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交通事故 裁判例・解説

交通事故 裁判例・解説- 後遺障害 -

東京地裁 平成30年6月22日判決

男子医学部生の自賠責12級右頬部瘢痕の後遺障害逸失利益を否認し、後遺障害慰謝料320万円で考慮した

解説男子医学部生の原告が、交差点一時停止路から自転車で進入した際、左方道路から進行してきた普通貨物車に衝突されて、顔面瘢痕を後遺して自賠責12級4号に認定されたケースです。

裁判所は、「本件事故による原告の右頬部の瘢痕は、その場所や色、形状等からすると、人目につきやすいものではあるが、本件証拠上、原告が研修医として勤務を開始するまでの過程や研修医として勤務中に、醜状障害を理由に不利益をうけた様子はうかがわれない」として、「医師の業務の内容、原告が研修医として勤務していた際、消化器外科か整形外科になることを考えていたことを考慮すると、原告の醜状障害が原因で医師としての就職に支障が生じたり、失職や転職を余儀なくされたり、業務の遂行に具体的な支障が生じたりするとは認めがたい」として、「原告の右頬部の瘢痕が労働能力の喪失をもたらすものとは認められず、原告の後遺障害による逸失利益が発生したと認めることはできない」と後遺障害逸失利益を否認したものです。

一方において、「医師の業務は、患者等とのコミュニケーションを伴うものであり、原告の年齢も考慮すると醜状障害の存在による精神的な影響は否定できないところ、このような事情は慰謝料の算定において考慮する」として320万円の慰謝料を認定しました。後遺障害12級の後遺症慰謝料は290万円とされていますので(赤本。本件原告の請求も290万円)、30万円加算したものになります。

後遺障害が認められるものの逸失利益が認定されない場合に、若干慰謝料に加算する判断は見受けられます。

例えば、東京地裁平成26年1月14日判決は、12級14号の顔面醜状を後遺する20代の演劇研修生・アルバイトの後遺障害逸失利益について、右眉部の線状痕によって俳優としての将来得べかりし収入が減少したとは認められないとして、後遺障害逸失利益を否認して慰謝料で考慮しています。

神戸地裁明石支部 平成29年12月22日判決

歩行中に乗用車に衝突して右膝後十字靱帯損傷による後遺障害12級について、事故前の治療歴から4割素因減額した

解説男子会社員の原告が、店舗駐車場を歩行中、後退してきた被告乗用車に衝突され、右膝後十字靱帯損傷を後遺して自賠責12級7号の後遺障害認定を受けた事案です。

一方、原告は2年前、右膝後十字靱帯損傷による治療歴がありました。

裁判所は「2年前の膝の症状は保存的治療を継続せずに短期間で軽快し、その後、日常生活への支障も認められていないのに対して、本件事故後の右膝の痛みは長期間継続し、本件事故後の症状の方がより重いと認められ、これを既存の後十字靱帯損傷によって全て説明することは困難であり、本件事故により原告の右膝従事靱帯に新たな損傷が生じたものと推認するのが相当である」として事故と後遺障害との因果関係を認定しました。

一方において、「原告の右膝十字靱帯訴訟により生じた損害は、既存の靱帯損傷と本件事故による靱帯損傷とが共に原因となって生じていると認められ、原告の損害の内容及び額、既存の靱帯損傷の寄与度等を勘案すると、被告に損害の全部を賠償させるのは公平を失する」として4割を素因減額しました。

従前事故による素因減額が争われた裁判例は多く、例えば、京都地裁平成27年9月16日判決は、交通事故によって10級右肩関節機能障害を残したケースについて、本件事故の3年5月前に右肩関節機能障害を残しており、重篤化・難治化する素因があったとして5割減額しました。

神戸地裁 平成29年7月12日判決

12級右肩関節唇損傷はラケットボール全国大会に出場していることから否認した

解説自賠責保険が後遺障害14級認定していたところ、被害者が、右肩痛等から12級後遺障害の後遺を主張したという事案です。

裁判所は、「関節唇損傷は、外傷性のものだけではなく、肩を挙上して振りかぶる動作や肩関節を捻転する動作を繰り返すことにより発生する場合がある」という医学的知見を認定した上、「右肩関節唇損傷の所見が初めて得られたのは事故から6か月以上が経過したMRIによるものであること」、「原告は、本件事故から同日まで、ラケットボールの全国大会に出場するなど右肩関節唇損傷の機序となりうる動作を行っていることなどをあわせ考えると、右肩関節唇損傷が本件事故に基づくものとは認めるに足りない」と本件事故による右肩関節唇損傷の受傷を否認しました。

