古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

九州国際看護大学で「看護と医療過誤」について講義、看護師の法的責任とは

九州国際看護大学での講義

日本赤十字九州国際看護大学(看護継続教育センター)で今年も「医療安全管理」について講義してきました。
北は北海道から南は沖縄まで全国の医療施設から経験5年以上の看護師が、救急看護認定看護師の教育課程を受けています。

救急医療に必要なリスクマネジメントについて理解し、救急医療で起こりやすい医療事故について学び、裁判例について理解していくという科目です。

私の担当は医療過誤裁判について2コマ3時間の中で一気に講義するもの。
看護師の業務から紐解いて、看護過誤が問われた裁判例、そして後半で救急医療に特有の法的責任などについて具体的に言及していきました。

看護師の法的責任とは

看護師の業務は、保健師助産師看護師法5条により、傷病者若しくはじよく婦に対する「療養上の世話」と「診療の補助」と定められています。

従って裁判実務における看護師の法的責任としても、療養上の世話に関するものと診療補助行為に関するものに分けて分析が可能です。

そこで各分野毎の代表的な裁判例を複数ピックアップしながら、事例の特徴、判例から導き出すべき教訓等について説明しました。

薬剤の種類の間違い・患者の取り違え・注射液の間違いなど、端的に看護師の注意義務違反が認められることも少なくありません。
一方、経過観察が問題となるようなケースにおいては、医師の責任と同様に、事故当時の臨床看護における看護知識及び技術の水準が問題となってくるものです。

いわば「個人の能力を尽くした」、「看護師1年目なので知らなかった」、「最近の看護水準を知らずに5年前の知識だった」という抗弁は許されないわけです。

救急医療に転送されてきた患者に対する処置

私が担当した救急医療が関わるケースとしても、「自宅階段から転落し後頭部痛を訴えているにもかかわらず医師が帰宅させ、その後急性硬膜下血腫により障害が後遺した」というものがあります。

患者(当時80代)が自宅階段から転落し、医療機関に搬送されたところ、CT・X線の検査結果に異常がないとして帰宅を指示され、帰宅後に意識レベルが低下・失禁症状などが出現し、再度救急車で搬送され急性硬膜下血腫と診断され緊急開頭手術を受けたものの、障害が後遺したケースについて、医療機関が責任を認めて2800万円の示談に応じた事案です。

同様の法律相談は一定頻度で受ける機会が多い類型です。

このケースや同種裁判例についても具体的事例・裁判所の判断・教訓について解説しました。

実務5年以上の看護師が対象の講義ですから、実務経験も豊富で問題意識を持った方が大半。
質疑応答の時間になると、実務に即した質問も積極的に出ました。

その中では、「救急医療の現場としては入院させたい症例なのですが、患者本人がどうしても帰宅したいと希望して、家族とも意思疎通が取れずに困るケースがありました。医療機関としては入院を勧めたこと、患者の自己責任で帰宅することを書面にサインしてもらいましたが、それでも不安が残りました」というものもありました。

私が相談する救急分野の協力医の中には、「入院して経過観察しないと危険があるケースは、うちの病院では治療費支払いを拒否されてもいったん入院させて治療している」と言う人もいます。

救急医療の現場の悩みは深いものがあることをいつも実感します。

大学や看護大学等での講義をいくつか受け持っていますが、特定分野の裁判例をまとめて概観する良い機会。
患者側弁護士としても、また新しい視点や刺激をもらえた講義になりました。

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。