弁護士法人アディーレに関する無料電話相談を担当した雑感
目次
弁護士法人アディーレに対して業務停止2月
東京弁護士会が平成29年10月11日、弁護士法人アディーレ法律事務所(主たる事務所:東京都豊島区東池袋3-1-1サンシャイン60)に対して業務停止処分2月、元代表社員石丸幸人氏に対して業務停止3月の懲戒処分を告知しました。
アディーレが事実と異なる宣伝を繰り返した行為が、景品表示法違反(有利誤認)に当たると判断されたもの。業務停止期間は、「平成29年10月11日午後5時から同年12月10日まで」になります。
懲戒処分に先立つ2016年2月16日には、既に消費者庁が弁護士法人アディーレに対して、「過払い金返還請求の着手金を今だけ無料や割引にする」という広告を5年近く続けたことが、景品表示法違反(有利誤認)に当たるとして措置命令を下していました。
東京弁護士会は、10月11日の懲戒処分の告知と同時にアディーレに対してすべての事務所における業務停止を命じました。アディーレの全国に展開する支店(従たる事務所)における業務も停止しています。
そのためアディーレの本店・支店の代表電話番号・ファックスは利用ができません。
所属する弁護士の個人事件(法人受任でないもの)は継続可能ですが、事務所の電話・ファックスが利用できないため、依頼者との連絡は携帯電話にならざるを得ず、事実上、通常通りの営業とはいえない状態です(なお事務所の利用許可は出ており、各弁護士は事務所には出社できているといいますが、外部からは連絡が付きません)。
東京弁護士会は10月12日に電話相談窓口を設けましたが、17日までに3309件に上ったことがわかりました。
福岡県弁護士会も無料の電話相談窓口を設置しました。とりあえず執行部経験者が交代で対応しており、私も本日、元副会長として電話相談を担当しましたが、ひっきりなしに電話が寄せられている状況でした。
本日の電話相談を担当してみた雑感を綴ってみたいと思います。
弁護士法人アディーレとは
一般の方も多重債務CMを展開しているのが目にしたことは多いと思います。
会社員を経験して2001年に司法試験に合格した石丸幸人弁護士が、当時急増していた多重債務に的を絞って拡大路線を図ってきた事務所。所属する弁護士の大半は弁護士登録後、5年以内の弁護士になっています。
東京の事務所で事件を一括管理しており、地方の支店所属の若い弁護士は過払い訴訟で裁判所に出頭するなど限られた業務に従事していると言われています。
業界内の評判としては、司法制度改革の流れに沿って全国展開してきた「ユニーク」な事務所であることではある意味一致していますが、その業務の「質」については厳しい目が向けられてきました。
アディーレの対応
今回の懲戒処分を受けて、アディーレは全国の依頼者に対して、以下のような契約解除の文書を送付しています。業務停止処分が1か月を超えるときは、法人と依頼者との委任契約はすべて解除しなければならないとされているからです。なお顧問契約も含めてすべて解除が必要になります。
大変申し訳ございませんが、本書面をもって、当事務所(契約書上に記入のある共同受任の個人受任弁護士、司法書士を含む)との委任契約を解除させていただきます。
なお、当事務所との委任契約を解除した後のご依頼者様の委任事件に関するご対応については、下記のいずれかから選択していただくこととなります。
① ご依頼者様ご本人で対応いただく
② 他の事務所の弁護士の先生に新たに委任いただく
③ 弊事務所の弁護士(弊事務所所属の弁護士のうち、責任のある弁護士とご契約いただくことを予定しております。)に個人として委任契約を締結していただく。上記①②の場合には、当事務所より、ご依頼者様ないし新規受任の先生に案件及び資料等を引き継がせていただきます。
アディーレは受領済みの着手金については事件処理の程度に応じて一部返還という方針のようですが、その返還の程度なども紛争に発展する可能性があります。
いずれにせよアディーレからの解除文書を受領しているか否かにかかわらず、アディーレ側の事由によって業務停止に至ったわけですから、依頼者は履行不能を理由にして委任契約を解除することが可能です。
アディーレの経営破綻の可能性
アディーレはこれまでかなりの多重債務事件を処理してきており、(普通ならば)それなりの内部留保金があるでしょうから、今回の2月の業務停止で直ちに経営破綻することはないと思われます。
この点は、前述の文書において③の選択肢を提示して、所属弁護士による事件継続を誘因していることからもうかがえます。
またアディーレは今回の懲戒処分についても争う姿勢を示していますから、その意味でもすぐに経営破綻することはないでしょう。
もっともアディーレの業務処理については弁護士会へのクレームも少なくなく、今回の事由以外にも懲戒事由が出てくれば別の話になります。
