福岡高等裁判所 令和6年8月28日判決
原告の自賠責12級7号認定右膝関節機能障害は改善傾向にあった可動域が低下する事情が認められない等から可動域の測定結果を採用することはできないと右膝関節機能障害を否認し14級9号右膝痛を認定した
解説
【事案の概要】
原告(50代女性)は、横断歩道のない道路の曲がり角付近を歩行横断中、被告運転の普通貨物車に衝突され、右膝蓋骨骨折、右腓骨近位端骨折、右上腕骨近位端骨折等の傷害を負い、約110日入院を含め、約1年7ヶ月半通院しました。
自賠責12級7号右膝関節機能障害、同14級9号右肩痛等から併合12級認定の後遺障害を残して、既払金約470万円を控除し約1680万円を求めて訴えを提起しました。
1審福岡地方裁判所は、原告の自賠責12級7号認定の右膝関節機能障害を否認し、14級9号右膝痛を認め、原告歩行者の過失を2割と認定しました。
また福岡地方裁判所は、事前認定は、本件後遺障害診断書の記載を前提して右膝関節の機能障害があると評価したものであるから、事前認定をもって、原告の右膝関節に機能障害があるものと推認することはできない他、その他本件全証拠を精査しても、原告に、本件事故により右膝関節機能障害が生じたとの事実を認めるには足りないと右膝関節機能障害を否認し、原告には、右膝蓋骨骨折に伴う右膝痛の症状及び右上腕骨大結節骨折後の右肩痛の症状が残存しており、障害等級別表2第14級9号に相当する後遺症が残存するものと認められると14級9号右膝痛及び右肩痛を認定しました。
原告及び被告控訴後の2審福岡高等裁判所は、1審判決を維持し、双方の控訴を棄却しました(確定。自保ジャーナル2182号42頁)。
【裁判所の判断】
1審裁判所は、原告の右膝関節機能障害について、原告の右膝の可動域は、令和2年6月以降100度程度で推移し、同月19日には、B病院の医師により、右膝の可動域について、自動100度、他動110度と測定され、同数値は、D整形外科における同日の測定数値とも符合しており、その後も同年10月までおおむね100から120度で推移していたところ、同年11月14日実施の本件後遺障害診断書作成時に、それまでの可動域の数位とは異なり、突如として、自動70度、他動80度との測定結果となっており、同日の測定数値は、原告が本件事故により右膝蓋骨骨折の傷害を負った後の可動域の推移として不自然であると指摘しました。
そして、1審裁判所は、原告の陳述ないし供述及びD整形外科の医師の回答書の記載内容は、D整形外科の診療録にリハビリ前後の区別なく記載されている可動域の測定結果が、いずれもリハビリ後の理学療法士による目視での測定結果を記載したものであると認めるには足りないとし、本件後遺障害診断書記載の原告の右膝可動域制限に関する記載内容は、令和2年6月19日の測定数値などの従前の可動域の推移と整合せず、採用することができないとしました。
事前認定は、本件後遺障害診断書の記載を前提して右膝関節の機能障害があると評価したものであるから、事前認定をもって、原告の右膝関節に機能障害があるものと推認することはできず、その他本件全証拠を精査しても、原告に、本件事故により、右膝関節の機能障害が生じたとの事実を認めるには足りないとしました。
そして、原告は、右膝蓋骨骨折に伴う右膝痛の症状及び右上腕骨大結節骨折後の右肩痛の症状が残存しており、障害等級別表2第14級9号(局部に神経症状を残すもの)に相当する後遺症が残存するものと認められると判断しました。
2審裁判所も、D整形外科における測定結果も100から110度となっており、同月25日から同年10月17日までは100から120度、同月22日は自動が90から100度、他動が110から120度、同月24日と26日は自動が90度であったが、同年11月14日の測定結果は自動が70度、他動が80度となっていると指摘し、同年4月24日から同年10月26日までは、1審原告の右膝関節の可動域は改善傾向にあり、同日から同年11月14日までの間に、右膝関節の可動域が低下する事情があるとは認められないことからすると、同日の右膝関節の可動域の測定結果を直ちに採用することはできないとしました。
この点、1審原告は、D整形外科では、同日以外、リハビリ目的で、理学療法士により目視でリハビリ後に可動域が測定され、それを診療録に記載したのに対し、同日は、後遺障害診断書作成のために、医師が角度計を用いてリハビリ前に可動域を測定しており、同日より前の測定結果と同日の測定結果が異なることは矛盾せず、同日の医師による測定値によるべきである旨主張する。
しかしながら、1審原告の右膝関節の可動域は、令和2年3月18日以降同年10月31日にかけて、医師も改善傾向にあったとの認識であるところ、少なくとも同年6月19日のB病院での測定結果が、同病院医師がその頃を症状固定時期と判断し、同日終診として自動100度、他動110度であったにもかかわらず、その後、同年11月14日のD整形外科での測定結果まで低下する事情も認められないことも併せ考慮すると、証拠を踏まえても、前記判断のとおり、同日の測定結果を採用することはできず、1審原告の主張は採用できないと判断しました。
【ポイント】
膝関節機能障害等の残存が争われた事例は少なくありません。
東京高裁平成28年12月5日判決(自保ジャーナル1993号)は、歩行中に被告車両に衝突され12級左膝関節可動域制限等の併合9級後遺障害を残したとする原告(70代男性)につき、被告車両の速度は時速約5ないし10キロメートルの低速であった等から、左膝部への衝撃が強かったとは認められないと後遺障害の残存を否認しています。