古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

医療問題弁護団全国交流集会が開催、これからの患者側弁護士に求められるもの

医療問題弁護団全国交流集会が開催

 医療問題弁護団の全国交流集会が2017年10月27日、28日の両日にわたって東京イイノホールにて開催されました。

 全国交流集会は、全国各地で患者側弁護士として活動する弁護団・研究会が年に1度集い、様々な研究発表を行うもの。40年に渡って継続していることになります。
 また東京医療問題弁護団が今年40周年を迎えましたので、28日午後には「40周年記念シンポジウム」も開催されました。

 初日の10月27日は、筑波記念病院リハビリテーション科の関寛之医師の講演「高齢者に潜む怖い障害 廃用症候群」に続いて、医療事故研究会・東京が「高齢者の身体機能の低下と高齢者医療」という研究発表。

 休憩後には医療問題弁護団顧問の鈴木利廣弁護士(28期)が基調講演「医療と人権活動 41年間のかかわり」を行い、続いてパネルディスカッション「これからの患者弁護士に求められるもの」も行われました。

 2日目には九州・山口医療問題研究会(福岡県弁護団)の若手弁護士が「問診義務違反」の裁判例の分析結果を公表するなど2日間にわたって充実した交流集会になりました。

 ちなみに2023年の全国交流集会は、12月2日、横浜において「近年の鑑定の実情について~事案分析から~」というテーマで行われます。

 そして過去の全国交流集会の主なテーマは以下の通りです。

2022年 第44回 九州・山口医療問題研究会主催で画像診断についての報告

2020年 第42回 初めてのオンライン開催となり、「第一審勝訴判決までの弁護団活動~近時の裁判例から」、「自由診療分野における法律問題」、「がんの見落としと5年生存率の関係性」

2019年 第41回 静岡県医療問題弁護団主催で基調講演「医療者が医学的知見をどのように獲得するか」、「診療ガイドラインに関する最近の裁判例」

2018年 第40回 鳥取県米子市にて。基調講演「医療事故の背景にある医師の過重労働問題」

廃用症候群とは

 筋短縮症の裁判にもかかわったという関医師からは、高齢者に潜む怖い障害として廃用症候群についてスライドに基づいて医学的な解説をしていただきました。

 廃用症候群(disuse syndrome)とは、過度の安静による二次的障害をいいます。
 過度の安静によって、単に筋萎縮や骨萎縮を来すだけでなく、皮膚の萎縮や褥瘡、心拍出量の低下や起立性低血圧、肺換気障害、静脈血栓症、食欲低下・便秘、尿路結石・尿路感染症,認知症、抑うつなど局所症状のほかに全身症状を来すことが報告されているもの。

 高齢者医療では転倒を避けることが重要です。ところが転倒・せん妄・便秘を生じやすい薬剤が投与されていることも少なくありません。例えば睡眠薬・抗不安剤・抗うつ剤・降圧剤・抗パーキンソン病薬などです。

 骨というのは「カルシムの貯蔵庫」。骨に重力負荷や運動負荷が加わると骨の形成が促進されます。逆に負荷が加わらないと骨は吸収されることになります(ウォルフの法則)。
 骨粗鬆症とは、骨形成が吸収に追いつかない状態をいうわけです。

 運動器障害としては、圧迫性腓骨神経麻痺によって下垂足が発生して、医療過誤として問題になることもあります。

 循環器障害としては、深部静脈血栓があります。静脈還流のメカニズムは心臓ではなくふくらはぎの筋収縮による絞り上げによって心臓に運ばれるわけです。「ふくらはぎは第二の心臓」といわれる所以です。

 呼吸器障害としては誤嚥性肺炎が典型です。肺内で1個のブドウ球菌は1時間で2倍になりますから、12時間で4000個、36時間で700憶個になります。

 消化器障害としては便秘が重要です。「開腹して便秘による腸閉塞を回避した事例もあったくらい」ということです。胃結腸反射として、食物が胃に達すると結腸、直腸の蠕動が起こります。ところが臥位では胃での食物の通過時間が延長してしまいます。

 以上のように高齢者には様々な廃用症候群が発生しかねませんので注意が必要になるものです。

高齢者医療と医療過誤裁判

 続いて医療事故研究会(東京)の弁護士から高齢者医療の特徴と裁判例の分析について発表されました。

 厚生労働省の患者調査によると、全患者に対する高齢者の割合が増加しています。つまり入院患者のうち65歳以上が71パーセントを占め、75歳以上も51パーセントになっています。
 当然ですが、患者の高齢化に伴って医療事故相談対象患者も高齢化しています。例えば、65歳以上が44パーセント、75歳以上が26パーセントという統計もあります(平成26年から28年までの3年間・医療事故研究会東京調べ)。

