古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

3学会が「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン」を公表

日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本循環器学会の3学会が共同で、「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン ~3学会からの提言~」を公表しました。

ガイドライン

このガイドラインの意義はどこにあるのですか?
我々は患者が重症と判断された場合、回復に向けて全力を尽くします。決して治療をあきらめることはありません。しかし、あらゆる治療を尽くしても救命の見込みがないと思われる場合があります。そのよ
うな時に治療とは言えない、むしろ患者の尊厳を損なうような措置が継続している状況が発生してしまいます。本ガイドラインは、このような場合も患者の尊厳を保ちつつ、患者が元気であった時の意思を優先し、かつ患者のご家族や関係者の御意見を尊重した対応をするための考え方や方法を示したものです(ガイドラインQ&A

このガイドラインは「筋弛緩薬投与などの手段により死期を早めることは行わない」と明記しています。
ですから、いわゆる「積極的安楽死」(苦痛から解放するために直接生命を絶つことを目的とするもの)を定めたものではありません(学会Q&A12参照)。

積極的安楽死については、いわゆる東海大学安楽死事件があり、横浜地裁平成7年3月28日判決が4要件を定めています。
つまり、「患者が耐えがたい肉体的苦痛に苦しんでいること」、「患者は死が避けられず、その死期が迫っていること」、「患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし他に代替手段がないこと」、「生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること」という要件です。

この要件はより厳格に明示の意思表示を求めており、「法的安定性を求めようとすれば、何らかのガイドライン・立法措置が必要」(医事法判例百選・第2版)とも指摘されているところです。

救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン

これに対して、今回のガイドラインは、集中治療室等で治療されていて、適切な治療を尽くしても救命の見込みがない急性重症患者に対する、治療行為の中止について学会としての見解を定めたものとなります。

治療行為の中止については、映画「終の信託」のモデルにもなった川崎協同病院事件の最高裁判決があります。
事例判決ですが、人工延命治療の中止に関して最高裁が初めて判断を示したと評価されています。

この事件の1審判決と2審判決は対照的な判断を示してました。

1審判決は「終末期における患者の自己決定の尊重は、自殺や死ぬ権利を認めるというものではなく、あくまで人間の尊厳、幸福追求の発露として、各人が人間存在としての自己の生き方、生き様を自分で決め、それを実行していくことを貫徹し、全うする結果、最後の生き方、すなわち死の捉え方を自分で決めることがきるということのいわば反射的なものである」としました。
その上で、患者の意思の推測も含めて、患者の自己決定権を追求していくことを原則としたものです。

これに対して、2審判決は、「家族の意思を重視することは必要であるが、そこには終末期医療に伴う家族の経済的・精神的な負担等の回避という患者本人の気持ちには必ずしも伴わない思惑が入り込む可能性がつきまとう」として、1審判決の自己決定権を基本とするアプローチを批判。

その上で「尊厳死の問題を抜本的に解決するには、尊厳死法の制定ないしこれに代わり得るガイドラインの策定が必要」と指摘していました。

本ガイドラインは、1審判決の自己決定権を重視する立場をふまえて、場合分けしつつ、2審の指摘したまさに学会のガイドラインを策定したものといえます。

ただし、「患者の意思が確認できず推定意思も確認できない場合」について、ガイドラインは、「家族らと十分に話し合い、患者にとって最善の治療方針をとることを基本とする」とします。2007年に発表された厚生労働省の「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」とほぼ同じ考え方です。

これに対して、1審判決は、「疑わしきは生命の利益にとして、医師は患者の生命保護を優先させ、医学的に最も適応した諸措置を継続すべきである」としており、そこに違いが出てきそうです。

学会も敢えて言及するように、「(今回のガイドラインは)一般的なガイドラインと異なり、急性期終末期における倫理的対応について考える道筋を提示したもの」にすぎませんから、この点は注意を要することになるでしょうし、事案毎に慎重な対応を行う必要には変わりはないと思います。

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。