古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

児童虐待7.3万件と増加、深刻化する医療ネグレクト

◆ 児童虐待は7万3765件と過去最多に・・

厚生労働省が全国の児童相談所の児童虐待の対応件数を発表しました。
平成15年度には2万6569件だった件数が、10年後の平成25年度には実に2・7倍の7万3765件に達しています。

平成19年度に初めて4万件を超え(4万0639件)、平成22年度には5万件台(5万6584件)、さらに平成24年度には6万件台(6万6807件)と右肩上がりで上昇を続けています。

件数増加の原因は、虐待が増加していることはもちろん、社会の意識が高まり、通報自体が増加したことも影響しているようです。

虐待の態様としては、「身体的虐待」、「ネグレクト(養育放棄)」、「性的虐待」、「心理的虐待」など幅広いものがありますが、ネグレクトも目につき、親も孤立化している社会状況も伺えます。

◆ 親権停止制度の活用は道半ば

このような児童虐待防止の観点から民法が改正されて親権停止制度が導入されました。

従来も「親権喪失」という期限を定めずに親権を奪う制度はありました。
これに加えて、最長2年間、原因が消滅するまで親権を停止する制度が導入されたものになります。

いずれも家庭裁判所が判断しますが、請求権者も、子どもの親族、検察官、児童相談所長のみだったものが、子ども本人、未成年後見人・未成年後見監督人も請求できるようになっています。

それでも平成25年度の児童相談所所長による申立件数は23件(認容15件)に留まり、平成24年度の27件よりも減少しています。

一方、平成25年度の親権喪失の審判総数は111件、親権停止の審判も120件あります。

裁判所の新受総数としては、初めて200件台にのるなど、増加傾向にありますが、親権喪失の認容率は16・5%(17件)、親権停止の認容率は20・3%(14件)と決して高くありません。

様々な背景事情があるため一律には論じられませんが、それでも親権停止制度の現在の運用は、虐待防止全般には限界があることがうかがえるでしょう。

◆ 親権停止の実例

親権停止の実例の中で、医療がからむケースとしてはいわゆるエホバの証人による輸血拒否事案が有名です。

エホバの証人は宗教的信条から輸血を拒否します。両親が子どもの輸血を拒否した場合に、即日審判で親権停止を認めたケースなどがあります。

2008年には「宗教的輸血拒否に関するガイドライン」が公表され、親権者双方が拒否し、子どもが15歳未満の場合には、「親権者理解を得られるように努力しても、同意が全く得られず、むしろ治療行為が阻害されるような状況においては、児童相談所に虐待通告し、児童相談所で一時保護の上、児童相談所から親権喪失を申し立て、あわせて親権者の職務停止の処分を受け、親権代行者の同意により輸血を行う」と方針が示されています。

現在は両親がエホバの証人であっても、子どもの治療の場合には、病院・両親・コーディネーターの話し合いにて何とか輸血できるケースもあるようです。

◆ 広がる医療ネグレクト

輸血拒否だけでなく、親が子どもの病気に対して必要な治療・手術を拒否するようなケースも増えています。

このようなケースは「医療ネグレクト」と言われるようになっており、子の命に直結することも少なくなく深刻化しています。

医療ネグレクトの定義は様々で一義的ではありませんが、厚生労働省の通知では、「保護者が児童に必要な医療を受けさせることを怠るもの」と定義されています。
また「宗教的輸血拒否に関するガイドライン」では、「医療水準や社会通念に照らして、その子どもにとって必要かつ適切な医療を受けさせない行為を指し、親が子どもを病院に連れて行かない場合だけでなく、病院には連れて行くものの治療に同意しない場合も含む」と指摘されています。

例えば、先天性疾患に対する継続的な治療が必要であるにもかかわらず、親が子の検査・手術に同意しないために、親権停止が認められたケースなどがあります。

医療ネグレクトを含め、児童虐待の件数は今後も増加していくでしょう。
いじめの発覚件数が増加していることと同様に、今まで潜在化し表に出なかったケースが明るみになっているという点では負の側面だけではありません。

ただ一方で孤立化した親による悪質な虐待が増加していることも事実ですし、現行法による対応にも限界がありますから、社会全体での重畳的な取り組みを進めていくことますます必要になってきた分野といえるでしょう。

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。