映像で学ぶ薬害シリーズ「ジフテリア予防接種禍事件」が完成、予防接種における世界最大規模の健康被害とは
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映像で学ぶ薬害シリーズ「ジフテリア予防接種禍事件」が完成
映像で学ぶ薬害シリーズ「ジフテリア予防接種禍事件」が2020年2月、完成しました。
医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団(旧「日本公定書協会」)から贈呈頂きましたのでご紹介したいと思います。
平成22年に薬害肝炎事件検証委員会がまとめた薬害再発防止に向けた最終提言が公表されました。その中では薬害教育の重要性が指摘されています。
医療・医薬品のすべての関係者は、各々の薬害の実態を学び記憶にとどめることで、薬害発生の防止につなげていくことが求められています。「映像で学ぶ薬害シリーズ」はこのような趣旨にて制作されているものになります。
映像で学ぶ薬害シリーズ「薬害の知識と教訓」としては、ジフテリア予防接種禍事件以外にも、クロロキン、スモン、イレッサ、ヤコブ、MMRワクチンなどが制作されています。
また薬害教育DVDシリーズとして、「温故知新~薬害から学ぶ~」も別に発刊されており、サリドマイド、薬害エイズ事件、薬害肝炎事件、陣痛促進剤による被害などが取り上げられています。
ジフテリアとは
ジフテリア予防接種禍事件は今から70年以上前に1000人以上の被害者を出して84人の子供たちがなくなったという健康被害事件です。
死者84人は京都府68人、島根県16人でした。
ジフテリアとは、飛沫感染によってジフテリア菌が喉(上気道粘膜)に感染する感染症です。ブルネックと言われるほど咽頭が腫れあがる特徴があります。
怖いのはそれだけではなく治癒しかけの時に毒素を出すため、毒素による合併症にも注意を要することです。心筋障害、急性尿細管壊死、抹消神経障害によって急速に悪くなることもあり、致死率は10%前後と高いものです。
治療としては、細菌ですので抗菌薬(エリスロシンやペニシリン)が静脈点滴されます。くわえて毒素に対する治療も必要になり、抗毒素療法(馬による血清)も必要になることがあります。
日本でも年間数万人が感染して、数千人が死亡したという記録が残されていますが、ワクチン(ジフテリアトキソイド)が開発されてからは激減し、1999年以降は発生していません。
ジフテリア予防接種禍事件とは~1000人を超える被害
それではジフテリア予防接種禍事件とはどのような経緯だったのでしょうか。
ジフテリアワクチンは1933年には開発されていましたがしばらく日本では広がりませんでした。
その状況を変えたのは、実は、「第二次世界大戦」だったのです。
1945年5月、アメリカは、日本占領後の連合国兵士の健康を守るため公衆衛生計画の検討を開始しました。
そして戦後、日本に進駐したアメリカは、アメリカ兵士の健康を守るためジフテリア予防接種への対応を日本に求めます。1948年6月に成立した予防接種法は、ジフテリアを含む12疾病の予防接種を義務化するものでした。予防接種を行わないと罰金3000円(現在の貨幣価値で30万円)を科すという異例な内容をも含んでいました。
実は1948年当時は、ジフテリア患者数は既に日本でも減少傾向にありましたが、予防接種法に基づく予防接種がすすめられていったのです。
まずジフテリア予防接種の先駆けとなったのは京都でした。
「京都府ジフテリア予防接種実施要領」を定めて、京都府が1948年10月18日に予防接種を開始しました。同年10月20日に2回目の接種で1万5561名に使用されました。
ところが同年11月8日以降、接種した子どもに健康被害が続出し、死亡者も出るに至ったのです。ワクチンに残留していたジフテリア毒素が原因と断定されたのは11月25日だったため、血清療法の時期を逸してしまうなど被害を広げてしまいました。
また島根県でも被害を避けることができませんでした。
島根県では1948年11月5日にジフテリア予防接種が開始しました。4日後の11月9日には京都微生物研究から島根県衛生部に「接種見合わせ」との電報が届きました。
ところが県衛生部は、近隣の保健所にのみ通知し、県内全保健所への通知を怠ったのです。結局、島根県でも322名の被害者、16名の死者が発生していまいました。
予防接種による健康被害事件としては、1929年から1930年にドイツで発生した「リューベックの悲劇」が有名です。
結核生ワクチンのBCG投与による結核発症によって、251名の被害者・72名の死者を出した事件です。
これに対してジフテリア予防接種事件は、京都府と島根県で1000名以上の被害者・84名の死者を出し、予防接種における世界最大規模の事件となったのでした。
ジフテリア予防接種禍事件の原因
どうして当時、ジフテリアワクチンが無毒化されずにこれほどまでの健康被害を発生させてしまったのでしょうか。
その原因としては「製造方法」と「国家検定の実施方法」の2つが指摘されています。
例えば「製造方法」の問題点は、大阪日赤医薬学研究所が国の指示を守らなかったことです。
国は20リットルのフラスコ1つを使用し1ロットとして製造することを指示していました。ところが大阪日赤医薬学研究所は、5リットルフラスコを4つ使用して1ロットを製造していたのです。しかも4つのフラスコを1つのフラスコにまとめることはせず、別のフラスコから製造されたものであるにもかかわらず、1つのロット番号(No1013)として製造しました。
ところがピペット操作の誤りでホルマリンの量が不足しジフテリアを無毒化できなかったフラスコが発生してしまいます。その結果、同じロット番号であるにもかかわらず、無毒化されたフラスコから製造された製品と無毒化できなかった製品が混在することになったのです。
映像では、以上の「製造方法」の問題点と「国家検定の実施方法」の問題点について、わかりやすく解説されています。
被害者の言葉
映像の最後には、被害者の和気正芳さんのコメントが流れます。
「薬害には必ず人為的要素があります。時代背景が違うという人もいるかもしれません。ですがいつの時代にどんな形で現れるかは別として、薬害が人為的要素によって発生することを忘れてはいけないと思います」
薬害根絶のための講演活動もしていた和木さんは2019年に逝去されましたが、その言葉は今なお我々に重たい課題を投げかけてくれているといえるでしょう。
このほど、薬害教育映像シリーズ「ジフテリア予防接種禍事件」が完成いたしました。
ジフテリアに関する事件は、戦後間もない時期に発生し、被害者の方々は幼いころに体験されているため、情報の収集に苦慮いたしました。近頃、麻疹や風疹、各種のウイルスによる感染症の拡大がニュースになっています。これらの感染症予防には、ワクチン接種が効果的であるといわれています。しかし、そのワクチンも適切に製造や検定が行われ、適正に使用されないと薬害を引き起こすことがあります。本事件のような過去の薬害事件の経緯をたどることで、医療関係者として大きな教訓を学ぶことのできる作品を目指しました。
また本作品は、文部科学省教育映像等審査により「選定」の評価を受けております(一般財団法人 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団)
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関連情報
・感染症情報・ジフテリア(厚生労働省)
・予防接種情報・よくある質問(厚生労働省)
投稿者プロフィール
- 弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。