私が相談を聞いた福岡在住の方は、福岡支店があるにもかかわらず、アディーレの弁護士とは一度も面談したことがなく、東京からの電話のみで委任対応しており、その内容について不満を抱えていました。
今回の委任契約解除によって全国で新たな弁護士がかなりの数介入することになります。その過程においてアディーレの業務の別の問題点が発覚した場合には、新たな懲戒申し立てに至る可能性もあり、その場合は一気に経営が傾く可能性もないとはいえません。
そして元代表弁護士の石丸氏が現在、私大医学部に入学しており、今後医師免許を取得する予定です。石丸氏は「医療界というより大きなマーケットでの業務展開」も視野に入れているようです。
将来的に法曹界(というか多重債務処理)に見切りをつけて自主的に一気にたたむ・・という日が来るのかもしれません。
対応の選択肢について
それでは現在アディーレに依頼している相談者はどのような対応をとればよいでしょうか。
アディーレは3つの選択肢を示していますが、どの対応を選択するかはケースバイケースです。
例えば本日相談を受けた中で、任意整理を依頼して全債権者と示談成立済みというケースがありました。示談成立後も長期間にわたって示談代行(示談合意した月々の返済金相当額と代行手数料をアディーレに振り込み、アディーレが月々の返済額を債権者に支払う)を依頼していた方です。
このようなケースは、①を選択してアディーレに対する月々の支払いをやめて、今後はご自分で示談合意額を債権者に対して支払えば足りると思われます。
東京弁護士会や福岡県弁護士会も電話相談窓口を設けていますが、結局、弁護士に委任するために弁護士会の法律相談センターを紹介することになります。
かかりにくい電話相談窓口に電話するよりも、お住いの地区の弁護士会の法律相談センターないし自分で探した法律事務所にて法律相談を行って、可能な場合にはその弁護士に受任してもらうことが現実的かと思います。
またアディーレはB型肝炎訴訟にも手を広げていましたが、この訴訟についての依頼も契約解除になります。
B型肝炎訴訟の依頼者は、全国B型肝炎弁護団の相談窓口に連絡して委任されてください(弁護団は着手金・経費なしで活動していますので、弁護士費用の追加負担も発生しませんから、安心してご依頼いただけるでしょう。なお私はB型肝炎弁護団ではありませんので客観的な情報を提供しています)。
注意すべき事案としては、アディーレとの契約が解除になったことから、相手方弁護士から「数日以内に提案額に合意するか回答せよ。さもなくば提訴する」等の強引な交渉をされているような場合です。
このようなケースは、焦ってすぐに回答するのではなく、速やかに別の弁護士に依頼して委任することがよいでしょう。
さらに、今回の懲戒処分前後に判決が下されたという方は特に注意が必要です。判決内容を確認して不服がある場合には、控訴期限2週間を超えないように速やかな対応を行う必要があるからです。
焦らず慌てずに、もう一度ご自分の委任内容と進捗状況を理解した上で、ベストと思われる選択肢を選んで頂くほかないと思います。
弁護士法人アディーレ法律事務所らに対する懲戒処分についての会長談話
東京弁護士会 会長 渕上 玲子本日、東京弁護士会は、弁護士法第56条に基づき、弁護士法人アディーレ法律事務所に対し業務停止2月、元代表社員の弁護士石丸幸人会員に対し業務停止3月の懲戒処分をそれぞれ言い渡しました。
同弁護士法人は、広告表示が改正前不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」といいます。)の有利誤認表示に該当したとの理由で、消費者庁より広告禁止の措置命令を受けましたところ、この度、当会は、同弁護士法人の広告行為が景表法に違反し、かつ日本弁護士連合会の弁護士等の業務広告に関する規程等にも抵触するものであり、弁護士法人として品位を失うべき非行であると判断し、上記のとおりの懲戒処分を申し渡しました。
同弁護士法人の広告表示は、債務整理・過払金返還請求に係る役務を一般消費者に提供するにあたり、実際の取引条件よりも有利であると一般消費者を誤認させ、一般消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある極めて悪質な行為であり、しかも、長期間にわたって多数回反復継続されている組織的な非行と言わざるを得ません。
当会は、このような事態が生じたことを重く受け止め、今後も、市民の弁護士会に対する信頼を確保するために、弁護士や弁護士法人の非行の防止に努めるとともに、非行に対しては厳正に対処して参ります。
なお、同弁護士法人の依頼者の方が多数おられることから、下記のとおり臨時電話相談窓口を設け、依頼者からのご相談に応じております。
臨時電話相談窓口 電話 03-6257-1007
(受付時間は午前9時から午後5時まで、土日祝日を除く)
投稿者プロフィール
- 弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。