薬害肝炎全国原弁と加藤勝信厚生労働大臣との大臣協議2018、薬害監視の第三者組織実現に向けて
目次
◆ 大臣協議とは
薬害肝炎全国原告団・弁護団と厚生労働大臣との協議会(大臣協議)が2018年7月9日、厚生労働省内会議室にて開催されました。
大臣協議とは、薬害肝炎訴訟が解決する際に国と薬害肝炎全国原弁が締結した基本合意書に基き、様々な積み残しの課題について、年に1回直接協議を実施するものです。。
今年も東北、東京、名古屋、大阪、四国、山口、九州沖縄と全国から多数の原告・弁護士が参加しました。
大臣協議における課題は、3本柱で構成されています。
つまり、C型肝炎の治療体制の整備について議論する「恒久対策」、薬害の再発防止の取組を求める「再発防止」、フィブリノゲン・クリスマシン等による薬害C型肝炎被害者の全面救済を求める「被害救済」の3項目です。
2015年から2017年まで3回の大臣協議は塩崎恭久厚生労働大臣でしたが、2017年8月3日の内閣改造で加藤勝信厚労大臣に交代しました。加藤大臣との大臣協議は今回が初めてになります。
また2002年10月の初提訴以来、全国原告団代表として活動をリードしてきた山口美智子さん(福岡市・九州原告団)が今年退任し、同じく訴訟中から山口さんとともに歩んできた浅倉さん(東京原告団)が全国原告団代表に就任しました。
浅倉さんにとっても初めての大臣協議になりました。
◆ 再発防止~薬害監視の第三者組織と薬害資料館の実現に向けて
薬害の「再発防止」については、「薬害監視の独立した第三者組織の実現」と「薬害研究資料館」の2点を取り上げます。
まず九州原告団代表の小林さんが、以下のように回答を求めました。
「私たちは、第三者組織の独立性確保のために、新たな審議会の形で第三者組織を設置することを求めてきました。ところが、厚労省が必ず大きな壁と指摘するのが平成11年の閣議決定です。『閣議決定があるので、新たな審議会を設けることは難しい』というのです」
「しかし、厚労省がいったん第三者組織設置のための内閣提出法案を準備した平成25年当時には、閣議決定が存在するにもかかわらず、厚労省は新たな審議会設置を予定していました。ですから、この閣議決定は決して行政として越えられない壁ではないのです。薬害による被害を、私たち被害者は一生背負って生きていかなければなりません。だからこそ国には薬害を二度と繰り返さない仕組みを作ってもらいたいのです。加藤大臣には覚悟と責任をもってこの問題に尽力し、政府内での調整に努めて頂くよう強く求めます」
加藤大臣からは以下のような答弁がありました。
「そうした組織を作る必要性があることは我々も十分認識している」
「法律改正による第三者組織の実現には、当然、政府内の調整が必要であるし、クリアすべき課題もある。ただそういう壁があるからやらないというわけではない。乗り越えていかなくてはいけない」と発言しました。
その上で加藤大臣は、「予算要求も必要になるし、まず第三者組織の具体的な中身、業務内容を詰めて、政府の中での調整を図っていきたい」、「皆さんともかなり共通の理解を持てるようになってきたと承知している。さらに皆さんと一緒に議論して中身を詰めさせて頂きたい」と前向きな回答を行いました。
次に薬害資料館については、東京原告団の泉さんが「予算確保の努力」「今年度の行動計画」「資料館設置までのロードマップ」「作業部会の設置」という4点について回答を求めました。
これに対して、加藤大臣は、以下の通り回答しました。
「平成30年度は前年度に比べて200万円を増額させて頂いたところである。引き続き必要な予算確保に向けてしっかりと取り組ませて頂きたい」
「今年度の行動計画については、薬害資料の整理・保管方法の研究、被害者証言の映像保存に取り組ませて頂いているところである。それらをしっかりと進めさせて頂きたい」
「ロードマップについては、まずは薬害資料について量・種類など全体像を十分に把握する必要がある。資料の保管状況を調査するとともに、関係者の方々とも幅広く意見調整を図っていくことが大事だ。展示場所については、候補となる場所の所有者との協議も必要ではある。ただ現時点で具体的な場所あるいは時期を提示する状況には至っていない。現在開催している再発防止作業部会において、引き続きしっかりと検討させて頂きたい」
◆ 恒久対策~肝炎治療の地域間格差の解消
次に「恒久対策」の分野では「C型肝炎治療の地域間格差」を取り上げます。
東京原告団の及川さんが、患者会・東京肝臓友の会に所属し電話相談も担当している経験をふまえ、以下のように回答を求めました。
「まだ根治治療が間に合う代償性肝硬変にもかかわらず、かかりつけ医からインターフェロンフリー治療を提案されていない患者がいます。かかりつけ医から専門医を紹介されず、昔からの対症療法しか受けていない患者なども多数います」、
「今は肝炎対策基本法・肝炎対策基本指針もでき、様々な医療制度が整い、適切な医療を受けられる仕組みが作られつつあります。ところが地域によってはその恩恵にあずかれない患者が今も数多くいるのです。大臣、全国の肝炎患者たちが、住む地域によって受けることのできる医療に差があって良いものでしょうか」と迫りました。
これに対して加藤大臣は、以下の通り回答しました。
「C型肝炎患者の皆さんが、どこに住んでいても必要な医療を受けられる、これは当然のことだと思う。しかも最先端の医療をしっかりどこでも受けられる状況にしていく。それに向け国と地方自治体が連携して肝炎対策を推進していくことが必要だと思う」、
「肝炎対策協議会を一度も開いていない自治体があるということは我々も十分に認識している。地方自治体のさらなる取組みをしっかり即していきたい」、
