古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

薬害肝炎原弁と加藤勝信厚労大臣との協議会を開催、薬害資料館の予算措置を求めて

加藤勝信厚労大臣との大臣協議を開催

 2023年7月26日、2023年度の薬害肝炎全国原告団弁護団と厚生労働大臣との間の大臣協議が厚生労働省で開催されました。

 大臣協議は平成19年度に始まり今回で17年度目になります(過去の大臣協議のレポートは末尾の「関連記事」も参照してください)。
 厚労大臣歴の長い加藤勝信大臣とは3回目の大臣協議になります。

 毎年、「被害救済」「薬害の再発防止」「恒久対策(C型肝炎治療体制の整備等)」の3分野の課題について、薬害肝炎原弁が厚生労働大臣に対し直接回答を求め、課題解決を図っていくという重要な協議会です。

 薬害肝炎全国弁護団が5地裁判決をてこに全面解決を求め、2008年1月15日、国との間で基本合意書を締結しました。基本合意書は、「国(厚生労働省)は、原告・弁護団と継続的に協議する場を設定する」と定めており、かかる合意に基づいて開催されるものです。

 全国から原告団弁護団が集結するとともにオンラインからも参加。
 大臣協議におけるオンライン活用はコロナ禍をきっかけに導入され、早いもので既に4度目になっています。

個別救済~病院調査と訴訟対応

 薬害肝炎全国原告団の浅倉美津子代表と加藤厚労大臣が冒頭挨拶を行い、大臣協議がスタートしました。

 まず個別救済の分野では、「病院調査」として、請求期限までに被害者救済を完了するための具体的方策・スケジュールを示すことを求めました。
 そして、「迅速かつ円滑な訴訟対応」として、法務省に対しても救済法の制定経緯、全員一律救済の趣旨等を共有し、迅速かつ円滑な訴訟対応を指導することを求めました。

 加藤厚労大臣は、「カルテ調査については来年度末をめどに調査を終了して告知を進めたい」、「本来病院が行うべきであるが、厚労省も主体となって調査をしてきた。広報も充実させていきたい」、「所在不明者に対する調査について、具体的な提案があれば検討していきたい」と回答しました。

 「迅速かつ円滑な訴訟対応」は、昨今、全国弁護団が委任をうけている全国の訴訟において、被告国の代理人から首を傾げる求釈明が増え、従前であれば和解できたケースでも和解できないことが増えているため問題提起したものです。

 吉田弁護士から、「現在も救済法に基づき、裁判所における和解手続きが行われている。不当な求釈明がくることがある。救済法の理念に沿った訴訟進行となるように、法務省も救済法の趣旨や理念を共有し、担当者が変わってもその都度訴訟対応が異ならないように、厚労大臣からも指導して欲しい」と求めました。

 これに対して、加藤厚労大臣は「基本合意・覚書というルールがあるので一貫した対応をしていきたい。ルールと齟齬している訴訟事案があるのであれば、我々の中でも共有していきたい」と回答しました。

再発防止~薬害資料館の予算に向けて

 再発防止の分野では、東京原告団の遺族原告泉さんから「評価・監視委員会」について質問し、大阪原告団の武田さんから、薬被連が設置した法人に対する予算措置を求めました。

 ここでは薬害資料館設置についてのやりとりを取り上げます。
 武田さんは以下のように回答を求めました。

 「資料の所有権の帰属は、薬被連が中心となって一般社団法人を立ち上げることになり、資料の所有権を順次、譲渡を受ける予定となっています。法人の登記手続きは未了ですが、すでに権利能力なき社団として立ち上げています。代表の花井氏が、医薬品副作用被害対策室に事業計画書、予算計画書を提出して、予算確保を求めています」
 「本来、資料館は最終的には、国がやるべき問題です。すでに薬害研究資料館については、平成22年に最終提言が出てから13年も棚ざらしになっています」
 「是非とも来年度から、法人が国から事業委託を受けられるよう、予算措置を講じてください」

