道交法改正による自転車のヘルメット着用努力義務とは、民事過失相殺のポイント
目次
全ての自転車利用者に対するヘルメット着用努力義務の導入
道路交通法が改正され、令和5年4月1日から、自転車利用者のヘルメット着用が努力義務化されました。
令和5年3月31日までは、乗車用ヘルメットは「児童・幼児の保護責任者」の順守事項にすぎませんでした。
今回の2023年法改正は、これを「全ての自転車利用者」に対する努力義務に広げたものです。
立法事実としては、ヘルメットの着用時と非着用時で致死率に大きな差があること、そして令和3年3月に決定された第11次交通安全基本計画においても、全ての年齢層の自転車利用者に対してヘルメット着用を促すべきとされていたことがあげられます。
注意すべきは、導入されたのは道路交通法の「義務」ではなく、「努力義務」にとどまる点です。
国会審議では、「(努力義務にとどまらず)少なくとも子どもについてはヘルメット着用を義務化してもいいのではないか」という質問もなされています。
それに対しては、今回努力義務として着用率の向上を図ることにしたが、今後の着用率の推移を見ながら検討していきたいという答弁もなされています。
旧道路交通法63条の11の定め
改正前の道路交通法でも、自転車交通事故の場合、児童・幼児は他年齢層に比べて特に頭部損傷の割合が高いことから、児童・幼児の保護者に対して、児童・幼児に乗車用ヘルメットを着用させる努力義務を課していました。
保護者が幼児等を自転車に同乗させるときのみならず、児童に自転車を運転させるときを含みます。
したがって、児童に自転車通学を許可している学校の教師等も、保護責任者になると解釈されていました(道路交通法解説)。
旧道路交通法63条の11
児童又は幼児を保護する責任のある者は、児童又は幼児を自転車に乗車させるときは、当該児童又は幼児に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。
改正道路交通法63条の11
これに対して、令和5年4月1日施行の改正道路交通法は、自転車運転者自身にも、乗車用ヘルメットをかぶる努力義務を課したものにです(1項)。
2項は、他人を乗車させるときは、「当該他人に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない」とも定めました。
その結果、3項は、「児童又は幼児が自転車を運転するときは」という文言に変わっています。
改正道路交通法63条の11
第1項
自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならない。
第2項
自転車の運転者は、他人を当該自転車に乗車させるときは、当該他人に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。
第3項
児童又は幼児を保護する責任のある者は、児童又は幼児が自転車を運転するときは、当該児童又は幼児に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。
ヘルメット不着用の過失についての裁判例
正面から自転車ヘルメット不着用の過失を認めた裁判例は多くありません(示談折衝段階や裁判和解などではよく論点に上がります)。
裁判においては、自転車のヘルメット不着用の過失を否認した裁判例もあります。
例えば、神戸地裁平成31年3月27日判決は、12歳の子が信号のない交差点を自転車で走行中、右方から進行してきた乗用車と衝突した事案において(事故日は平成25年2月3日)、
ヘルメット不着用の過失については、「道路交通法63条の11(本件事故当時は平成25年法律第43号による改正前の同法63条の10)は、児童・幼児の保護責任者に対し、努力義務として、当該児童・幼児へのヘルメットの着用を定めているにすぎないし、本件事故当時、児童・幼児の自転車乗車時のヘルメット着用が一般化していたとも認められないから、ヘルメットを着用していなかったことをXに不利に斟酌すべき過失と評価するのは相当でない」として、否認しています。
これに対して、自動二輪車の事故においては、ヘルメット不着用について過失と認めた裁判例は非常に多数存在します。
例えば、平成元年8月9日京都地裁判決は、交差点内の原動機付自転車同士の事故により、被害者が頭部外傷を受け、複視・視野障害(8級)・下垂体機能低下(12級)等によって併合7級の後遺障害を後遺した事案において、前方不注意とヘルメット付着用の過失を認めて、原告に10%の過失相殺を認めています。
今回の道路交通法改正後、自転車乗車時のヘルメット着用が社会的に定着していくにつれて、自転車運転者等が交通事故によって頭部に傷害を負ったケースでは、ヘルメット不着用が過失として争点化するケースも増えてくると予想されます。
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