古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

集団予防接種によるB型肝炎感染被害の真相が出版、被害を招いた真相と教訓とは

集団予防接種によるB型肝炎感染被害の真相を出版

 全国B型肝炎訴訟原告団弁護団が、「集団予防接種によるB型肝炎感染被害の真相」(明石書店)を出版しました。
 薬害肝炎全国原告団弁護団に出版記念祝賀会の案内を頂きましたのでご紹介します。

 同書は、厚生労働省の検証会議の報告をベースにしつつ、さらに検討をくわえたもの。
 1940年代から1980年代まで10年毎に年代を区切り、各時代背景・社会情勢とともに、医学的知見をふまえて各年代の問題点を掘り下げて検証したということです。

 B型肝炎訴訟の最高裁判決を勝ち取り、予防接種によるB型肝炎被害救済の出発点となった先行訴訟の経緯と経過についても触れられています(145頁)。

真相と教訓

 同書は第2部「真相と教訓」において、使いまわしが続けられた歴史を振り返りつつ、なぜ注射針や注射筒の使いまわしが続けられたかを分析していきます(167頁)。冒頭では検証会議の提言の概要をまとめています。

 まず、国の姿勢として、「国民の生命と健康を守ることを最大の使命として取り組むべきであるにもかかわらず、リスクの把握と対応が不十分、不適切であった」、そして「特に予防原則の徹底が不十分であった」と指摘します。

 また自治体・医療従事者の姿勢として、「リスク認識を適期に更新しなければ国民の生命と健康に多大な影響を及ぼす業務にかかわっている、という意識を持ち、能動的に取り組む必要があった」、「特に医療従事者については、プロフェッショナルとしての責任に基づいて、一般医療行為と同様に予防接種についても、先進知見の収集と収集した知見に基づく問題点の指摘や改善策の提示といった具体的な対応」を取るべきったとします。

 さらに、先進知見の収集と対応も十分になされておらず、事例把握と分析評価も適切に対応できなかったとしています。

 以上の指摘は、驚くほど、薬害C型肝炎を発生させた問題点と共通しており、当時の根深い病巣を言いあてていると感じました。

検証会議

 同書は第3部で検証会議についてもふりかえっています。

 厚生労働大臣の主催による「検証会議」は、2012年5月から2013年6月まで合計12回開催されました。
 国と全国B型肝炎訴訟原告団弁護団が締結した基本合意書に基づいて設置された会議です。

 原弁は、九州原告梁井朱美さんらを検証会議委員として送り出し、九州弁護団の小宮和彦弁護士をリーダーとするバックアップ班を設置。バックアップ班は、薬害肝炎原弁などからも体験談を聞いたり、情報収集を行い、準備を重ねたそうです(214頁)。

 そして第1回会議では各検証委員の思惑がバラバラでまとまりのないものであったこと、原弁としては事前に想定していたものとはかけ離れていると感じたこと、被害者の実態調査から始めることを強く求めたことなど、検証会議を真に実りあるものに方向づけていく苦労がひしひしと伝わってきました。

最後に、「実態調査ならまずは原告の声を聞いてくれ」という私たちの主張が通り、基本合意前の原告にもアンケート調査をすることになりました。そして、原告の思いを書いてもらうところは、自由記載欄を設けるのではなく白紙を1枚付けることになりました。「足りない方はもっと増やして書いてもらってください」と永井座長がおっしゃったのには驚きました。

もっと驚いたのは、それまで発言されたことのなかった委員がこの自由記載の文章を読んで検証会議の中で感想を述べられたのです。1年以上会議を続ける中で、肝炎患者の苦しさや悲しさ、悔しさなどが委員の皆様に伝わったと思ったのでした。

そして自分だけでなく苦しんでいる他の多くの肝炎患者の救済を求めると書かれたたくさんの自由記載欄の文章を読んで、裁判で国の責任を明らかにして肝炎患者への施策を充実させるという、この裁判の目的を私と同じにした人が大勢いらっしゃると感じ力強くもあり、また委員としてのとても重い責任も感じました(九州原告梁井朱美)

同書255頁

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投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。