古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

抑制具を用いて患者の両上肢をベッドに拘束した当直看護師の法的責任

当直の看護師らが抑制具であるミトンを用いて、入院中の患者の両上肢をベッドに拘束した場合、診療契約上の義務に違反して、違法といえるか。

平成22年1月26日最高裁は、「上記行為は、患者が転倒、転落により重大な傷害を負う危険を避けるため緊急やむを得ず行った行為であって、診療契約上の義務に違反するものではなく、不法行為上違法ともいえない」と判示しました。

法曹時報の最新号(64巻1号)に調査官解説が掲載されています。

本判決は、病院の人手不足等を理由とする安易な身体的拘束を許容する趣旨のものではないが、患者等の受傷を防止するなどのためその身体を一時的に抑制する行為が緊急やむを得ないものとして許される場合があること、
その判断に当たり、①当該患者本人又は他者の生命、身体等が危険にさらされる可能性が著しいこと、②身体的拘束を行う以外に適切な代替方法がないこと、③身体的拘束の態様及び拘束時間が本人の状態等に応じて必要とされる最小限度のものであることなどの要素を含めて当該事案における諸事情を総合的に考慮すべきことを判示したものと解される(235頁)。

精神科病院における事案としては、指定医の指示を受けて抑制ベルトで患者を拘束した行為につき違法でないと判断した裁判例がありましたが、一般の病院や介護施設における患者の身体的拘束の違法性が正面から論じられたのはこのケースが初めて。

提訴に至った背景は不明ですが、ある意味珍しい争われかたをした事例といえそうです。

ちなみに、本件とは逆に、患者が、看護師等が転落防止のために身体的拘束をすべきであったにもかかわらず、怠った過失があるとして争われた裁判例は少なくありません。

例えば、東京地裁平成8年4月15日判決は、高齢のパーキンソン病患者がベットから転落して死亡した事案において、抑制帯を使用しなかったことについては裁量の範囲内としつつ、頻回に(1時間に1回程度)巡回すべきであったのにそれを怠ったとして過失を認めています。

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。