カルテ開示に高額手数料、厚労省が問題病院に立ち入り検査も
目次
カルテの開示手続き
患者さんないしご遺族から医療調査を受ける場合、手元にある資料に基づいてヒアリングを行いますが、合わせて必ずお願いするのが診療記録(カルテ)の入手です。
「診療記録」とは、「診療録、処方箋、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、紹介状、退院した患者に係る入院期間中の診療経過の要約、その他の診療の過程で患者の身体状況、病状、治療等について作成、記録又は保存された書類、画像等の記録」と定義されています。
既に弁護士に相談される時点で診療録を入手されている方もおられますが、そうでない場合には、各病院に赴くなどして、各病院の所定の手続に従って開示を求めることになります。
私が弁護士になった1995年頃は、任意のカルテ開示を拒否する医療機関も少なくなく、カルテを入手するために、裁判所に証拠保全手続を取ることが一般的でした。
事前に裁判官ないし書記官、執行官と打ち合わせて、場合によってはカメラマンを用意して(コピー機を使わせない病院もあるため)当日赴きます。
カルテの量が多い場合は書記官と手分けして2台のコピー機を利用して長時間コピーをとり続けたこともあるなど、結構大変な作業でした。
なお現在でも患者側弁護士としてカルテ入手のために証拠保全手続きまで実施するかは、ケースバイケースになります。
偽造・隠ぺいの抽象的可能性は存在することから一律に証拠保全を実施する弁護士もいるようですが、逆に、患者に費用負担をかけることにもなりますし、時間もかかります。
私は病院の対応から偽造・隠ぺいの具体的な可能性がうかがわれたり、病院が開示拒否する場合に限って証拠保全手続きを実施しています。
大半のケースにおいては病院に対して任意の開示を求めることによって、問題なく入手できています。
カルテ謄写の実費は合理的な金額であるべき
その後個人情報保護法が施行され、同法に基づいて基本的に診療録開示が認められることになりました。
それでも時々患者さんやご家族から、「病院からカルテは渡すことができないと言われた」とか、「高額の謄写費用を要求されたけれどもどうしたら良いか」という相談を受けることも少なくありません。
問題視した厚生労働省も、平成26年9月8日付け通知(「平成26年度の医療法第25条第1項の規定に基づく立ち入り検査の実施について」)にて、実費は合理的な範囲内にするよう求めました。
診療情報の開示については、「診療情報の提供等に関する指針の策定について」(平成15年9月12日医政発第0912001号医政局長通知)において、手数料を徴収する場合は、実費を勘案して合理的であると認められる範囲内において、その手数料の額を定めなければならないこととされている。なお、診療記録の開示に関する手続きは患者等の自由な申立てを阻害しないものとすることにも留意する(同通知)。
厚労省はさらに進んで全国の医療機関にアンケート調査を行うなど実態把握に努めて、全国の取り扱いを集約することも必要ではないかと思います。
患者のカルテ開示請求に、高額な手数料を求める医療機関があるため、厚生労働省は、立ち入り検査の重点項目に開示手数料を新たに盛り込み、指導強化に乗り出した。
個人情報保護法は合理的な範囲で開示にかかる費用の請求も認めている。コピー代の請求という形が一般的だが、中には別に、1回5000円、1万円などと高額な手数料を求める医療機関もある。
文部科学省が行った8月の調査によると、大学病院だけで16病院が5000円の手数料を徴収。3000円も6病院あった。コピーが1枚40~50円などと一般より高い病院もあった。(2014年10月6日 読売新聞)
高額な手数料に厚労省が実態調査を実施
その後、市民団体からの指摘などを受けて、厚生労働省が2017年12月、特定機能病院85施設を対象に実態を調査していることが明らかになりました。
私が経験した事案でも交通事故訴訟において整骨院に対して裁判所を通して文書送付嘱託をかけたところ、5000円の手数料を請求してきた整骨院もありました。
このように医療機関だけではなく整骨院も含めて患者の権利としてのカルテの開示に対して、合理的な範囲を超える手数料を請求するところがまだ全国的にかなりあるのが実態です。
厚労省の実態調査を足がかりに全国的に透明性のあるカルテ開示手続きを実現していく必要があるように思います。
カルテ開示費用は実際の費用から積算されるべき
厚生労働省は実態調査をふまえて、平成30年7月20日付け通知(医政医発0720第2号)を発出しました。
同通知は、「今般、診療記録の開示に要する費用についての疑義が多数寄せられているところ、これについては下記のとおり解すべきものであるので、貴職におかれては、貴管下保健所設置市、特別区、医療機関及び関係団体等への周知をお願いする」としています。
その上で、診療記録の開示にあたっては、診療記録の開示に関する費用は実際の費用から積算される必要があり、開示に要する費用を一律に定めることは不適切となる場合があると指摘しました。
さらに、カルテ開示に医師の立ち合いを必須とすることは、患者の権利を不当に制限するおそれがあり、不適切であると踏みこんで注意喚起しています。患者としてはカルテ開示をした際に医師の立ち合いは拒むことができますし、少なくとも医師の立ち合いを理由とした高額のカルテ開示費用請求は拒否できるといえるでしょう。
なお、調査結果を踏まえ、診療記録の開示に当たっては次の点に留意されたい。
・ 診療記録の開示に要する費用は、実際の費用から積算される必要があるが、個々の申し立てに応じその費用が変わり得るところ、開示に要する費用を一律に定めることは不適切となる場合があること。
・ 医師の立ち会いを必須とすることは、患者等が診療記録の開示を受ける機会を不当に制限するおそれがあるため、不適切であること(医政医発0720第2号)
関連情報
・診療情報の提供等に関する指針(平成30年7月20日付通知)
・医療機関における開示手数料の算定に係る推奨手続について(令和4年1月28日付通知)
・古賀克重法律事務所「医療過誤サイト」
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投稿者プロフィール
- 弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。