古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

年齢限定特約により損害保険会社の保険免責を認めた福岡高裁判決、自保ジャーナル2141号

自保ジャーナル2141号158頁の紹介

 私が担当した交通事故訴訟の判決(福岡高裁令和4年9月29日)が、判例雑誌である自保ジャーナル(2141号158頁)に掲載されましたのでご紹介します。
 自保ジャーナルは交通事故訴訟に特化した雑誌です。
 これまでも担当した交通事故判決について複数掲載されています(末尾参照)。

 本件は、私は損害保険会社(被告)から依頼を受けて、訴訟を対応しました。
 福岡高裁において、主張していた年齢限定特約適用による免責が認められ、当方に対する請求棄却で勝訴したものです。

争点

 被害者が運転代行を依頼して乗車中に追突事故を受け、自賠責8級の後遺障害を受けました。
 当方は、追突した車両運転手が35歳未満であるため、運転者年齢限定特約(35歳以上保障)によって保険適用はなく、免責と主張しました。

 保険約款上、年齢限定特約は、業務に従事中の使用につき適用されるとされています。

 相手は、追突した車両運転手は運転代行会社に勤務しているが、事故時はプライベートで運転していたにすぎない。代行終了後、食事に行く約束があったため、客の車の後ろをたまたま追従していたにすぎない、と主張しました。

 このように年齢限定特約の適用の前提として、追突車両の運転手が運転代行の業務中であったのか、プライベートだったのかという事実認定が争点になったものです。

事案の概要

 原告(20代女性)は、職場の同僚と食事をした後、運転代行を依頼しました。
 代行運転会社からは1台の車両で2名が迎えに来ました(Aのほかの1名が、代表者Yだったか、従業員Zだったかが争われた)。
 そして原告が、代行運転会社の従業員Aの運転する車両で帰宅中、代行運転会社の従業員Z(28歳)が運転してきた軽乗用車に追突されました。

 原告は、環軸椎関節亜脱臼等の傷害を負い、自賠責8級2号認定の頚椎運動障害を後遺しました。
 そこで、原告は代行運転会社(個人営業)の代表者であるY、後続車両運転手だったZ、そしてYが加入していた損害保険会社を被告として、約7638万円の損害賠償請求訴訟を提起したものです。

 一審の福岡地方裁判所小倉支部は、損害保険会社の免責主張を認めず、代表者であるY、後続車両運転手Z、そして損害保険会社に対して、約3841万円の支払いを命じました。
 これに対して、福岡高裁は、下記の通り、損害保険会社の免責主張を認めて、原告(被控訴人)から被告(控訴人)保険会社に対する請求を棄却したものです(確定)。

福岡高裁の判断

 まず、原告の同僚であり、原告と事故当時、被害車両に同乗していた乙川は、勤務先に迎えに来た運転手は20代又は30代の比較的若い人であり、事故時に後続車両を運転していた者と同一人物であると一審で証言していました。

 福岡高裁は、「乙川は、迎えに来た若い人が運転する車両に後方から追突された旨を本件事故後から一貫して供述し、原審証人尋問においても、代行業者の車両にいた運転者は外灯に照らされて良く見え、履歴書の写真と同じ風貌であったと供述しており、その供述に不自然な点や不合理な点は認められない」としました。

 そして、「乙川は運転代行を以前複数回利用していたことから、Y(注:代表者)とは顔見知りであって、本件事故当時、28歳のZと47歳のYを見間違うことは考え難い。これらのことからすれば、乙川の上記供述は信用することができる」として、目撃証言の信用性を認めました。
 この目撃証言の信用性についての評価が、まず、一審と福岡高裁の判断が分かれました。

 また原審は、代行運転会社の代表者であるYやZの証言(Zは「プライベートで途中、追従しただけである」と証言)について疑義を呈しながらも、「供述内容は概ね合致しており、その間に矛盾は見受けられない」などとして、「供述等の真実性に多大な疑問があることは前記の通りではあるものの、これが虚偽であるとまでは断定できないから、これら供述が真実であるものとして判断することとする」と結論づけて、年齢限定特約の適用を認めませんでした。

 これに対して、福岡高裁は、「同人らの供述は、一審原告及びYの供述と相反する上、運転代行に勤務するZが深夜に業務ではないにもかかわらず一審被告車を運転し、Aの運転する車両を追走していたとは考え難いものであるし、一審被告ZがAと深夜に食事の約束をしていたのに、最終目的地である乙川の自宅付近ではなく、経由地の付近で合流しようとしたというのも不自然である」としました。

 さらに福岡高裁は、「保険適用ができない場合には、一審被告Y及び一審被告Zは多大な損害賠償債務を自己負担しなければならなくなることから、同人らには虚偽の事実を述べる動機があり、乙川がAや一審被告Yから本件事故につき一審被告Zがプライペートで起こしたことにして欲しいと虚偽の説明を述べるよう頼まれていることに照らしても、一審被告らの上記供述は信用することができない」と判断したものです。

一審判決と二審判決が異なったポイント

 運転代行業には様々な業態や規模が見受けられます。十分な保険契約も締結しないままに営業しているケースも少なからずあるようです。
 代行運転中の交通事故で、客に重大な障害を負わせた本件のような場合、保険適用がなければ、代行業の代表者や運転手は損害を自己負担しなければならなくなります。そこに虚偽説明が介在する可能性(動機)が出てきます。

 本件は、事案の筋(そもそも運転代行の従業員が、プライベートで、運転代行中の会社の車に追随するというのは極めて不自然)、目撃証人の証言(運転代行に迎えに来た運転手は、その後事故を起こした運転手と同じ年齢・風貌である)、事故後の運転代行の関係者の言動(目撃者に対して、「プライベートの事故だったと説明して欲しい」と働きかけた)などの間接事実から、福岡高裁が合理的に事実認定して、保険会社の免責主張を認めたものであり実務上、参考になります。

 なお本件は、調査会社の調査が複数回実施されていました。裁判所が最終的に判決文で正面から取り上げない間接事実についてもいわば潰しておく・光を当てておく必要があります。本件のように複数の証言が絡み合い、利害も絡む事案では、訴訟前の調査の精度の重要性を改めて感じる案件でした。

 また原審が、あまりに回りくどい事実認定をしていました(多大な躊躇を覚えるが、代行業会社の3名(AとYとZ)の供述内容は合致しており矛盾はないなど)。

 そこで、控訴理由書では、原審が根拠とする間接事実だけでなく、原審が見落としている間接事実ごとに、丁寧な論述を心掛けました。
 その結果、福岡高裁も、当方が指摘した点を正面から採用してくれたものです(例えば、原告の同僚である乙川は過去に複数回、この運転代行会社を利用していました。その際に代表者乙が迎えてきており乙と顔なじみでした。そのため、本件事故時に迎えに来た丙が、乙と年齢も風貌も違い記憶に残っていたものです。この極めて重要な間接事実について原審は何ら触れていませんでした)。

自保ジャーナルに掲載された担当した交通事故訴訟

 弁護士古賀克重が担当した交通事故訴訟で、自保ジャーナルに掲載された判決を紹介しています。

自賠責13級認定の左5指機能障害で10級された交通事故で後遺障害否認した大阪地裁判決、自保ジャーナル2135号
弁護士費用特約の弁護士報酬が争点となった福岡地高裁判決、自保ジャーナル2074号
追突事故で後遺障害を負ったと主張された事案で後遺障害を否認した熊本地裁判決、自保ジャーナル2076号
自動二輪と歩行者の事故で後遺障害13級を認定した大阪地裁判決、自保ジャーナル2070号

関連情報

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投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。