古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

「肝炎対策基本法」が成立、その具体的内容と課題

◆肝炎対策基本法が成立 

 肝炎対策基本法(平成二十一年十二月四日 法律九十七号)が2009年11月30日午前10時22分、参議院で可決され成立しました(施行は2010年1月1日)。
 賛成154、反対0の全会一致でしたが、政争のあおりで自民党が欠席する中での成立となります。
 その後、薬害肝炎全国原告団は、薬害肝炎救済法、そして肝炎対策基本法の成立に尽力頂いた全政党をまわって御礼を伝えました。

 鳩山首相(当時)との面談では、総理が「本当に長い間頑張られたことが実を結んだ。しかし、その間多くの方が亡くなったのは非常に残念。予算が不十分ならば皆さんの期待には応えられない。まだ先は長いが、新政権として頑張っていきたい。人の命を大切にする政治をしなければとの思いでいる」と発言。長妻大臣も、「これを糧にB・C型患者の医療費助成をしなければと考えている」と述べました。

 肝炎対策基本法の具体的内容、そして何が達成できて、何が今後の課題かをまとめました。全国原告団代表の山口美智子さんの声明とともにご覧下さい。
 なお、当日夜23時30分からのフジテレビ系列「ニュースジャパン」に薬害肝炎九州原告団元代表の福田衣里子議員(当時)が生出演して解説しました。

今日、我が国には、肝炎ウイルスに感染し、あるいは肝炎に罹(り)患した者が多数存在し、肝炎が国内最大の感染症となっている。
肝炎は、適切な治療を行わないまま放置すると慢性化し、肝硬変、肝がんといったより重篤な疾病に進行するおそれがあることから、これらの者にとって、将来への不安は計り知れないものがある。

戦後の医療の進歩、医学的知見の積重ね、科学技術の進展により、肝炎の克服に向けた道筋が開かれてきたが、他方で、現在においても、早期発見や医療へのアクセスにはいまだ解決すべき課題が多く、さらには、肝炎ウイルスや肝炎に対する正しい理解が、国民すべてに定着しているとは言えない。

B型肝炎及びC型肝炎に係るウイルスへの感染については、国の責めに帰すべき事由によりもたらされ、又はその原因が解明されていなかったことによりもたらされたものがある。特定の血液凝固因子製剤にC型肝炎ウイルスが混入することによって不特定多数の者に感染被害を出した薬害肝炎事件では、感染被害者の方々に甚大な被害が生じ、その被害の拡大を防止し得なかったことについて国が責任を認め、集団予防接種の際の注射器の連続使用によってB型肝炎ウイルスの感染被害を出した予防接種禍事件では、最終の司法判断において国の責任が確定している。

このような現状において、肝炎ウイルスの感染者及び肝炎患者の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保するなど、肝炎の克服に向けた取組を一層進めていくことが求められている。
ここに、肝炎対策に係る施策について、その基本理念を明らかにするとともに、これを総合的に推進するため、この法律を制定する(肝炎対策基本法・前文)

◆肝炎対策基本法Q&A 

 肝炎対策基本法の基本的なQ&Aは以下の通りです。

Q1 肝炎対策基本法はどうして成立したのですか?
A1 日本にはB型肝炎・C型肝炎に感染している人が350万人、患者が60万人いると推計され、国内最大の感染症となっています。肝炎が放置すると肝硬変・肝がんに進行する恐れがあります。現在においても経済的負担の重さから治療を断念せざるを得ない人がいるなど適切な治療を受けられず苦しんでいます。
このような状況にかんがみ、感染者・患者の人権を尊重しつつ、肝炎対策を国民的な課題として位置づけ、肝炎克服に向けた取組を強力に推進していくことが求められているからです(国会における法案趣旨説明より)。

Q2 肝炎対策基本法の内容は?
A2 肝炎対策基本法は、肝炎対策の基本理念を定めるとともに、国・地方公共団体の責務を明らかにした上で、肝炎の予防・早期発見・療養に係る経済的支援等の施策を総合的に推進するものです(国会における法案趣旨説明より)。