「都道府県毎に設置している肝疾患診療連携拠点病院と連絡協議会の開催状況も把握をしつつ、拠点病院が地域の医療連携の強化に取り組むように、拠点病院の担当者会議などを通じて働きかけていきたいと考えている」
「さらなる医療連携強化のため、今年度から医療連携の事例を把握し、課題の分析と解決等の検討などを行う3年間の研究班を立ち上げている。この研究班の成果についても都道府県や拠点病院に対して適宜提供することを通じて医療連携の強化等を図っていきたい」
さらに九州原告団代表の出田妙子さんも以下のように迫りました。
「大臣、地域格差は是正されるべきというお考えをお話し頂き、少し安心いたしました」
「しかし事前の厚労省事務方との作業部会における姿勢にはまだ不安を感じております。昨年適切に対応したいと回答したにもかかわらず、「それは都道府県が判断するもの」「国としては状況を把握する」と後退した回答だったからです」
「大臣、各地の状況を把握するだけでは地域格差は埋まりません。是非、厚生労働省として、各自治体に個別に事情を確認して下さい。そして各問題意識を踏まえ、各自治体に応じた丁寧な働きかけをして下さい。そして仮に自治体が対応できない事情を訴えれば、個別に連携して問題を克服していただけないでしょうか」
「そうでなければ、いつまで経っても適切な肝炎医療にたどり着かない患者が残されることになります。新しい指針でうたっている国と地方自治体との連携。これを真の意味で実現していただきたいのです。大臣、いかがでしょうか」
これに対して、加藤大臣は、「各都道府県の肝炎対策の取組み状況の調査を毎年実施することにしている。その公表を通じて、各自治体における取組みを促していきたい。また、未実施の理由も確認しているところなので、その理由を見ながら、国として必要な、できる限りのアドバイスをしっかりやっていきたい」と回答しました。
◆ 個別救済~国の責任でカルテ調査を
最後の「個別救済」のパートでは、まず岡山から来た原告さんが加藤大臣に直接、被害を訴えました。
岡山から参りました原告です。岡山県も5日からの豪雨で大変な被害が生じております。しかし、本日協議にために岡山からやって参りました。どうぞよろしくお願いいたします。
私は昭和61年12月22日、次女出産の際に大量出血し、フィブリノゲン製剤を投与されました。出産約1か月後に黄疸が出て倒れ、急性肝炎で約3か月間入院し、まだ幼い長女と産まれたばかりの次女の世話をしてあげることができませんでした。平成5年の三女出産前の検査でC型肝炎感染が判明しました。
しかし産まれた三女に母子感染していたと告げられたときには、頭の中が真っ白になりました。三女に申し訳なく、自分のことを責めました。インターフェロン治療では、吐き気やうつ状態の副作用がありました。
私の場合はカルテがありませんでしたが、カルテが残っていれば、カルテを確認することで早期救済が可能です。
C型肝炎であることにまだ気付いていない被害者や、過去の私のようにC型肝炎感の原因がわからず、未だに自分のことを責めている被害者がたくさん放置されていると思うと、辛い気持ちになります。大臣お願いです。救済法ができてもう10年以上が経過しています。大臣が責任をもって、一日も早く残っているカルテを全て確認し、被害者に薬害が原因であることを教えてあげてください。
原告の訴えをじっと聞いていた加藤大臣は、「カルテを調査して通知していくことは大変大事だと思っている。カルテがあっても確認していない医療機関を0にすることがまずなにより大事だ」
「カルテが保管されているものの実質的な確認作業をしておらず、かつ、これまで国が訪問していない74の医療機関に対して、地方厚生局員を活用して、カルテの確認作業や投与判明者に対する告知を実施したところである」
「74以外の医療機関についてもひとつひとつチェックしていく必要性があると考えている。引き続き確認作業を行いながら、医療機関独自の確認作業の実施を促していきたい」と回答しました。
これに対して弁護団から東京弁護団によるカルテ調査の取組状況に触れながら、2023年1月の薬害肝炎救済法の請求期限の1年前である2022年1月までに投与判明者に対する告知を終えるという厚労省の目標を達成するためには、抜本的対策である人的・資金的支援措置しかないと思うが、どうかと問いただしました。
加藤大臣は「一刻も早く投与事実を告知して救済していく必要がある」とした上で、「投与判明者に告知が行われるよう、本年度から毎年1月に文書でその旨を要請し、これらの実施状況を調査し、医療機関ごとの状況を公表するとことを考えている」
「またカルテによって投与事実が判明しても、連絡先不明によって、約50%が告知出来ていないという実態がある。このため、医療機関への要請に際しては、連絡先不明の場合は住民票調査を行い、転居先を確認するよう引き続き求めるとともに、住民票の保存期間が5年になっているので、5年を経過している場合については例えば戸籍情報を活用できないか等、関係省庁とも相談をしていきたい」と回答しました。
毎年3本柱の課題について改善を申し入れ、厚生労働大臣から直接回答を受け取る貴重な機会である大臣協議。
本年度も「再発防止」、「恒久対策」、「被害救済」という3パートの原弁が積み上げて選択した課題について、大臣から直接回答を得ることができました。
薬害肝炎全国原告団代表を退任した山口美智子さん、新しく全国原告団代表に就任した浅倉さん、全国の各原告の代議員・各班の責任者等が今後も一致団結して、薬害肝炎の積み残しの課題について、粘り強く交渉していく予定です。
投稿者プロフィール
- 弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。