古賀克重法律事務所ブログ

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交通事故判例車両保険

自宅に駐車した車両が盗まれたと車両保険金を請求したところ、被保険者以外の者が車両を持ち去った証明がないと請求棄却した名古屋高裁判決、判例タイムズ1509号

争点

 盗難被害に遭ったと申告して車両保険金を請求した事案において、盗難の外形的事実の立証がないと判断した名古屋高裁令和4年3月16日判決を紹介します(判例タイムズ1509号102頁)。

 盗難という保険事故を理由として保険金を請求するためには、保険契約者が、「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という盗難の外形的な事実を主張立証する必要があります。
 そして単に「外形的・客観的にみて第三者による持ち去りとみて矛盾のない状況」を立証しただけでは,盗難の外形的な事実を合理的な疑いを超える程度まで立証したことにはならないと考えられています。

 最高裁は、その外形的な事実は、「被保険者の占有に係る被保険自動車が保険金請求者の主張する所在場所に置かれていたこと」及び「被保険者以外の者がその場所から被保険自動車を持ち去ったこと」と解釈しています(最高裁平成19年4月17日判決、最高裁平成19年4月23日判決)。

 外形的事実が立証されているかが争点となった事案です。

事案の概要

 Xは、金属スクラップの産業廃棄物の回収を目的とする会社です。損害保険会社Yとの間で車両保険契約を締結していました。
 X代表者が午後10時から午後11時頃に帰宅した際、自宅駐車場に駐車していたトヨタランドクルーザー(以下「本件車両」といいます。)が、翌日午前7時から7時30分頃、何者かによって持ち去られていたと申告しました。

 本件車両は駐車場の奥(原告自宅の建物側)に駐車し、同駐車場の道路側部分には仕事で使用している別の車(レクサス)が駐車していました(縦列駐車)。

 これに対して、Yが支払を拒絶したため、XがYに対し、車両保険金等を請求して提訴した事案です。

 原審の名古屋地裁は請求を棄却し、名古屋高裁も地裁の判断を維持して請求棄却しました(確定)。

裁判所の判断

 原審の名古屋地裁は、以下の理由により、「被保険者であるX代表者以外の者が被保険者の占有に係る本件車両をその所在場所から持ち去ったこと」という盗難の外形的事実が認められないとして、請求を棄却しました。

 まず、自宅駐車場には2台が駐車可能であり、本件車両は奥に駐車され、道路側の手前にはレクサスが駐車してあった。盗難が判明した朝、レクサスは自宅前の道路に移動されて放置され、ドライブレコーダーも取り外されていた。レクサスには、イモビライザーや侵入センサーが装備されていた。現場周辺は閑静な住宅街で、窃盗犯人が周囲に気付かれないようにレクサスを移動させることは困難であり、仮にレクサスの自走に成功したとすれば、レクサスをあえて放置して、本件車両を盗むのも不自然である。しかも、レクサスのイグニッション履歴によれば、盗難があった日の午前1時前後と午前7時前後に、エンジンが起動した記録があるが、本件車両を盗むためにレクサスを自走させた者が約6時間の間隔で2度にわたり起動するのは不自然である。

 また、前日に立ち寄った場所についての代表者の供述が変遷している。携行していた携帯電話の記録では、別の地域からの発信もあるが、具体的な場所としては県内しか供述していない。

 そして、盗難が判明した当日朝、移動されたレクサスや自宅駐車場の写真を撮影したことと、警察に連絡したこととの前後関係、警察に連絡した回数について、代表者の供述が変遷している。

 さらに、本件盗難の約5カ月前に、自宅駐車場から本件盗難と同じ状況で、同車種の車両が盗難被害にあった旨を申告し、本件盗難から約11カ月後には自宅駐車場からレクサスが盗難被害にあった旨を申告しているが、同じ場所で頻繁に盗難が発生するのは不自然である。Xの経営状況は順調とはいえない。

 Xが控訴しましたが、名古屋高裁は、「当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がなく棄却すべきものと判断する」とした上、付加・訂正しました。

 「控訴人が主張するように車両盗難について種々の手口があり得ることを考慮しても、仮に、上記以外の盗難手口以外の態様があり得るとしても、本件車両や本件レクサスに進入センサー、オートアラーム及びイモビライザー等の防犯システムが設置されていることを考慮すると、抽象的な盗難の可能性が指摘できるにすぎないと言わざるを得ず、本件盗難の発生を裏付けるに足りるものとはいえない」

 そのほか、名古屋高裁は、レクサスの移動方法について、ピッキング及びキープログラマー、CANインベーダーの方法が用いられた痕跡が認められず、コードグラバーという方法が当時行われていたとも認められないことも付加して、原判決を支持しました。

ポイント

 原判決及び本判決とも、最高裁の判断枠組みに従って検討し、盗難の外形的な事実を立証できていないと判断したものです。

 本件の特徴としては、自宅駐車場において、レクサスを前の道路に移動させて放置したうえ、本件車両が盗難被害にあったという態様です。また両車両はいずれもイモビライザー等の盗難防止装置が装着された車両であり、レクサスには約6時間の間隔で2度エンジンが起動された記録があり、約1年半の間に自宅駐車場で3回の盗難事故が申告されていることです。
 このような特殊性のある事案についての事例判断になり、実務における認定での参考になります。

 盗難事故の保険金請求に関しては多数の裁判例がありますが、事案に応じた様々なものがあります。
 最近の裁判例として、盗難の外形的事実の立証がないとした裁判例として、名古屋高裁令和3年3月17日判決、大阪高裁令和2年2月21日判決、大阪高裁平成30年11月22日判決などがあります。各判例については結論というよりも、どのような間接事実を重視したのか、当事者でどのような主張立証があったのか、事件の筋としてはどうかなどをいつも行間から読み込むようにしています。

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判例タイムズ1509号

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。