古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

「薬害肝炎裁判史」が発刊、全国弁護団としての実践とは

薬害肝炎全国弁護団の活動が裁判史に

 「薬害肝炎裁判史」(日本評論社)が2012年1月20日、発刊しました。
 薬害肝炎全国弁護団が、2002年から10年に渡る活動の足跡をまとめたものです。

 薬害肝炎全国弁護団の特徴のひとつは、全国120名の弁護士が、「1つの弁護団」として活動した点です(2012年時点で504名)。

古賀克重法律事務所ブログ 薬害肝炎裁判史

 集団訴訟において各地弁護団が緩やかな連携をとることは通例でしょう。薬害肝炎弁護団はさらに進んで活動当初から1つの弁護団としての意思決定を行って活動してきました。その具体的な実践について書き記したものになります。

 各集団訴訟は裁判史を出しているところも少なくありませんが、大分で記録集になったり、どこを読んでよいかわからないこともあります。この点、薬害肝炎裁判史は、全てを書き下ろして1冊に凝縮することを目指しました。そのため仙台での合宿を含む、月1回の会議を1年強開催して出版にこぎつけたものです。
 「一つの弁護団」として5地域の500名を越える弁護士が共同作業を行った経験が、この裁判史出版にあたってもいかんなく発揮できたように思います。

弁護団代表・事務局長による座談会も必見

 また裁判史を編纂するにあたり、全国弁護団代表・事務局長による「座談会」も行いました。弁護団運営や立証の工夫から始まり、若手弁護士へのエールに及ぶまで、様々な論点につき掘り下げた意見交換を行っています。全面解決に向けてどのような議論が行われていたか、本音レベルのやりとりを残しました。

古賀克重法律事務所ブログ 薬害肝炎裁判史の座談会

 裁判史は、最初から通してというより興味のある箇所や懸案事項の参考として読まれることが多いと思います。過去の「裁判史」を手に取っていておもしろかったのが、本音が垣間見れる「座談会」でした。
 例えば、「水俣病裁判全史」では、「水俣病解決の意義を考える」「裁判の意義と限界を考える」「水俣病のたたかいから何を学ぶか」など8テーマを設定して各座談会が行われ、「裁判史(総括編)」に掲載されています。

 そこで薬害肝炎裁判史においても「座談会」を企画したものです。当初は参加者を変えて様々な座談会も検討したのですが、まとめた方が読みやすいことと労力から、「弁護団代表・事務局長による座談会」に落ち着きました。

 当日は、私が司会を行い、鈴木利廣(全国弁護団代表、東京弁護団代表)、山西美明(全国弁護団副代表、大阪弁護団事務局長)、増田祥(仙台弁護団代表)、八尋光秀(九州弁護団代表)、浦田秀徳(九州弁護団代表)、 松井俊輔(全国弁護団事務局長)、草場 裕之(仙台弁護団事務局長)、福地直樹(東京弁護団事務局長)、堀康司(名古屋弁護団事務局長)の各弁護士が参加しました。

 議題は、提訴前から5地域連携による全国一つの弁護団方式を採用した背景、若手弁護士のモチベーションをどのように高めたのか、全国弁護団の戦略設定、各地における弁護団運営の工夫、原告主体の運動をどのように展開したか、2007年冬の最後の政治折衝の裏側など。
 かなり本音の出た参加していても面白い座談会でしたが、文章に残す部分は最終調整しました。いずれにしろ行間から読み取って頂くと、さらにと面白く楽しめると思います。

各メディアの反響も

 なお各地の支援者の活動や原告の動きを時系列でまとめて、全面解決に至るまでの情勢をダイナミックに描いていますので、一般の方にも手に取って頂ける内容かと思います。
 各メディアでも取り上げられており、西日本新聞、毎日新聞に続き、河北新報も「薬害肝炎裁判史」を取り上げてくれました。

薬害肝炎、和解の足跡 全国弁護団「裁判史」出版
薬害C型肝炎訴訟の全国弁護団が、「薬害肝炎裁判史」(日本評論社)を出版した。仙台地裁など5地裁で起こされた訴訟の経過、全被害者の救済を目指した原告の思い、国や製薬会社と和解の基本合意に至る歩みなどが丹念に記されている。東北訴訟の増田祥弁護団長は「司法の場での闘いや運動が一体となり、被害回復や再発防止につなげられた。その歩みを多くの人に知ってほしい」と話している。
出版に向けた準備が数年前から本格化し、昨年完成した。国の責任を認めなかった仙台地裁判決(2007年9月)の分析のほか、判決後に仙台市内で開かれた訴訟支援イベント、福田康夫首相(当時)に政治決断を求めた街頭活動などを記録した。
全国弁護団の座談会も掲載。出席者は仙台地裁判決を受け、運動をより強化しようと決意したことを振り返り、「同一主張、同一証拠で同一判決を勝ち取っていく。その士気が共通の思いとして出てきて、結束が固まった」と語っている。薬害C型肝炎東北訴訟は、これまでに原告150人のうち133人が和解した。
増田団長は「今も苦しんでいる方が大勢いる。時限立法の薬害肝炎救済法は来年1月が期限。国会に延長を働き掛けるなどし、引き続き救済していきたい」と誓いを新たにしている。
裁判史は567ページ。訴訟の軌跡を収録したDVD付きで4000円(税別)。連絡先は日本評論社03(3987)8631(2012年02月23日付け河北新報)。

