二輪車を運転して走行中、飲酒のY運転、被告Z及び同W同乗の普通乗用車に追突され、左第2腰椎横突起骨折、顔面挫滅創、左第11肋骨骨折等の傷害を負い、11日入院、約6カ月通院し、自賠責7級12号顔面醜状、同14級9号腰痛等から併合7級認定の後遺障害を残して、既払金を控除した約4200万円を求め、同乗者2名を被告として訴訟提起しました。
裁判所は、Y車に同乗の被告らに飲酒運転の幇助を認め、併合7級顔面醜状等を残す原告の後遺障害逸失利益を67歳まで5%の労働能力喪失で認定しました(控訴後和解・一部確定。自保ジャーナル2183号20頁)。
【裁判所の判断】
大阪地方裁判所は、Yは、被告車の運転を開始したときから本件事故発生の時までの間、飲酒による酩酊状態(飲酒により正常な運転ができない状態)にあったところ、被告らは、本件事故発生の直前まで、Yと3人で飲酒飲食をし、その後も、行動をともにしていた上、Yは、この間の28日午後11時30分頃の時点で、被告ら以外の第三者から見ても酔っているようにみえる状態であったのであるから、被告らは、Yのおおよその飲酒の状況及びYが被告車の運転を開始したとき飲酒による酩酊状態(飲酒により正常な運転ができない状態)にあったことを認識していたことは明らかである。そうすると、被告らは、本件事故当時、Yが被告車を安全に運転をすることができない可能性を十分に認識していたにもかかわらず、被告車に同乗していたこととなる。
そして、被告らは、Yが、2軒目の飲食店に移動するため、飲酒運転に及んでいたことを認識しながら、Yと3人で飲酒飲食をしていたというのであるから(被告らがYのおおよその飲酒の状況を認識していたと認められる以上、被告Wにおいても、Yが、2軒目の飲食店に移動するまでの間、飲酒運転に及んでいたことを認識していたと認められる。)、被告らは、Yが飲酒による酩酊状態となったことについて深く関与しているといえるし、被告らがYに被告車を運転するよう積極的に求めてYが被告車を運転するに至った事実は認められないとしても、被告らは、被告らの自宅に帰宅するために被告車に同乗していたものである。
以上の事情を総合すれば、被告らは、Yが、被告車の運転を開始するに当たり、Yに、被告車を運転させない措置を講ずべき注意義務があったというべきである。
しかるに、被告Wは、Yの求めに応じて被告車の運転を交代し、Yが被告車を運転することとなり、この際、被告Zにおいて、Yに対し、1度、Yが被告車を運転することを制止しようとした事実は認められるものの、被告Z及び被告Wにおいて、それ以上の措置を講じることはなく、被告らは、Yが飲酒運転であることを容認して被告車への乗車を継続したものである。そして、Yの運転開始後も、被告車が車線変更を繰り返しつつ、他の車両よりも高速度で走行しているにも関わらず、本件事故が発生するまでの間、被告らが、Yに対し、運転の中止、停止を積極的に求めた形跡も認められない。
そうすると、被告らは、上記注意義務を怠って、Yの上記注意義務違反の原因となった飲酒運転を助長、促進したといわざるを得ないから、被告らには、民法719条2項に基づく責任が認められると判断したものです。
【ポイント】
本件は、飲酒運転車両に同乗していた同乗者2名を被告に提訴したという珍しい事案です。裁判所は、飲酒運転の同乗者に対しても民法719条2項の法的責任を認めました。
民法719条1項は共同不法行為者の責任を認め、同2項は「行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する」と定めています。
裁判所は、運転手の酩酊の状況・経緯について丁寧に事実認定した上で、同乗者らが一緒に飲酒飲食していたこと、第三者から見ても酔っているようにみえたこと等から、被告らも酩酊状態について認識していたと判断し、その後も運転の中止・停止を積極的に求めていないことから注意義務違反があると認定したものです。