 高齢者に対する医療行為については、「手術適応に関する問題」、「検査に関する問題」、「薬剤投与に関する問題」などがあり、それぞれの分野からピックアップした6つの裁判例について解説がありました。

これからの患者側弁護士に求められるもの

 休憩に続いて医療問題弁護団(東京)の企画として、鈴木利廣弁護士による基調講演が行われました。
 もう70歳だと自分で笑われていましたが、相変わらずの鈴木節がさく裂の講演会でしたので、そのエッセンスをご紹介しましょう。

 28期の司法修習した際、同期10人が先輩弁護士の勉強会7~8つに分担して参加することになった。
当時は公害事件が華やかで自分も関わりたかったが、東京は公害訴訟がなかった。

 じゃんけんに負けて(笑)自分が偶然、医療勉強会に参加することになった。そこで渡辺良男弁護士に出会い、翌1977年、医療問題弁護団を立ち上げた。

 弁護士法は1条1項(基本的人権の擁護と社会正義の実現)を指摘されることが多いが、2項がより大事だと思う。
 2項とは、誠実職務(利益相反管理)、社会秩序維持(法解釈学)、法律制度改善(法政策学)だ(「弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない」)。

 専門職責任というものは組織としての責任になる。
 専門職責任としての「心・技・体」は、「熱き心」、「高い専門技術」、「機敏な行動力」を意味する。
 なかなか一人で兼ね備えるのは難しい。例えば新人弁護士は「熱き心」があっても「高い専門技術」はまだない。中堅弁護士は「高い専門技術」を備えても「熱き心」が失われてくる。ベテランも「機敏な行動力」がなくなってくるという塩梅だ・・・それは若手弁護士・中堅弁護士・ベテラン弁護士が組織としてかかわることによって、組織として実現可能になる。

 自分は混合型専門弁護士を目指してやってきた。つまり、患者側医療専門弁護士と一般事件総合弁護士の混合型だ。

 そして医療過誤事件にたずさわる患者側弁護士の臨床実務としては、「実態調査の開発」、「訴訟技術の開発」そして「裁判外紛争解決(ADR)の開発」を指摘しておきたい。

 まず「実態調査の開発」としては、診療録情報入手・分析、医学文献・検索、専門家意見聴取が必要になる。

 40年前はカルテの入手自体が困難な時代だった。裁判所の証拠保全も活用されていなかった。そこで1980年の日弁連大会で「医療過誤の手引き」という薄い冊子を配ったが、飛ぶようになくなったことを思い出す。その冊子の3割~4割がカルテ入手のノウハウについてであった。

 次に「訴訟技術の開発」としては、「展開的損害賠償責任要件論」と「戦略的民事訴訟手続き論」がある。
 前者では公害訴訟の理論をいかに医療過誤訴訟に応用できないか考えてきた。
 後者では審理の迅速化と充実化は矛盾しないと考えるようになった。どんどん審理が早くなってきた集団訴訟の考えを医療過誤訴訟にも応用してきた。

 今日のまとめとしては、再発防止(制度改善)と修復的正義論の視点を強調しておきたい。
 自分は薬害(HIV・肝炎)を2つやってきたが、製薬企業は口だけで反省していない。修復的司法、つまり双方がともに制度を変えていくという次元まで到達しないと真の薬害防止は実現できないのではないかと思っている。

 そして最後に鈴木弁護士は40年以上の患者側弁護士としての活動の中で、印象に残った言葉として次の6つを上げて、若手弁護士にエールを送りました。

「被害に始まり、被害に終わる。事実が弁護士を鍛える」(1975年 公害弁連)

「患者の心を心として」(1976年 渡辺良夫)

「情報と決断と方策の共有」(1984年 木村利人)

「情報は民主主義の通貨、弁護士は公正のエンジン」(1989年 ラルフ・ネーダー)

「裁判に勝つことよりも、民衆のいかりに火をつけることの方が重要だ」(1995年 アーサー・キノイ)

「自分のことなら諦められる、人のためなら頑張れる」(2007年 薬害肝炎原告)

 鈴木弁護士の講演後、全国の若手弁護士が登壇したパネルディスカッションでも、いかに先人のノウハウを受け継ぎ、また熱い気持ちで医療過誤問題に取り組んでいくのかについて積極的な意見交換が行われました。

 専門家弁護士による研究会は技術的なノウハウだけでなく、その基本的な心構えも承継していくものだと改めて感じた1日でした。

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参考文献

・「医療基本法 患者の権利を見据えた医療制度へ」(医療基本法会議編・エイデル研究所)

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。