被害者の生活歴やスポーツ歴から受傷の事実や後遺障害の有無について疑義が生じるケースは少なくありません。

横浜地裁 平成29年7月14日判決

自賠責14級認定を受けた32歳女性が事故1週間後から約1年9ケ月渡航していたこと等から後遺障害の残存を否認した

解説乗用車に同乗中、被告車両に出会い頭に衝突あされて、頸椎捻挫後の頸部痛から自賠責14級9号の後遺障害認定を受けた事案です。

しかしながら、被害者には事故前から腰部痛等の症状があったにもかかわらず、医師が作成した後遺障害診断書においては、既存障害が「無」とされていました。

また、被害者は事故から1週間後には外国へ出国しており、医師が再度受診できたのは1年9か月後で、その数日後に症状固定と診断されました。
自賠責保険に提出された後遺障害診断書には、外国出国中にも通院治療が継続したと理解できるような記載がされており、「このような後遺障害診断書等を基にして作成された、損害保険料率算出機構による後遺障害の判断は採用することができない」と横浜地裁は認定したものです。

医師作成による後遺障害診断書の信用性・証明力が否定された事案になります。

後遺障害認定が否定された裁判例としては、事故から7年以上が経過してから通院を開始して後遺障害の診断が下された事案において、札幌地裁平成28年11月1日判決は、「仮に同障害の残存が事実であるとしても、本件事故により生じたとは認められない」と判断しています。

東京高裁 平成29年4月13日判決(最高裁平成29年9月15日決定)

要介護3の50歳代男性が追突された症状は軽微で1か月程度で治癒と認定し、休業損害も否認した

解説要介護3の男性が自車車両を運転して停止中、普通貨物車両に衝突されて5級後遺障害を後遺したと主張した事案です。

東京高裁は「原告の後縦靱帯骨化症は平成10年より前に発症し、緩徐に進行していったもので、原告は既に事故前に要介護3に認定され、主に上肢の筋力が低下して上肢全体に知覚鈍麻があるなどの症状が出ていた」、「本件事故は軽微で、原告の受傷も比較的軽症であったと認められること、診療録にも事故を起こす前のレベルまで筋力ほぼ回復傾向とあること」等から、原告の本件事故による受傷は、事故から1か月程度で治癒したものであると症状固定日を認定しました。

また原告の請求する休業損害について、年収を算定できる資料を提出しないこと、確定申告をしていないと述べながら保険会社には所得税の申告内容確認票を提出するなど矛盾した行動を取っていることから、「原告が本件事故による休業損害があったと認めるに足りる証拠はない」と認定しました。

収入が認められず休業損害を否認した裁判例は少なくなく、例えば大阪地裁平成24年3月23日判決は、背部痛から自賠責14級9号の後遺障害を後遺した女性ピアノ講師について、市民税・府民税証明書において収入0円とされていることから、「本件事故前に得ていた収入の存在を認定する証拠がない」として休業損害を否認しています。

なお被害者は最高裁判所に上告および上告受理申立てを行いましたが、平成29年9月15日決定にて上告棄却となっています。

横浜地裁 平成29年7月18日判決

後遺障害1級1号の四肢麻痺等を残す50歳男性の人身損害額として4億3328万円を認定した

解説50歳の男性コンサルト業を営む男性が交差点を自動二輪車で進行中、被告車両に衝突されて、外傷性くも膜した出血、急性硬膜下血腫等の傷害を負った結果、四肢麻痺等の後遺障害を後遺したという事案です。

過失相殺する前の人身損害額として4億円を超える損害を認定した裁判例です。コンサルト業の収入として年2400万円を認定して同額を基礎とした上、休業損害と後遺症逸失利益を算定しているため総損害額が高額になっているものです。休業損害としては3228万円、後遺症逸失利益としては67歳まで15年間・100%の労働能力喪失率にて2億4911万円を認定しています。

その他の損害項目としては、家屋改造費770万円が認定されています。原告が提出した見積額は1106万円でしたが、「本件事故がなくても相当期間経過後には修繕が見込まれたこと、家屋改造によって原告以外の家族も一定の利益を受ける」ことから見積額の約7割を損害として認定しました。

さいたま地裁 平成29年6月1日判決

追突事故によって12級13号後遺障害が残存したとの原告の主張に対し事故との因果関係を否認し、頸椎・腰椎の身体的素因から3割素因減額した

解説30代の運転代行業の男性が追突事故によって頸椎捻挫等から12級後遺障害が残存したとして約1200万円の損害請求訴訟を提起した事案です。

さいたま地方裁判所は、事故直後に診察した病院では四肢にしびれはないと診断されていること、その後の別の病院への通院期間中も、診療録にはしびれの症状記載は一切ないこと、事故から5か月後の診断書で初めて両上肢のしびれ感の記載が現れていること等から後遺障害の残存を否認しました。

