ハンセン病旧菊池医療刑務支所が移設復元へ、恵楓園自治会が法務省・厚労省と合意締結
強制収容されたハンセン病患者の専用刑務所として、菊池医療刑務支所が菊池恵楓園近くに長く設置されていました。
菊池医療刑務支所は昭和28年から法廃止される平成8年まで実に43年に渡って熊本の地にて運用されていたものです。
現在問題になっている藤本事件の元患者もこの専用刑務所に収容されていました。
また、専用刑務所内には臨時法廷も設置されました。通常の裁判所における公開法廷ではなく、この専用刑務所内において裁判が実施されていたのです。
ハンセン病違憲国賠訴訟(1998年提訴。2001年判決確定)が熊本地方裁判所に継続中、私は原告弁護団として検証の責任者となりました。
担当になってまず行ったのは全国12の療養所を訪問すること(駿河療養所だけ訪問する機会がないままでした)。各療養所の資料館・資料室や在園者の手持ち資料から様々な文献や写真を収集した上、検証指示説明書にまとめ上げていったのです。
ただ専用刑務所の資料はあまり開示されておらず、なかなか手に入れることができず苦労したことを思い出します。
それでも熊本訴訟の検証では、この専用刑務所も指示対象に入れて、裁判官を門前まで引率して説明を行いました。
平成8年以降利用されなくなった専用刑務支所については、近年、取壊しの話が出ていました。
これに対して、強制収容の歴史を如実に物語る歴史的資料として、全国原告団・弁護団・自治会が保存を強く求めていたものです。
ハンセン病対策協議会でも議題に上げて、以下のように、平成29年度ハンセン病問題対策協議会における確認事項ともされていました。
旧菊池医療刑務支所については、厚生労働副大臣から法務副大臣へ保存に関する連携要請を行い、事務方が継続的に協議していくことについて合意を得ている。今後の刑務所建物の撤去に関しては、跡地にハンセン病患者だけの刑務所が設置されていたことを残すモニュメントないし石碑の建立、及び、建物一部の菊地恵楓園内への移設と啓発利用につき、厚労省と法務省で早急に相談の場を作り、自治会を含めて両省で協議・協力して、普及啓発にしっかりと取り組んでいく。
そして今般、旧菊池医療刑務支所の単独房の施設を菊池恵楓園内に移設して復元する内容にて、恵楓園自治会・厚労省・法務省が2018年7月31日、合意に達しました。
単独房は男性9室、女性1室がありました。そのうちの単独室の扉、鉄格子、便器、洗面台及び暖房機を移設するもの。また旧施設外塀の白色鉄扉も移設されます。
また記念碑を建立することでも合意に達しました。旧菊池医療刑務支所跡地には2021年、合志市が小中一貫校を開設しますが、その正門に石碑を設置するというものです。
旧菊池医療刑務支所はいわばハンセン病患者に対する差別・偏見の象徴。ハンセン病患者に対する差別偏見を今改めて考え、そして後世につないでいく上で貴重な歴史的な資料になることでしょう。
旧菊池医療刑務支所の建造物および跡地に関する合意事項
平成29年5月11日付で菊池恵楓園入所者自治会長から法務省矯正局長宛に提出された要望書及び厚生労働省と統一交渉団との「ハンセン病対策協議会」における確認事項等に基づき、下記のとおり合意する。
1 旧菊池医療刑務支所の設備の移設等について
⑴ 法務省は、旧菊池医療刑務支所の設備等の一部を取り外し、同設備等を菊池恵楓園内の指定された場所に運搬し、恵楓 園入所者自治会に譲与する。譲与に当たっては、法務大臣名の譲与証を交付する。
<譲与する設備等>
・ 単独室の扉、鉄格子、便器、洗面台及び暖房機
・ 門扉(旧施設外塀の白色鉄扉)⑵ 厚生労働省は、社会交流会館に旧菊池医療刑務支所の単独室を復元し、上記⑴の設備等を展示する。
2 碑の設置について
法務省は、石材製のプレートを用意し、旧菊池医療刑務支所跡地に整備される合志市立小中学校の正面に碑として設置することを合志市に対し依頼する。
碑文は以下の通りとする。<碑文>
旧菊池医療刑務支所跡地熊本刑務所菊池医療刑務支所は、ハンセン病の患者である被収容者を収容する専用の刑事施設として、昭和28年3月、この地に設置され、昭和61年3月に全体改築が行われた後、平成8年3月、らい予防法の廃止に伴って、収容を停止した。
その間に延べ117名(うち全体改築後は1名)の被収容者が収容され、所内に設置された臨時法廷では、ハンセン病を理由とする開廷場所として指定される運用が行われることとなった。
ハンセン病患者に対する偏見や差別を助長することにつながる事態が二度と引き起こされることがないよう、願いを込めてこの碑を建立する。
法務省
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投稿者プロフィール
- 弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。