日弁連「自由と正義」の書評で紹介

 さらに「自由と正義」(9月号)に書評としても採り上げられました。早稲田大学大学院の須網隆夫教授による書評です。

 須網教授は1か月ほどかけて通読して寄稿して頂いたということです。
 原告弁護団にとって過分な言葉を頂くとともに、的確に薬害肝炎裁判史のポイントを概観して頂いています。

被害者の陳述は、文字を通しても、抗しがたい迫力で読者に迫ってくる。弁護団が困難にもくじけず、解決まで歩み続けられた理由、ここにあるのだろう。
本書は、幾つかの読み方が可能である。第一に、本書は、被害者・弁護士にとり、集団訴訟による被害救済の道筋を示すノウハウ本である。
第二に、本書は、日本の政策決定メカニズムの分析に格好の材料を提供している。
第三に、本書は法科大学院における教材でもある。法曹倫理の基本は、弁護士の社会亭役割に対する認識にあるが、本書は、まさに弁護士の果たすべき役割を示している。

そして本書は何より、原告・弁護士・支援者が織りなす人間ドラマである。

福岡県弁護士会の「弁護士会の読書」でも

 また書評としては福岡県弁護士会の「弁護士会の読書」でも取り上げて頂きました。「弁護士会の読書」は福岡県弁護士会のウェブサイトの昔からの人気コーナー。2003年5月から毎日1冊の書評をアップしているものです。霧山昴という弁護士がほぼ1人で投稿しています。この「霧山昴」とはペンネーム。元弁護士会の会長であり、共同事務所の経営者ですからお忙しいと思いますが、9年以上継続している情熱には驚くばかりです。

 その「弁護士会の読書」にて、薬害肝炎裁判史を紹介して頂きました。ある弁護士から「弁護士会の読書見たよ。良い本らしいね」と声をかけてもらい知りました。
一部をご紹介します。

薬害肝炎に取り組んだ福岡の弁護団から贈呈されました。560頁もの分厚い本ですし、私自身が関わった裁判ではないので、少しばかり気が重たかったのですが、せめて、弁護団の苦労話を語った座談会だけでも読んでみようと思ったのです。ですから、この本を通読したわけではありません。でも、私が読んでも大変勉強になるところが多々ありました・・・

弁護士、とりわけ若手弁護士のモチベーションをいかに高めるか。これには、事件に対するモチベーションの問題と組織の中で働くことのモチベーションを高めることの2つがある。新人弁護士だからといって、事務的な雑用だけをやらせるのではなく、責任のある仕事をできる限り頼んで、その責任ある仕事が成果として見える、そんな仕事を若手弁護士にどう割り振るかに苦心した。
国は、各地の弁護団の弱い分野を意識して証拠を立てた可能性がある。九州は有効性が強くて、重篤性がいくらか弱い。そこで、国は重篤性についての証人を九州で申請した。
5地裁に提訴すると、同一争点に関する証人尋問を5回も行うことになりかねない。そこで、争点一つにつき、原被告とも証人1人を選抜し、それを各地で分散しながら立証していく計画を立てた。
また、中間的に提出した統一準備書面はすごく効率があった。

被害に始まり、被害に終わる。弁護団は国民に共感を広げ、裁判所に共感を広げ、政治の舞台に共感を広げていく。その共感が広がれば、その先に勝利は約束される。逆を言うと、苦しいときには共感が広がっていないということ。薬害肝炎でも、試行錯誤しながら結果的に勝てた。
なかなか味わい深い統括の言葉だと受けとめました。
福岡の八尋光秀、浦田秀徳、古賀克重弁護士が、裁判でも本のなかでも大活躍していて、うれしくもあり心強い限りでした。

裁判史の意義とは

 私自身も、薬害肝炎九州弁護団事務局長として関わるにあたり、過去の裁判史(「サリドマイド裁判」、「水俣病裁判全史」、「薬害スモン全史」、「薬害エイズ裁判史」)を繰り返し読み返したものです。それらを通じて「被害に始まり被害に終わる」集団訴訟のいわば「幹」を学ぶとともに、自分なりの工夫を付け加えアレンジして事務局長としての活動に活かしてきました。

 薬害C型肝炎の全国弁護団の活動を記した「薬害肝炎裁判史」も、今後の集団訴訟を手がける若い弁護士や法律家を目指す方にとって何かのヒントになれば嬉しい限りです。

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関連情報

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投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。