そして、原告は事故によって頸部打撲捻挫、むち打ち症、左胸背部打撲、腰部打撲捻挫等の傷害を負って、受傷から6か月経過して症状固定したと主張していました。

これに対しても、裁判所は、上記傷害が本来、軟部組織の損傷であって、一般的には3か月程度で治癒するものであることからすれば、受傷から症状固定まで6か月の長期間を要したことや、症状固定後も痛み症状が残存したことなど、原告の損害が拡大したことには、原告の頸椎・腰椎の既存の身体的素因による影響があったものと推認できるとして3割素因減額して合計約160万円の損害のみ認定した判決です。

判決文を子細に読みますと、医療機関にもかなり問題があったようです。患者が通院していた7か月間に渡って診療録にいっさい「しびれ」を記していないにもかかわらず、後遺症診断書には「患者はしびれを訴えている」と記載していました。また通院期間中に歩行障害があった旨の記載がないにもかかわらず、後遺障害診断書には「歩行障害」とも記していました。

いつも言うのですが、交通事故の真の被害者を適切に救済するためには、一方において、長期間の治療が不必要なケースにおいては、医療機関も不要な治療は毅然として行わない等のプロフェッショナルな姿勢が求められます。「交通事故だからどうせ保険会社が支払ってくれるだろう」という一部医療機関にうかがえる安易な姿勢が、医療費がなかなか減っていかない構造の一要素になっています。

なおこの事案は治療が長期化したため、加害者側から債務不存在確認訴訟を提起したため、損害保険料率算出機構による自賠責保険における後遺障害の認定は受けていない事案でした。

札幌地裁平成28年3月30日判決

1級1号遷延性意識障害を残し余命期間にわたって入院の30歳男子の将来医療費を年額840万円で認定した

解説30歳男子公務員が交差点を歩行横断中、被告運転の普通貨物車に衝突されて、外傷性脳内出血、外傷性くも膜下出血等の傷害を負い、遷延性意識障害の1級1号後遺症を後遺したとして、既払金1億2209万円を控除して4億6379万円を求めて訴えを提起した事案です。

札幌地裁は、原告の将来医療費を余命期間にわたって年額840万円で認め、将来介護費は年額219万円で認めました。

将来医療費については、「原告が症状固定時から引き続き46年の余命期間にわたって入院する必要があり、1年当たり840万円の医療費が生じることになったものである」、「原告は平成28年1月まで、国民健康保険法に基づく保険給付等による助成を受け、入院に伴う医療費を支払っていないが、その後は、同様の保険給付等の存続が確実であるということができないから、損害から控除すべき保険給付等は、当初の3年のものである」と判断したものです。

将来の医療費については重篤な後遺障害を後遺した場合に特に論点となります。

同様の裁判例としては、1級1号高次脳機能障害を残す62歳男子の将来入院費について、月額12万円で平均余命の21年間に渡って認めた東京地裁平成25年8月6日判決や、1級1号遷延性意識障害を残す74歳女子について、平均余命12年間について毎年108万円の治療費を認定した大阪地裁平成27年5月27日判決などがあります。

大阪地裁平成28年8月29日判決

1級四肢麻痺を残す47歳男子の将来介護費を職業付添人と近親者合わせて日額1万8000円で認定した

解説47歳男性が自動二輪車で走行中、対向右折車を避けて転倒し、頸髄損傷等による四肢麻痺障害を後遺したものです。

大阪地裁は、将来介護費について、職業付添人と近親者合わせて日額1万8000円を認定しました。

原告(被害男性)は常時会介護を要する状況であり、妻がその一部を担っていましたが、大半は介護サービスを利用して職業付添人が行っていました。

裁判所は、職業付添人とともに妻による在宅介護を合わせて行う必要性・相当性があると認定した上、合わせて1万8000円の介護費を損害として認定したものです。

交通事故の損害賠償額算定基準(いわゆる赤い本)によると、「職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日につき8000円」とされますが、裁判例は、各介護の実情に応じて柔軟に認定しています。

例えば、大阪地裁平成19年1月31日判決は、高校生女子が遷延性意識障害を後遺した事案において、現在介護に当たっている母が67歳までは母も補助を行う可能性を考慮して日額1万4000円、母の67歳以降は日額1万8000円、合計1億977万円の損害を認定しています。

