画像診断報告書の確認不足による治療遅れが37件報告、未確立の業務工程が背景に
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画像診断報告書の確認不足が37件報告
公益財団法人日本医療機能評価機構が、「医療安全情報」138号・2018年5月号にて画像診断報告書の確認不足を取り上げました。
「画像診断報告書の確認不足」については、2012年2月に医療安全情報63号(2012年2月)で取り上げられていましたが、その後も画像診断報告書を確認しなかった事例が37件報告されています(2015年1月1日~2018年3月31日)。
画像を確認した後、画像診断報告書を確認しなかったため、検査目的以外の所見に気付かず、治療が遅れた事例が報告されています。
1つめの事例
外来診察日に肝内胆管癌術後のフォローアップでCT検査を行ったケースです。
CT検査後、主治医は画像を見て患者に説明し、その後画像診断報告書の確認を忘れてしまいます。5ヶ月後、再度CT検査が行われた際、放射線科医師が過去のCT画像と比較しようとしたところ、5ヶ月前の画像診断報告書が未読であり、肺癌疑いと記載されていることに気付いて主治医に連絡されたというものです。
2つめの事例
2つめの事例は、外来診察日に腎癌の精査で造影CT検査を行ったものです。
医師は外来診察中に画像を見て患者に説明したものの、その後画像診断報告書の確認を忘れました。
患者が腎癌の手術目的で入院した際、担当医が3ヶ月前に実施した造影CT検査の画像診断報告書において、「肝臓に悪性腫瘍の転移が疑われ精査必要」と記載されていることに気付いたというものです。
確認しなかった背景とは
画像を確認しなかった背景としては、2例のように「画像で検査目的の部位を見て患者に説明した際、画像診断報告書が作成されておらず、その後見るのを忘れた」というものや、「前年の同月の画像診断報告書を当日の報告書だと誤認した」というケアレスミス型があります。
さ らに、「画像診断報告書を見る習慣がなかった」「専門領域の読影に自信があり、画像診断報告書を見なかった」という専門職としての技術未熟型のほか、「CT検査とMRI検査を同時期に行い、MRI検査の結果で診断が確定できたため、CT検査の画像診断報告書を見なかった」という自信過剰型もありました。
再発防止のために
事例が発生した医療機関においては、「画像診断報告書を確認してから患者に説明する」、「画像診断報告書が未読の場合に気付ける仕組みを構築する」という取組を開始しました。
日本医療機能評価機構の総合評価部会は、「画像検査~画像診断報告書の確認~患者への説明」の流れを整理し、業務工程を確立するように求めています。
患者も参画、東京慈恵会医科大病院の実践
先日、東京慈恵会医科大病院(東京都港区)が2018年4月から、画像診断報告書を患者にも提供することを開始しました。これは医療事故を防ぐ取組に、患者参画も求めるもので日本医療機能評価機構の指摘とはまた異なる独自の対応といえます。
東京慈恵会医科大病院では、患者が2015年にCT検査を受けて肺がん可能性が指摘されていたにもかかわらず、主治医が報告書を見落とし1年後に肺がんが見つかった時には既に手遅れで患者が死亡するという医療事故が発生しました。
病院が設置した第三者委員会が再発防止策を求め、診断医がCT報告書等を電子カルテに入力する際、自動的に概要が作られるシステムを構築し、これを主治医が患者に手渡すことにしたものです。
検査報告書の見落としや共有漏れという医療事故は法律相談でも少なくない典型的な医療事故類型。報告されていないケースも含めるとかなりの数が発生していると推測されます。
各医療機関においてリスクを認識した上で、できることから意識的に取り組むことが最初の1歩といえるでしょう。
投稿者プロフィール
- 弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。