古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

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AIと専門家責任、AI導入による医師・医療機関の法的責任とは

AIと医師の専門家責任の関係

 いわゆるAIの普及によって、医師はもちろん、弁護士・会計士といったプロフェッショナルがどのような責任を負うかが問題となってきます。
 論究ジュリスト29号(128頁)が「AIと社会と法~パラダイムシフトは起きるか?」として「専門家責任」を特集しており興味深い内容でした。

 今後、医師の診察・診断・治療という様々な診療行為にAIが随時導入されていくと思われます。その過程では、医師や医療機関の責任がどのような影響を受けることになるのでしょうか。

 AIの性能が格段に向上して、いわば医師の能力水準に到達した段階でも、患者の生命・身体を保護するためには、AIが単独で診断・治療するということにはなりえません。
 そもそも患者と診療契約を締結する当事者はAIではなく、医師・医療機関なのですから当然といえば当然です。医師は、履行補助者というべきAIの判断、例えば、AIが提示する疾患や治療方法を参考としながらも、最終的には主体となって判断して治療方針を決定すべきです。

 この点、厚労省も2018年12月19日、人口知能を用いた診断・治療支援を行うプログラムを利用して診療を行う場合について、「診断、治療等を行う主体は医師であり、医師はその最終的な判断の責任を負うことになる(医政医発1219第1号)」という判断を示している通りです。

 要するに、診断及び治療方針の決定は、最終的に医師が判断するものにほかなりません。
 したがって注意義務に反した診断や治療については、現状と同じ範囲において、医師が過失責任を負担することになります。

医師の最終判断という前提があてはまらない場合は

 ジュリストの座談会は、以上を前提に「医師の最終判断という前提があてはまらない場面」を想定して、AI時代の専門家責任について掘り下げていきます。

 例えば、「AIが異常なしと判断した結果、医師が読影しなかった。しかし後でAIが読み取った画像の中に検出可能な異常が含まれていたことが分かった。医師が見なかった結果、病気が進行してしまった場合に、AIを使った医療機関の責任をどのように考えるべきか」(設問1)。

 また「AIの判断能力が特定分野の専門医の水準に近付いた場合、専門医でない医師自らの判断・経験知に基づく判断とAIの提示してきた判断がぶつかったときに医師はどうするべきか」(設問3)等について意見交換されています。

 設問3は、非専門医の判断と専門水準の高まったAIの判断が衝突する場面といえるでしょう。
 識者は、「より上位の医療機関に転送して専門医の診断を受けさせることによって、専門医の最終判断を確保するというものです。これが最も実際的な解決かと思います」(132頁)と指摘しています。
 AIの判断がいわゆる転送義務(転院義務)を基礎付けるといえるかもしれません。

 しかしより上位の医療機関における専門医の判断とAIの判断が食い違うという局面も残ります。むしろその場合にこそ難しい問題が出てくるように思われます。例えばAIが進んでいる将棋の世界でも、1年前のAIは現在のAIに負けると言いますし、逆に、一流棋士がAIの思いもよらぬ手を打つ場面もあれば、その逆の場合もあるのです。

 専門医の判断と専門性を備えたAIの判断が食い違う場合には、当該専門医は患者に対して、自己の知識と経験に基づく判断を伝えるとともに、AIの判断も示した上、意思決定してもらうことも求められるでしょう。
 またその上で、専門医としての最終決断が求められることには変わりがないと思われます。

AIと弁護士業務

 これに対して、弁護士の世界では医療の「画像診断」のようにAIがストレートに活用できる場面は少ないと思います。

 それでも判例検索ソフト等の進化によって同種事案の筋(勝ち筋、負け筋程度)が見えやすくなる、という時代は来るのかもしれません(古賀克重法律事務所では、判例検索ソフトとして、「判例秘書」と「Westlaw Japan」の2社を導入していますが、事案によってひっかかりには違いがありますし、そもそも検索ワードによって判例を調べるというステージにとどまり、判決の射程・判断のポイント・当該事案の見込みは、弁護士の経験と能力による判断・スクリーニングが不可欠です)。

 とはいえ、個別の事案における証拠の探求、相手方の説得、依頼者との方針決定、尋問の実施、裁判官との協議などAIだけでは補えない職務が大半を占めます。
 その意味でまさに弁護士でないと行えない作業は多く、AI時代にも弁護士の業務は、よい意味でも悪い意味でもさほど変わらないと予想していますが、さてどうなるでしょうか。

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。