古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

氷水が広がる難病ALSの裁判例、求められるさらなる行政支援

◆ バスケット・チャレンジとは

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者支援が広がっています。

 チャリティの名称は「アイス・バケット・チャレンジ」。指名された人が24時間以内に氷水をかぶるか、100ドルを寄付するかというルールです。

 7月末、米国のALS患者の呼びかけで開始。マイクロソフトのビル・ゲイツ氏やフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏、サッカーブラジル代表のネイマール選手ら著名人が参加したことによって認知が広がりました。

 日本でもiPS細胞でノーベル賞を受賞した山中伸弥京都大教授が参加するなど広がりを見せています。

◆ ALSとは

 一気に社会的に認知が広がったALSとは、どのような疾病なのでしょうか。

 ALSは、筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)と呼ばれる神経の病気。
1869年にフランスの脳神経内科医シャルコーによって初めて報告され、難病の一つに指定されています。

 筋肉の動きを支配する脊髄の運動ニューロン(運動神経細胞)が変性します。つまり、神経細胞あるいは神経細胞からでてくる神経先生が徐々に壊れていくため、筋肉がだんだん縮み、体が動かしにくくなっていくのです。

 現在、日本には2009年の統計で約8500人の患者さんがいます。

 有病率は10万人あたり4~6人。男性にやや多く、紀伊半島やグアムで多発が見られ、発症年齢は10代後半から80歳代にまで及びますが、一般には中年以降と言われています(医学大事典)。

 症状が進むと、徐々に手足の自由が効かなくなり、発病して3年から5年で症状が全身に及んで全介護の状態になります。

◆ 原因と治療法は

 ALSの原因は不明であり、現在は、病気の進行を止める治療法は開発されていません。

 グルタミンサン遊離を抑制するリルゾールが承認されていますが、臨床試験においても有意な効果は得られていません。
 そのため、リルゾールで治療することが望ましいものの、効果は顕著でないため、患者に対して十分な説明と同意が必要と言われています。

 呼吸筋の麻痺について人工呼吸器の装着によって延命が可能になり、療養生活を送ることが可能です。

 現在国際的な様々な研究が行われていますが、日本でも厚生労働科学研究費補助金にて、「神経変性疾患領域における基盤的調査研究班」がALSを含めた神経疾患の研究に取り組んでいます。

◆ 患者団体の要望

 日本ALS協会は6月18日、厚生労働大臣に対して、平成26年度要望を提出しています。

 具体的には、「ALSの原因究明と治療法確立のための研究事業の拡充」、「医療費助成の範囲に全身に現れる症状を広く含めること」、「人工呼吸器装着者(自己負担限度:月千円)に「鼻・顔マスク」を含めること」などを要望しています。

 チャリティ運動で認知は広がりつつあるものの、原因究明・治療法確立のためには、さらに研究事業を拡充していくことも求められていそうです

◆ ALSに関する裁判例

 なおALSに関連する最近の裁判例としては、和歌山地裁平成24年4月25日判決があります。

 この判決は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者に対する障害者自立支援法に基づく介護給付費支給決定について、裁量権の逸脱濫用になるとして、当該決定の一部を取り消すとともにこの限度で支給決定をするよう義務付けたものです。

 障害者自立支援法に基づく介護給付費について、支給決定を義務付けた初めての裁判例になります。

 人工呼吸管理をする必要がある以上、1日24時間の公的介護の必要性があると患者が主張したのに対して、被告の和歌山市は、「不測の事態の発生に対する危惧にすぎない。・・1日24時間緊張した状態で介護するまでの必要性はない」などと主張していたものです。

 これに対して、裁判所は、「原告は、ほぼ常時、介護者がその側にいて、見守りも含めた介護サービスを必要とする状態にあったことが認められる。そして、原告と同居している妻の年齢73歳や健康状態に加えて、ALSの特質及び原告の生存に必要とされる危惧の操作方法に鑑みると、少なくとも1日当たり21時間分については、職業付添人による介護サービスがなければ、原告が必要十分な介護サービスを受けることができず、その生命、身体、健康の維持等に対する重大な危険が発生する蓋然性が高いと認められる」と判断したものです。

 介護保険の支給といった行政の運用の場においても、まだまだALSの病態、患者のおかれた難しい状態に対する理解が不十分であることを如実に物語る裁判例といえるかもしれません。

「ALSアイス・バケツ・チャレンジ」は、難病ALSを克服するチャリティ運動として、アメリカから世界中に広がりを見せています。
当協会では、このイベントが、これまで難病ALSを知らなかった人に関心を持って頂くきっかけになり、 ALSへの理解や支援の輪が広がっていると感じています。
また沢山の方からのお問合せやご寄付のお申し出に対し、心より感謝いたします。頂いたご寄付は、ALSの原因究明や治療研究および、患者家族への支援活動のために、大切に使わせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
「アイスバケツチャレンジ」で、冷たい氷水をかぶることや、寄付をすることなど、すべて強制ではありません。 皆様のお気持ちだけで十分ですので、くれぐれも無理はしないようにお願いします。
特に氷水について、これから涼しくなりますので心配しております(日本ALS協会)。

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。