古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

判例医療安全情報日本医療機能評価機構

退院時の処方漏れによる内服中断の医療事故、医療安全情報224号

退院時の処方漏れによる内服の中断事例が報告

 公益財団法人日本医療機能評価機構が、「医療安全情報」224号・2025年7月号を公表しました。

 退院後に内服すべき薬剤が退院処方から漏れたため、内服が中断した事例が報告されています。2020年1月1日から2025年5月31日に6件の事例が報告されています。

具体的な事例は

 今回の医療安全情報にて報告された事例2つは、以下の通りです。

 事例1の患者は、皮膚筋炎とステロイド性糖尿病の治療のため入院していました。
 担当医はプレドニンの投与量を調整していたため、定期処方とは別に処方していました。
 退院時からプレドニンを減量予定であり、担当医は上級医に投与量を確認した後、退院処方に追加する予定でしたが、失念してしまいました。看護師も、退院処方にプレドニン錠がないことに気付きませんでした。
 退院後、患者は意識障害を来して、救急搬送となったという事例です。

 事例2の患者は、膀胱がんの治療のため泌尿器科に入院していました。
 出血性十二指腸潰瘍を認め、消化器内科医師が内視鏡を用いて止血して、タケプロン静注用の投与を開始しました。食事再開後、消化器内科医師
はタケキャブ錠の内服に変更しました。
 ところが退院時、どちらの診療科がタケキャブ錠を処方するか確認していなかったため、タケキャブ錠が処方されなかったものです。
 退院後、患者は十二指腸潰瘍から再度出血して入院となったという事例です。

再発防止のポイント

 事例が発生した医療機関は以下の取組を行っています。

医師は、病歴や治療経過から必要な薬剤が処方されていることを確認する。

薬剤師・看護師は、退院後に内服すべき薬剤が退院処方から漏れていないか確認する。

 また総合評価部会は、取組のポイントとして、以下の薬剤は退院処方から漏れやすいと注意喚起しています。

定期処方とは別に処方していた薬剤

併診の診療科が処方していた薬剤

注射薬から内服薬に変更した薬剤

一時休薬していた薬剤

内服の中断と医療過誤

 入院時や転院時をきっかけにこれまで内服していた抗血栓薬(抗血小板薬・抗凝固薬)を休薬し、患者に予期せぬ合併症が生じるケースは少なからず報告されています(医療安全情報「抗凝固剤・抗血症板剤の再開忘れ」)。

 医療過誤ではないかという法律相談でも、抗血栓薬の中断前後に予期せぬ結果が出てしまったというケースは、比較的多い相談類型になります。

 裁判例としては、抗凝固薬の休業期間中に患者(当時60代)が脳梗塞で死亡した事案で、医師が1週間の休薬を要すると判断した点について、78時間程度の休薬にとどめていれば、患者が死亡した時点で生存していた相当程度の可能性があったとして、900万円の賠償を命じたものがあります(東京地裁令和元年9月12日判決)。

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関連情報

医療ミス・医療過誤・医療事故の法律相談(古賀克重法律事務所)
医療安全情報(日本医療機能評価機構)

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。