横浜地裁平成28年6月30日判決

左大腿切断等から2級後遺障害を残す66歳男子の自宅付添費を日額3500円で認め、将来介護費は日額1000円で平均余命分認定した

解説66歳男子会社員が原付自転車を運転中、先行する中型貨物が路外施設に左折して衝突されたものです。

横浜地裁は、左大腿切断等から2級後遺障害を残した被害者の自宅付添費を日額3500円で認め、将来介護費は日額1000円で平均余命分認定しました。

被害者は日常生活はほぼ独力で行うことが可能な状況でしたが、呼吸苦・動悸によって100メートル以上の報告が困難な状態であり、今後も外出時や入浴には近親者の介助が必要でした。裁判所は、「介護が必要な場面は限定されたものにとどまり、将来職業介護者を依頼する必要性が生じる蓋然性があるとは認められない」として、日額1000円という認定をしたものです。

脳機能障害など1級後遺障害の場合は、近親者付添人として1日8000円程度が認められますが、本件は、症状に照らして1000円という認定をしたものになります。

なお2級障害であっても、高次脳機能障害の場合には日額7000円を認めた判例もあります。

そのほか、右大腿骨切断等によって3級後遺障害を残すケースについて日限1000円・31年間を認めたもの(福岡地裁小倉支部平成25年5月31日判決)、10歳男子が遷延性意識障害、13級左眼視力障害、7級神経障害の併合3級を残した将来介護料について、「相応の介護がなければ生活していくことは困難」として日額5000円を認めたもの(平成12年2月9日大阪地裁判決)などもあります。

大阪地裁平成28年3月28日判決

研修医の事故1か月半後に弾発股が発生したとの主張について因果関係を否認して後遺障害の残存も認められないと否認した

解説30代の男性(研修医)が交差点を直進中、右側一時停止道路から進入してきた加害車両に出会い頭衝突され、後遺障害11級(自賠責被害等)を主張して7400万円強の損害を請求した事案です。

大阪地裁は、原告が主張する弾発股及び股関節唇損傷の発生と事故との因果関係を否認しました。

つまり、弾発股の発生機序として「腸脛靭帯が損傷した場合に、治癒の過程で肥厚化し、大転子と接触して弾発股が生じること、及び弾発股が受傷後3週間以降、徐々に進行することを認めるに足りない」としました。

そして、「少なくとも本件事故から10日以上の間、原告には目立った股関節痛が認められなかったことや、原告に弾発股の症状が現れたのは本件事故から約1か月半が経ってからであることに照らすと、本件事故の際に、原告の右半身側面が原告車の右ドアの内側に衝突したことが認められるとしても、弾発股の原因となるような損傷があったとは認められない」と判断しました。

大阪地裁は、後遺障害に関する損害は認めず、休業損害・通院慰謝料等として既払い金を除き、約120万円の損害を認定しています(過失1割)。

弾発股(だんぱつこ・snapping hip)とは、股関節の運動に伴って弾発現象(パキンと音が聞こえる等)を生じる複数の病態の総称をいいます(「今日の整形外科治療指針・第6版)。スポーツをする小児から青年にみられる股関節周辺の筋腱や靱帯による弾発と疼痛を来す疾患とされ、運動による繰り返される機械的負荷が発生原因と考えられています(医学大事典・第2版)。

本件のように、事故と受傷との因果関係が争われる場合、主張する障害の発生機序、事故から障害発生までの時間、障害の治療経過等が問題になります。

大阪地裁平成28年2月5日判決

第1事故で左膝痛12級を受ける28歳男子の第2事故による左膝可動域制限を10級認定し、加重部分を第2事故と因果関係のある後遺障害と認めた

解説タクシーとの衝突事故によって28歳男性が、左膝可動域制限を10級の後遺障害を負った事案です。

裁判所は、「原告は、第1事故によっても同じ左膝前十字靱帯を損傷しており、第2事故以前に、左膝の可動域がすでに12級7号に相当する程度に制限されていた」と認定した上、「第2事故と相当因果関係のある後遺障害としては、左膝可動域制限のうち、12級相当から10級相当に加重された部分というべきである」と判断しました。

その一方において、「第1事故による後遺障害の存在により第2事故後の治療が増大したとまでは認められず、積極損害について、第1事故による寄与度減額をするのは相当でない」と判断したものです。

当該交通事故によって被害を被る前から後遺障害が存在する場合、既存後遺障害部分を損害としては控除すべきかが争点になります。本判決は左膝という同一部分であることから既存後遺障害部分を控除、つまり既存の12級から10級に重くなった部分に限定して、本件事故と因果関係があると判断したものです。

また裁判所は、逸失利益については、原告が症状固定時に30歳と若年であることから、後遺障害による影響が長期に渡るとした上、67歳までの37年間の労働能力の喪失期間を認定し、10級の27%から、12級の14%を控除した13%の労働能力喪失率を認定したものです。

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