優先関係のある十字路交差点事故について、降雪のため優先性を認識し得たとはいえないが、優先の期待は相当とし、過失割合を50%と認定した旭川地裁判決
目次
争点
積雪のために道路標識が見えず、車両を運転する運転手から優先道路であると認識できない場合の過失割合が争点となった事案です。
東北・北海道など降雪の多い地域の交通事故では日常的に問題となってくる論点です。煤煙によって標識が見えなかったり、経年劣化によって中央線が見えない場合にも問題になりえます。
事案の概要
信号機により交通整理の行われていない交差点での衝突事故です。
ステップワゴンを運転する原告は、その進行する道路が優先道路であり、過失割合は、10対90が相当であると主張しました。
これに対して、被告運転手は、雪のためステップワゴンの進行する道路が優先道路とは認識できなかったし、むしろ自らが運転するコンフォートの方が左方車であることから、過失割合は80対20が相当であると主張したものです。
なお訴訟当事者は、正確には、ステップワゴン所有者Aが第1事件の原告、コンフォート運転手Cが第1事件の被告、ステップワゴン運転手Bが第2事件の被告、コンフォート運転手Dが第2事件の原告になります。
読みやすさから、この記事では、第1事故のステップワゴン側を原告、コンフォート側を被告と表記(読み替え)しています。
本件十字路は、本来、ステップワゴンの走行する道路が、中央線が引かれた優先道路で、幅員は6・8mあり、コンフォートの走行する道路の幅員は6・4mでした。
事故当時は、本件十字路付近ではいずれの道路も積雪により路面は見えない状況でした。
コンフォート側には、本来、一時停止の標識も設定されていましたが、やはり積雪によって見えない状況でした。
裁判所の判断
旭川地方裁判所令和5年3月16日判決は、まず、被告運転手が本件十字路における優劣関係を認識し得たかを検討しています(判例時報2580・2581合併号229頁)。
つまり、裁判所は、「本件十字路では、路面の積雪により中央線は確認できない状況であったし、道路の幅員は6・8mと6・4mでありその差がほとんどない上、コンフォートのドライブレコーダーの映像によれば、事故当時は、道路脇に堆雪があったことから幅員の判断はより困難であったと認められる。」としました。
「また、コンフォート側の本件十字路入口には、本来は一時停止標識が設置されているべきものであったと認められるが、停止線は路面の積雪のため確認できず、また、一時停止標識は逆三角形であるところ、コンフォート側の本件十字路入口に設置された標識は、表面に雪が付着して表示内容を確認できない正三角形のものであり、その形状から一時停止が要求されていると推認できるものともいえない。」とした上で、「以上によれば、被告運転手が、道路の幅員や標識の設置状況から、コンフォートの進行する道路が優先関係において劣後することを認識することはできなかったと認められ、その点には過失が認められない。」としました。
さらに、裁判所は、「以上のほか、本件道路の幅員は同程度と評価でき、コンフォートが左方車に当たること、コンフォートがステップワゴンよりも若干速度が遅かったことからすれば、被告運転手の過失が原告運転手よりも大きいと評価することは相当ではない。他方で、原告運転手が、本件十字路を何度も通っていたため、ステップワゴンの進行する道路が優先道路であるという認識があったのであり、本件事故当時も優先進行する期待を有すること自体は、正当といえる。これらの事情を踏まえると、本件の過失割合は、50対50と認めるのが相当である。」と判断したものです。
ポイント
別冊判例タイムズ38号の101図では、基本の過失割合は原告60対被告40(左方車)、104図停止線ありは20対80、105図優先道路は10対90になっています。
問題は、一時停止線や中央線など優先性が積雪のために運転手が認識できない場合には、どのように過失割合を判断するのかということになります。
この点、当初道路標識等を適法かつ客観的に認知できるように設置してあったとしても、降雪のため道路標識の標板が白くおおわれて、その意味が読み取れないとき又は道路標示が見えなくなっているときは、その道路標識等は一時的であるが、その間は有効な道路標識ということはできないので、交通規制の効力は失われたものと解釈されています(執務資料道路交通法解説17訂版・88頁等)。
本判決もかかる解釈を前提にして優先道路としての規制を認めませんでした。
そうすると左方優先が働きますので、101図の原告60対被告40が基本になってきますが、本判決は、原告運転手が本件十字路を何度も通っており、優先すると期待することは相当として、10%原告に有利に修正して、50対50と判断したものになります(確定)。
私が相談を受けた事例(保険会社からドラレコの評価を求められることは良くあります)でも、北海道の降雪ふりしきる道路でのドラレコ相談は、非定型的な事故も多く、なかなか難しい判断を迫られます。
本判決もそのような実務現場での一つの参考になる事例判断といえるでしょう。
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投稿者プロフィール
- 弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。