京都地方裁判所 令和6年10月31日判決
タクシー降車時に右足を車体下に巻き込まれ右足関節脱臼骨折等の傷害を負った日本を旅行中の60代女子主張の併合11級右足膝関節痛等を自賠責同様14級9号右足関節痛等と認め入通院慰謝料を130万円と認定した
解説
【事案の概要】
日本を旅行中の外国籍の原告(60代女性)は、被告会社従業員が運転するタクシーの後部座席から降車しようと右足を外に出したところ、被告車が後退して右足を車体下に巻き込まれ、右脛誹骨骨幹部骨折、右足関節脱臼骨折、右膝蓋骨骨折等の傷害を負い、約2年3か月間通院し、右膝痛及び右足関節等から自賠責14級9号後遺障害認定も、12級13号右足膝関節痛及び同右足頚部痛から併合11級後遺障害を残したとして、既払金を控除し約1220万円を求めて訴えを提起しました。
裁判所は、原告主張の後遺障害11級は否認しましたが、自賠責同様14級9号右膝痛等を認め、センサス女子学歴計同年齢平均を基礎収入に5年間5%の労働能力喪失で後遺障害逸失利益を認定し、入通院慰謝料を130万円と認定しました(確定。自保ジャーナル2188号58頁)。
【裁判所の判断】
原告は、右足膝関節及び右足頚部に後遺障害等級12級13号に該当する神経症状が残存したと主張しました。
これに対し裁判所は、原告の右膝及び右足関節の骨折部の骨癒合は良好であり、原告主張を裏付ける他覚所見も明らかとなっていないことからすると、原告の上記主張を採用することはできないとしました。
ただし、原告に残存した右膝蓋骨骨折後の右膝痛等の症状、右脛誹骨骨幹部骨折及び右足関節脱臼骨折後の右足関節痛等の症状については、将来において回復が困難と見込まれる障害と捉えることができるから、後遺障害等級14級9号に該当すると判断しました。
また裁判所は、入通院慰謝料について、原告は本件事故により、右脛誹骨骨幹部骨折等の傷害を負い、29日間入院したこと、原告は帰国後、合計15回の通院をしたこと、これらに加えて、原告が日本語に不自由であったため、原告の入院中、意思疎通等の便宜のため、原告夫や原告友人が原告に付き添っていたこと、本件事故は外国人である原告が日本旅行中に生じたものであって、その後の予定変更を余儀なくされるなど原告が受けた精神的苦痛の程度は大きかったと解されるとして、入通院慰謝料を130万円と判断しました。
そして裁判所は、後遺障害逸失利益について、原告は本件事故当時、原告夫と2人暮らしであり、家事従事者であったと認められる。そして、原告は症状固定時68歳、原告に後遺障害等級14級9号に該当する後遺障害が残存した。以上によれば、原告の基礎収入は307万1300円(賃金センサス令和3年女子学歴計65~69歳、労働能力喪失率は5%、労働能力喪失期間は5年として、後遺障害逸失利益を認めるのが相当であると判断しました。
【ポイント】
インバウンド需要から日本を観光する外国人が高止まりしています。旅行中に紛争に巻き込まれて相談する外国人も増えている印象です。
一方、来日した外国人が何らかの被害を受け、被害請求できないことで苦慮する日本人も増えています。
本件は特に複雑な争点があるわけではありませんが、旅行中の外国籍の原告が長期入通院したという一事例になります。