古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

横断歩道で車両に衝突され死亡した女子大学生の死亡慰謝料2800万円、親族固有慰謝料500万を認定した京都地裁令和4年12月1日判決

事案の概要

 信号のない丁字路交差点の横断歩道を横断歩行していた大学生(20代女性)が、被告会社従業員の被告が運転する普通乗用車に衝突され死亡した事案です。加害者は午後11時に勤務を終えて帰宅中、前照灯をロービームにしたまま時速70㎞で走行し、交差点付近に差し掛かったにもかかわらず、考え事にふけり4秒以上前方左右に対する注意を怠り、本件事故を発生させました。

 大学生の相続人である原告ら(両親・妹)が、既払金約500万円を控除した約7300万円の支払いを求めて訴えを提起したものです。

裁判所の判断

 裁判所は、被告が主張した大学生の過失について、「大学生はその歩行経路及び衝突地点からして横断歩道上を歩行していたと同視できるところ、被告の過失の内容に照らせば、夜間であることを考慮しても、また、横断に際し特段の左右確認をしなかったとしても、大学生に過失相殺事由があるとは認められない」として認めませんでした。

 その上で、大学生の死亡慰謝料については、裁判所は、「事故態様における被告の過失の重大性、大学生に過失がないことに加え、大学生は、大学で優秀な学業成績を修め、語学留学を間近に控え、将来の希望に満ち充実した学生生活を送っていたことが認められ、本件事故により僅か20代の若さで死亡するに至った無念さは察するに余りあるものである」とし、「前途ある娘を本件事故により突然奪われ、あるいは大学生の大学進学時まで同居し、仲の良い2人姉妹であった姉を失った原告ら遺族の悲嘆は大きく、妹である原告も強い精神的ショックを受けたことは容易に理解されるところであり、令和2年10月頃から体調不良を訴え転学を余儀なくされたことへの影響を否定し難い。他方、本件事故後の被告らの対応は原告らの慰謝に資するものではなく、かえって遺族感情を害した面があったといわざるを得ない」として、2800万円を認め、両親各200万円、妹100万円の固有慰謝料を認定しました。

 死亡逸失利益については、大学生は「未だ就職が具体化していたものではなく、男性大卒労働者の賃金センサスによるべき具体的事情は認め難い」ことから、「本件においては、逸失利益につき、賃金センサス令和2年第1巻第1表による女性大卒企業規模計の全年齢平均賃金451万0800円を基礎収入とし、賃金センサスにおける男性労働者との収入額の差異も勘案して、生活費控除率を30%とし、23歳から67歳までの就労可能期間に対応するライプニッツ係数を用いて中間利息を控除する方法により、5058万6321円と算定するのを相当と認める」として、賃金センサス女性大卒全年齢平均を基礎収入に44年間3割の生活費控除で認定しました。

 また、葬儀費用としても300万円と高額な損害を認定しています。裁判所は、新型コロナ感染症の感染拡大が社会問題になりつつあり、遺体の搬送が困難であったこと、大学と地元の両県で2回の葬儀を行ったこと等をふまえ、約387万円の支出のうち、300万円を損害と認定しています(なお、様々な特殊事情が絡んだ事案についての個別判断であり、一般化はできない判断とは思われます)。

 なお、本判決は確定しています。

ポイント

 いわゆる「赤い本」(損害賠償額算定基準・日弁連交通事故相談センター東京支部)では、死亡慰謝料は、「一家の支柱 2800万円」、「母親・配偶者 2500万円」、「その他2000万円~2500万円」とされています。
 本判決は、本人慰謝料だけで2800万円を認定しており、比較的高額の損害を認定した判決といえるでしょう。赤い本の死亡慰謝料(独身の男女)欄に掲載されている裁判例ですと、本人慰謝料と親族固有の慰謝料を合計して2800万円程度という認定が多いようです。
 高額死亡慰謝料を算定した判決としては下記のようなものもあります。

 東京地裁令和3年12月17日判決は、路上を自転車で走行中、被告乗用車に追突され死亡した中学生(10代女子)の慰謝料算定につき、事故後の被告の事故態様からすると、中学生の遺族らが被告に対し峻烈な感情を抱くのはもっともであり、相当高額な慰謝料をもって慰謝されるべきとして死亡慰謝料を2600万円、固有慰謝料を両親各250万円、弟120万円と認定しました。

 また、東京地裁令和4年1月21日判決は、横断歩道を自転車で横断中、被告乗用車に衝突され路上に投げ出された主婦(60代女性)が、1度停止した被告車両が再発進して轢過され死亡したことによる慰謝料算定につき、死亡慰謝料を2800万円、固有慰謝料を夫240万円、子ら各120万円と認定しました。

 名古屋高裁平成29年9月28日判決は、横断歩道を横断歩行中、乗用車に衝突され死亡した男児(10歳未満)の慰謝料算定につき、男児は10歳未満にして今後の将来を失った等から死亡慰謝料を2400万円、固有慰謝料を両親各300万円、兄ら各200万円と認定しました。

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自保ジャーナル2070号96頁、担当した交通事故訴訟判決の解説

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投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。