古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

薬害肝炎原弁と厚労大臣との議事確認書2017年度版が完成

◆ 2017年度大臣協議

2017年7月24日に開催された薬害肝炎全国原告団・弁護団と厚生労働大臣との協議会(大臣協議)。薬害肝炎訴訟が解決する際に締結した基本合意書に基き、様々な積み残しの課題について、年に1回協議するものです。2017年度は塩崎恭久厚生労働大臣は3回目の大臣協議になりますが、8月3日の内閣改造で交代しましたので最後の大臣協議になりました。

協議後は、全国弁護団と厚生労働省との間にて折衝・確認した上、毎年、正式な議事確認書を締結します。

2017年度大臣協議の議事確認書は以下の通りになりました。

厚生労働大臣協議2017

◆ 肝硬変、肝癌患者に対する医療費助成について

九州原告団代表の出田さんから塩崎厚労大臣に対して、「肝硬変肝癌患者に対する支援について、具体的な制度について提案して下さい」と回答を求めた上、協議した項目です。

 原告団・弁護団から、肝硬変、肝がん患者に対する医療費助成制度の具体案を提示し、当該案に対する原告団・弁護団の意見を尊重するよう要請があった。

これに対し、厚生労働大臣から、NDB調査結果を踏まえて、肝硬変、肝がん患者の方々への更なる支援について、どのような趣旨、目的で行うことができるかを明確に整理しながら、概算要求に向けて財務省と議論を行っており、具体的な中身については、財務省との交渉においてどういうところにポイントを置くのかについての御意見をお聞かせいただき、お任せをしていただいて、財務省と詰めていきたい、また、原告団の意見はしっかり聞いてまいりたいと回答した。

◆ 診療録等が残存する医療機関に対する人的・物的支援について

個別救済分野では、救済期限が迫っているにもかかわらず放置されている患者カルテ問題を取り上げ、カルテ調査費用を国が負担すべきと求めました。

 原告団・弁護団から、診療録等の確認作業に今後どう取り組むかを提示すること、また、被害者を切り捨てることがないよう、責任を持って対応することについて要請があった。

これに対し、厚生労働大臣から、医療機関に対する人的・資金的支援は既に調査を実施した医療機関とのバランスがあるため、医療機関の作業状況の確認をきめ細やかに実施することで診療録の確認作業が進むように取り組んでいくこと、また、自主的に職員を雇用して診療録等の確認を進めた医療機関の例も示しながら、できる限りきめ細かく、十分な調査と投与事実の告知をしていない医療機関に対する働きかけを続けていくと回答した。
加えて、患者、被害者の方々を切り捨てないことを基本としながら、診療録等記録の確認作業の進捗がはかばかしくない医療機関に対して文書と電話により、確認作業を更に強く促し、肝炎ウイルス検査の受検、治療につなげられるよう、更に力を入れて最大限努力して取り組んでいくと回答した。

◆ C型肝炎救済特別措置法の請求期限の延長について

いわゆる薬害肝炎救済法の請求期限が2018年1月に迫っています。同法の請求期限は一度5年延長されましたが、全ての被害者の救済が終わっていないため、さらなる延長を求めているものです。

 原告団・弁護団から、C型肝炎救済特別措置法の請求期限までに病院調査が終了しないのであれば請求期限の延長のための法改正が必要であり、同法を管掌する厚生労働大臣として改正に努めるよう要請があった。

これに対し、厚生労働大臣から、請求期限が1月に到来するという認識のもと、これまでC型肝炎救済特別措置法の制定と改正は政治的な判断により議員立法で行われてきたもので、内閣提出法案で請求期限を延長するための改正を行うことは難しいが、厚生労働省としては、立法府における検討が進むよう、C型肝炎救済特別措置法に基づく給付金の請求状況や医療機関における診療録等の確認作業の情報を立法府に提供し、救済を促進するためには何らかの対応を行わないと難しいという問題意識を伝え、立法府との連携を更にしっかりとやっていくと回答した。

◆ 医薬品行政の監視及び評価を行う第三者組織について

薬害肝炎問題の反省、そして同じような事件の再発防止のために、医薬品行政を監視する第三者組織の設立を求めています。第三者組織は、厚労省が薬害肝炎訴訟が解決した後に自ら立ち上げた検証委員会もその必要性を指摘しているものになります。

 原告団・弁護団から、第三者組織の設置について異論がないか質問があった。また、設置に向けて議員連盟に働きかけを行うこと、設置が最優先の課題であると確認すること、委員選定に薬害被害者の意向を反映する仕組みとして選定委員会を設置することについて要請があった。

これに対し、厚生労働大臣から、どのような組織でも自己抑制や自らチェックする仕組みを持つべきであり、健全なガバナンスはこうした仕組みが働くことが基本である旨回答した。また、設置に向けては、組織を改正するときに越えるべき事柄について、議員連盟に応援していただくよう、厚生労働省からも趣旨を訴えかけていく必要があること、さらに、厚生労働省としてもどのような対応があり得るか絶えず考えていく旨回答した。

また、選定委員会については、解決すべき課題が多い中、まずはどういう組織をどういう形で法律化して実現させていくのかを考えることに注力すべきであり、タイミングを含めて、そういうものを作るということになるように持っていくことができるかどうかが大事であり、その上で委員の構成等について考えるべきである旨回答した。

◆ 薬害研究資料館の設立について

薬害の再発防止部分では、「薬害研究資料館」について回答を迫りました。

九州原告団の手嶋さんから、「最終提言は薬害の防止に向けた社会の意識啓発のための資料の公開など、また薬害の悲惨な事実を後世に伝えるものとして収集保管すべきであるとしている。そして薬害資料を展示場所で直接見学し、被害者の体験を直に聞き、見て、薬害の再発や防止への理解を、そして更なる医療の進歩を図っていって頂きたい」と回答を迫りました。

古賀克重法律事務所ブログ 薬害根絶 誓いの碑

塩崎大臣からは以下のように前向きな答弁がありました。

 原告団・弁護団から、インターネット公開をもってすべて事足りるとする考え方は最終提言にそぐわないものであり、資料館を施設として設置する意義と必要性について確認すること、早急に薬害資料の所在、内容等の全体像を把握すること、薬害資料データアーカイブズの基盤構築に関する研究班の予算措置を継続することについて要請があった。また、大臣協議において確認されたことを厚生労働省として引き継ぐよう要請があった。

これに対し、厚生労働大臣から、薬害資料を次世代に残し、現物を見られるようにすることは重要であり、スペースの問題や保存方法は工夫しながら、メッセージが伝わりやすい形を選ぶべきであると回答した。また、国が真に残すべきものは何なのかを決めて、次世代に伝える資料を絞り込む必要があるため、資料の全体像を把握するための場を設けたいと回答した。厚生労働科学研究費補助金による薬害資料データアーカイブズの基盤構築に関する総合研究については継続できるよう努力していきたいと回答した。大臣協議における発言については行政の連続性という意味において引き継がれなければならないと回答した。

毎年、「恒久対策(治療体勢)」、「薬害再発防止」、「被害救済」という3本柱を中心に改善を申し入れていく大臣協議。
2017年度の到達点を前提に、薬害肝炎救済法の延長、そして第三者組織・薬害資料館の設立等をさらに求めていく予定です。

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。