古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

薬害肝炎全国原弁と根本匠厚生労働大臣との大臣協議2019、劇症肝炎の被害救済を求めて

◆ 薬害肝炎の大臣協議とは

 薬害肝炎全国原告団・弁護団と厚生労働大臣との協議会(大臣協議)が2019年9月5日、厚生労働省内会議室にて開催されました。

 大臣協議とは、薬害肝炎訴訟が解決する際に国と薬害肝炎全国原弁が締結した基本合意書に基き、様々な積み残しの課題について、年に1回、薬害肝炎全国原弁と厚生労働大臣が直接協議を行うものです。

 今年も東北、東京、名古屋、大阪、四国、山口、九州沖縄と全国から多数の原告・弁護士が参加しました。

 大臣協議における課題は、3本柱で構成されています。
 つまり、C型肝炎の治療体制の整備について議論する「恒久対策」、薬害の再発防止の取組を求める「再発防止」、フィブリノゲン・クリスマシン等による薬害C型肝炎被害者の全面救済を求める「被害救済」の3項目です。

 2015年から2017年まで3回の大臣協議は塩崎恭久厚生労働大臣、2018年の大臣協議は加藤勝信厚労大臣との協議を開催。根本大臣との大臣協議は今回が初めてになります(なお2019年9月の内閣改造において加藤勝信議員が再度、厚労大臣に就任しましたので2020年は加藤大臣との協議会になる予定)。

 昨年2018年に山口美智子さん(福岡市・九州原告団)からバトンタッチを受けて全国原告団代表に就任した浅倉美津子さん(東京原告団)にとっては2回目の大臣協議です。

 浅倉さんは、冒頭の挨拶で、「私たちは全国の肝炎患者や薬害被害者の思いを背負ってここに来ています。直前に肝がんと診断された原告も見守っています。私たちは強い覚悟を持って臨んでいますので、根本大臣自身の言葉で回答して頂きたい」と述べました。

 2019年の大臣協議から、恒久対策と被害救済の2分野についてレポートしたいと思います(再発防止は大事な問題であり法改正もありますので改めて取り上げる予定です)。

◆ 恒久対策~肝炎治療の地域間格差の解消

 「恒久対策」の分野では2018年は「C型肝炎治療の地域間格差」を取り上げましたが、2019年は「肝硬変・肝がん患者の医療費助成制度見直し」を取り上げました。

 この問題を取り上げたのは、制度自体の周知徹底が不足していると思われ、助成を受けられる指定医療機関自体が少なく、さらに制度利用の要件がとても厳しいなど問題があるからです。
 薬害肝炎全国原告団弁護団は全国の医療機関に緊急アンケートを実施した上、2019年度のテーマに設定したものです。

 例えば、九州原告団弁護団は、九州・沖縄・山口の9医療機関に緊急アンケートを実施し、8医療機関からの回答を得ました。

 医療機関にとってもこの制度は使い勝手が悪いことが浮かび上がりました。
 医療機関にとって使いにくい点としては、下記の指摘がなされました。

制度が分かりにくい

 制度利用が可能な患者が少ない

 患者への周知・説明がしにくい

 病院の事務負担が大きい

 複雑である

 入院記録票の作成に手間と時間がかかる

 このような医療現場の声にくわえて、実際に助成制度に該当しない肝がん患者である原告のケースを指摘して、根本大臣に要件緩和の必要性について尋ねました。

 根本大臣は「この制度は昨年末にスタートしたばかりであるので、まずは実態把握に努めたい」という答弁に終始しました。
 薬害肝炎全国原告団弁護団は今後も全国の医療機関と連携しながら、「肝硬変・肝がん患者の医療費助成制度見直し」を求めていきたいと考えています。

◆ 個別救済~劇症肝炎被害者の救済を

 「個別救済」のパートでは劇症肝炎の被害救済の問題を取り上げました。

 劇症肝炎問題とは、薬害肝炎の救済対象である特定血液凝固因子製剤(フィブリノゲンやクリスマシン等)が投与され、投与直後に劇症肝炎になって死亡した被害者の問題です。

 薬害肝炎救済法は「慢性C型肝炎の進行で死亡、肝硬変・肝がんになった」場合には(救済法6条1号)4000万円の給付金が支給されます。
 ところが、劇症肝炎は投与直後に死亡するため、「慢性C型肝炎の進行」という法律の条文に当てはまらないという形式的な理由で、国・企業が和解に応じていないのです。

 先日の全国会議にも出席した遺族2名が大臣協議のテーブルに座って直接大臣に被害救済を求めました。
 これに対して、根本大臣も問題点は理解しつつ、国会等にて議論していくべきだと回答するにとどまりました。

 毎年3本柱の課題について改善を申し入れ、厚生労働大臣から直接回答を受け取る貴重な機会である大臣協議。
 本年度も「再発防止」、「恒久対策」、「被害救済」という3パートの原弁が積み上げて選択した課題について、大臣から直接回答を得ることができましたが、満足できる回答はありませんでした。

 それでも薬害肝炎全国原告団代表の浅倉さん、全国の各原告の代議員・各班の責任者等が今後も一致団結して、薬害肝炎の積み残しの課題について、粘り強く交渉していく決意を固めました。

◆ 関連記事(劇症肝炎)

・ 「薬害肝炎全国原弁会議を開催、劇症肝炎被害者らの訴えを確認」(2019/5/27)

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。