 加藤厚労大臣は、「他の資料館の視察なども行い、一般的な資料館の情報を集めてきたところである。当事者である皆さんの意見を尊重しながら行っていきたい。最終提言が政府に対して措置を求めることをふまえ、今後の対応を検討したい。民間団体であれば補助であるし、国が本来行うべき事業であれば委託になる。「委託」の場合はフリーハンドにはならず補助よりも成約があるという面もある。いずにしろより良い形になるようにどのようなやり方があるか。我々も主体的に、丁寧かつスピード感をもって取り組んでいきたい」と回答しました。

恒久対策~重度肝硬変肝がんの治療研究の促進事業と差別偏見解消

 恒久対策のテーマとしては、まず、九州原告団代表の出田さんから「重度肝硬変肝がんの治療研究の促進事業」を取り上げました。

 助成制度の利用要件として、令和3年度より「外来医療」が対象に追加され、助成開始の対象月数も「4月」から「3月」に短縮されました。令和4年度の暫定的な利用者数は3592名と増加してはいるものの、一都道府県あたりの平均利用者は80名にも達していません。

 出田さんは大臣に回答を求めました。

 「制度を必要とする重症患者が多数存在するにもかかわらず、制度が届いていない実情は緩和以前とほとんど変わっていません」
 「先日の作業部会では、「令和3年度の見直し後の実施状況および様々な要望をふまえ、現在今後の制度の在り方を検討している」との回答でした」
 「大臣、それは、助成要件のさらなる緩和と理解してよろしいでしょうか?制度の在り方について、現在検討されている具体的な中身について回答してください」

 加藤厚労大臣は、「制度の周知・啓発を引き続き行いたい。良い事例があればそれを広げていきたい」、「都道府県・医療機関によって件数に差があるというのは要件緩和だけではなく、今の制度の中で対象となる人をしっかりと取り組んでいくことが大事だと思う」と回答しました。

 次に、東京原告団の及川さんが、昨年に続いて「差別偏見解消」を取り上げました。

 「私たちは、偏見差別解消のために、人権教育の1つに位置付けられた感染症教育が重要だと考えています」
 「昨年3月に改正された肝炎対策基本指針には、正しい知識の普及啓発に加えて、人権尊重の観点が取り入れられました。指針の第1(5)には、「肝炎患者の人権を尊重するためには 、どのようにふるまうべきかを考え学ぶことが重要である」と書かれ、「肝炎患者の人権尊重について取り組みを推進することは、感染症患者全体の偏見差別の解消に資するもの」ともあります。
 この点をどのように実現していくか、大臣のご認識を伺います」

 加藤厚労大臣は、「引き続き効果的な取り組みになるようご意見をうかがいたい。感染症といっても様々なものがある。教育としてどのようなものがのぞましいか。具体的な課題についてしっかり検討していく必要ある。そのために、患者団体の皆様と議論させて頂いて、また所管とも連携して皆さんの意見をお聞きしながら、早く取組していきたい」と回答しました。

2023年度大臣協議の成果と課題

 今年の大臣協議も残された課題の中から、特に進めていくべきものに絞り込んで厚労大臣の回答を求めていきました。

 今回の回答を土台に厚労省事務方との作業部会などにおいて、また引き続き対応を求めていくことになります。

 今後も残された課題の解決に向けて、薬害肝炎原弁は、肝炎患者団体・B型肝炎原弁とともに取り組んでいく予定です。

関連記事

改正薬害肝炎救済法が成立、救済期限2028年1月まで延長
薬害肝炎原弁と後藤厚労大臣との協議会を開催(2022年度)
薬害肝炎原弁と田村憲久厚労大臣との協議会を開催(2021年度)

関連情報

薬害肝炎九州弁護団
薬害肝炎全国原告団
薬害肝炎被害について(厚生労働省)



 

 

 

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。