薬害肝炎救済法延長に向けた取組、7000名の被害者が未救済
目次
薬害肝炎とは
薬害肝炎とはフィブリノゲン製剤及び血液凝固第Ⅸ因子製剤にC型肝炎ウイルスが混入して、1万人を越える患者がC型肝炎に感染したという事件です。
1964年(東京オリンピックの年になります)に製造承認されたフィブリノゲン製剤は不十分なウイルス不活化処理によって1994年ころまで30年に渡って被害者を生み出しました。
2000年8月24日、厚生省前で行われていた薬害根絶デーの集会で、1人の青年がマイクを握ってフィブリノゲン製剤によるC型肝炎感染被害を訴えます。
その訴えをきっかけにして弁護士有志による薬害肝炎研究会が発足しやがて全国弁護団へと発展していきました。
そして厚生労働省が2002年8月、国に責任がないという調査報告書を発表したため、集団訴訟が提起されるに至ったのです。
薬害肝炎訴訟の推移
2002年8月、医療過誤を扱う弁護士や集団訴訟経験のある弁護士が全国から東京に集い、合宿を開催。ここで全国1つの弁護団として5つの地域で集団訴訟を提起する方針が決定しました。
この方針に従って、2002年10月、東京地裁・大阪地裁への提訴を皮切りに、2003年4月には福岡地裁、その後の仙台地裁・名古屋地裁への提訴に至りました。
2002年10月から開始した薬害肝炎集団訴訟は、全国弁護団による議論を通じての方針決定、そして方針に従った5弁護団による実践を通じて進行していきます。
つまり、「一つの原告団・一つの弁護団」を標榜して、「同一主張・同一立証」で審理の分散を図って訴訟活動を行いました。
その結果、2006年6月から2007年9月にかけて5つの判決が出そろい、大阪高裁での和解協議と並行して政府に対する政治決断を迫ります。
そして2007年12月23日、当時の福田康夫総理大臣が官邸で緊急記者会見を開いて、「議員立法による全員一律救済」を表明。同月25日には全国原告団に国の責任を認めて謝罪しました。
その後、薬害肝炎全国原告団弁護団が国と基本合意を締結して、2008年1月16日、いわゆる薬害肝炎救済法が公布施行されるに至ったものです。
薬害肝炎救済法の期限
このように薬害肝炎救済法は2008年1月16日に公布施行されましたが、同条5条1項において、給付金の請求は、「この法律の日から起算して5年を経過する日」までに行わなければならないとされていました。
5年が近づいたところで、薬害肝炎全国原告団弁護団が延長を求めた結果、救済法は2012年9月14日に改正されて、「10年」に延長されました。
この一度延長された10年の期限が来年2018年1月に迫ったため、薬害肝炎全国原告団弁護団はさらに延長を求めているものです。
全国原告団は2017年2月28日、衆議院第1議員会館多目的ホールにて集会「薬害C型肝炎問題は終わっていません!」を開催し、法延長を強く求めたところです。
集会には全国から200名を越える参加者があり、国会議員本人も15名が与野党問わず参加しました。
延長を求める背景
延長を求めるのはまさに被害者救済が進んでいないからです。今も被害者でありながら救済法の存在を知らないC型肝炎被害者や遺族が多くおられます。
被告企業の控えめな推計によっても、被害者は1万人を越えると推定されていますが、全国原告団として救済された被害者は2200名にとどまっており、7000名を越える被害者が救済されていないことになります。
九州・沖縄・山口地区を担当する薬害肝炎九州弁護団は、被害者からの相談を受けて今も福岡地裁に提訴して、和解協議を進めています。
提訴数は373名、和解数は365名に達していますが、九州地区の潜在的な被害者からするとまだまだ少ない現状です。
診療録(カルテ)が廃棄されたり、当時の主治医・看護士などの医療従事者が死亡していることからフィブリノゲン製剤の投与を立証できないケースも少なくありませんが、一方で、診療録が残されていながら、医療機関が調査をせず患者に投与の事実を告知していないケースも少なくありません。
(なお診療録(カルテ)がないケースにおいても、弁護団による調査の結果提訴して、医師や看護士等の尋問によって立証して和解したケースも全原告の1割前後に達しています)。
