金沢地裁 令和5年1月19日判決
原告主張の12級13号頸椎椎間板ヘルニアは本件MRI画像において椎間板膨隆が外傷性であることを裏付ける出血や浮腫等の所見は窺われない等から本件事故による頸椎椎間板ヘルニアの発症を否認し2割の素因減額を適用した
解説
【事案の概要】
原告(専業主婦)は、片側2車線道路の追越車線を走行中、被告車両が前方の走行車線から車線変更してきたため急制動措置を講じたところ、頸椎捻挫、左大腿部打撲傷、外傷性頸椎椎間板ヘルニア等の傷害を負い約7ヶ月通院しました。
自賠責非該当も、原告は、外傷性頸椎椎間板ヘルニアから12級13号後遺障害を残したとして、既払金を控除した約860万円を求めて訴えを提起しました。
裁判所は、原告主張の本件事故による頸椎椎間板ヘルニアの発症を否認、2割の素因減額を適用しました(確定。自保ジャーナル2158号57頁)。
【裁判所の判断】
裁判所は、原告の治療について、原告のB病院における頸椎捻挫等の治療は、本件事故によるものと認めるのが相当であり、本件事故前から存在した傷病や症状により同病院における治療が長期化したことを認めるに足りる的確な証拠はないとしました。
一方で、原告は、本件事故前からCクリニックに通院して治療を受けていたことが認められ、同クリニックにおける治療内容は、本件事故前後において特に相違は認められないとした上で、本件事故後の同クリニックにおける治療は、本件事故に起因する傷害に対する治療のほか、同人の既往症に対する治療も含まれるというべきであり、原告の既往症が本件事故による損害の拡大に相当程度影響したと認められると判断しました。
そのため、裁判所は、損害の公平な分担の観点から、原告の治療費、文書料、通院交通費及び通院慰謝料の損害について、20%の割合で減額することが相当であると判断しました。
また裁判所は、原告の後遺障害について、原告に頸椎椎間板ヘルニアの後遺障害が生じたとは認められないと判断しました。
つまり、原告の本件事故前に撮影されたMRI画像においてもC4/5の椎間板膨隆が認められ、また、本件MRI画像において、同部の椎間板膨隆が外傷性であることを裏付ける出血や浮腫等の所見は窺われないことからすれば、上記の椎間板膨隆が本件事故により生じたものとは認められないとしました。
原告は、本件事故約10ヶ月前の交通事故によって受傷しており、E病院において外傷性頸部症候群の診断を受けたこと、同日に撮影されたMRI画像においてC4/5の椎間板膨隆が存在し、その頃に行われたSpurlingTestの結果が左陽性であったこと、原告は、同事故後、同病院やCクリニックにおいて、頸部の痛み等を継続して訴えていたことが認められ、これらの事実に照らせば、仮に本件MRIにおいて認められる椎間板膨隆が外傷性のものであるとしても、本件事故約10ヶ月前の交通事故により生じたものというべきであり、本件事故により生じたものとは認められないと判断しました。
なお原告は、原告の自覚症状として、頸部痛、左上肢の痺れがあり、自覚症状に合致する神経学的所見が存在する旨主張するが、これらの自覚症状や神経学的所見もまた、本件事故前から存在していたものというべきであり、本件事故により生じたものとは認められないとしました。
【ポイント】
外傷性頸椎椎間板ヘルニアの発症・因果関係については実務上、争われることの多い事例です。
大阪地裁令和3年12月7日判決(自保ジャーナル2115号)は、乗車中のタクシーが急制動したことから、頸椎椎間板症ヘルニアを発症したとする原告(30代男子)について、本件事故の際、頸部が前後に揺り動かされて過伸展・過屈曲した様子も窺われないことからも、頸部に強い軸力が加わり、あるいは、局所的な椎間の強い狭窄が生じたとは考え難いとして、本件事故による発症を否認しました。
大阪地裁平成24年12月5日判決(自保ジャーナル1887号)は、原告(40代男子)の外傷性頸椎椎間板ヘルニアの発症について、事故前から、加齢性による脊椎の変性があったが、それが通常見られる加齢性の変化の範囲から逸脱するものであったとは認られず、本件事故によって外傷性頸椎椎間板ヘルニアとなったと認定しました。
名古屋地裁平成30年10月2日判決(自保ジャーナル2035号)は、原告(50代男子)の頸椎椎間板ヘルニアの発症につき、原告には、強い脊柱管の狭窄があるところに、経年変化による椎間板の変性・膨隆が加わって発症してきた「頸椎症性脊髄症」と診断することが可能であると本件事故との因果関係を否認しています。