名古屋原告の宮井留志さんは、「感染者は何の落ち度もないのに不安におびえながら病気と闘っていかなければならない。国はもちろん、結果的に患者を生み出すことになった医療機関も協力して欲しい」と話しています。
薬害肝炎全国弁護団は年に一度の厚生労働大臣との協議会等において、厚生労働省による医療機関の訪問調査を申し入れ、一部行われていますが、まだ大半は手つかずの状態なのです。
原告の思い
東京原告団の浅倉さんは、2月の集会で次のように訴えました。
私は当時、肝炎の感染について医師からは説明を受けられず、当時の看護記録から判明しました。マスコミも含めて薬害肝炎問題を取り組んでくれた結果知ることができました。私たちは当時から全員一律での救済を求めていました。企業推定でも約1万人が感染してとされていますが、私たちはまだ2300人余りしか救済されていません。これは病院調査が進んでいない結果です。このまま救済法の期限が切れてしまうことは見過ごせません。私のように孤独に苦しんでいる人がいます。原告として救済されるためにはとても来年1月では間に合いません。一人でも多くの被害者を救い出してください。救済法の延長をよろしくお願い致します
そして全国原告団代表の山口美智子さんも、「救済されていない被害者のために法改正が必要だ。薬害C型肝炎問題は終わっていない」と強く訴えました。
これに対して集会に出席した国会議員からも「国会の責任として考えて期限延長を実現していく必要がある」、「第三者組織の問題含めて与党も野党もないのでしっかり取り組んで生きたい」という発言が相次ぎました。
薬害の再発防止を監視する「第三者組織」の創設も含めてまだまだ課題は残されており、その解決のためにも薬害肝炎救済法の延長が求められているといえます。
薬害肝炎全国弁護団の問い合わせ先
薬害肝炎九州弁護団(九州・沖縄・山口・広島などの地域を担当)の問い合わせ先は、092-735-1193(平日10時~12時、13時~15時)です。
その他の地域は、東京弁護団(03-5698-8592、平日10時~16時)、東北弁護団(022-224-1504、平日10時~15時)、名古屋弁護団(052-950-3314、火曜・木曜の10時~13時)、大阪弁護団(06-6315-9988、平日12時~15時)です。
弁護団に問い合わせる前に下記の事情を確認して下さい。
C型肝炎に感染したと思われる手術や出産の機会があったか、それは1964年から1994年の間か(問題のフィブリノゲン製剤が使用されたのはこの30年ですので、それ以外の期間はそもそもフィブリノゲン製剤が使用されていません)、当時の医療機関にカルテ(診療録)が保存されているかなどです。
2008年1月に和解が成立した薬害肝炎訴訟は、止血に使われていた「フィブリノゲン」などの血液製剤投与で感染を広げた責任を、国と製薬会社が認め、議員立法による被害者救済法ができた。被害者はカルテや医師の証言などで投与経験を証明できれば、裁判所への提訴・和解を経て補償が受けられる。
しかし、汚染された血液製剤は29万人以上に使われ、うち1万人以上が感染したとされるのに、被害が認定されたのは昨年5月末時点で2243人どまり。救済法は18年1月までに再延長されないと7000人以上の被害者が取り残される。弁護団によると、未救済の被害者は(1)カルテの廃棄などで投与を証明できない(2)投与を知らないか覚えていない--のどちらか。(1)は時間の経過とともに証明がより難しくなっているが、(2)は一部医療機関や弁護団が、当時のカルテの調査を続け、被害者の掘り起こしを進めている。
厚生労働省によると、主な感染原因となったフィブリノゲンは、現存する医療機関だけで5677施設に納入され、うち1269施設には当時の記録が残る。
厚労省は被害者側からの医療機関への照会を進めたいとしている。だが、法律が失効すれば、病院の調査は「必要ない」と打ち切られる公算が大きい(4月9日付け毎日新聞)。
投稿者プロフィール
- 弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。