Q3 肝炎対策基本法の対象患者は?
A3 すべての感染者及び患者の方々を対象にしています。

Q4 肝炎対策基本法の具体的・主たる内容は?
A4 以下の9つが具体的・主たる内容です(国会における法案趣旨説明より)。
まず一つが国の責任を明記した前文を設けることです。つまり、「薬害肝炎事件では、感染被害者の方々に甚大な被害が生じ、その被害の拡大を防止し得なかったことについて国が責任を認め、集団予防接種の際の注射器の連続使用によってB型肝炎ウイルスの感染被害を出した予防接種禍事件では、最終の司法判断において国の責任が確定していること等を踏まえて制定した」旨の前文を設けました。
第2に、肝炎対策の基本理念として、肝炎研究の推進・成果の普及、居住地にかかわず肝炎の検査・適切な治療を受けられること、施策の実施にあたって差別されないよう配慮することを掲げました。
第3に、国・地方公共団体・医療保険者・国民・医師の責務を明らかにするとともに、政府は、肝炎対策を実施するための財政上の措置を講じなければならないと定めました。
第4に、厚生労働大臣は、肝炎対策推進協議会(下記第8番目の内容参照)の意見を聴いた上で、肝炎対策基本指針を策定するものとされました。
第5に、国および地方公共団体は、肝炎検査の質の向上を図るための必要な施策を講ずるものとされました。
第6に、国および地方公共団体は、医師の育成、専門的な肝炎医療を行う医療機関の整備、連携協力体制の整備を図るための施策を講ずるものとされました。
第7に、国および地方公共団体は、肝炎患者が適切な医療を受けることができるよう経済的な負担を軽減するために必要な施策を講ずるものとされました。
第8に、厚生労働省に肝炎対策推進協議会を設置することを定めました。協議会は、肝炎患者、家族、遺族を代表する者、医療従事者、学識経験者から構成されます。
第9に、肝硬変および肝がんの患者に対する支援の在り方については、今後必要に応じ、検討が加えられるものとすることが定められました。

Q5 いつから施行されますか
A5 来年(平成22年)1月1日から施行されます。

Q6 課題はないのでしょうか?
A6 肝炎が国民病になったことについての国の責任を明記するとともに、国・地方公共団体・医療従事者等の責務を定めた点は評価できる一方、具体的な予算措置は記載されていません。年末の予算編成にむけて実際に「肉付け」していくことが課題になります。

Q7 まずどのような予算措置がとられそうですか?
A7 肝炎の唯一の根治治療であるインターフェロン治療は、現在、収入に応じて、月1万円、3万円、5万円の自己負担になっています。これを原則月1万円にするのが、従来の民主党の主張です。
また、B型肝炎の抗ウイルス療法についても負担軽減策が講じられると予測されます。

Q8 インターフェロンや抗ウイルス療法の医療費助成は本当に実現されますか?
A8 肝炎対策基本法はその成立にあたり、付帯決議も行われ、「肝炎患者が適切な治療を行えるよう、インターフェロン治療の医療費助成を適切に講ずるとともに、B型肝炎の治療に有効な他の抗ウイルス療法等に対する医療費助成についても早期実現を図ること」と定められました。医療費助成の早期実現は、政府の責任であり、政治の責任というべきです。

Q9 そのほかの付帯決議の内容を教えてください。
A9 肝炎対策基本法の制定にあたり、以下の8項目の付帯決議がなされています。
1つは、施行にあたり肝炎患者等であることを理由に差別されないよう人権尊重に最大限の配慮を行うこと、2つめはA7の医療費助成、3つめは、治療と社会生活を両立できるよう、地域における診療体制の整備や勤務時間等について企業等に柔軟な対応を求めること、4つめは、肝炎治療のための休職・休業を余儀なくされた患者に対する支援について早急に検討を行うこと、5つめは、地域の拠点病院の整備を図るとともに専門知識及び技能を有する医療スタッフ育成のために必要な措置を検討すること、6つめは、肝炎医療を行う上で必要が高い医薬品等について治験を迅速かつ確実に行うための体制の整備等を講ずること、7つめは、肝炎以外の慢性疾患についても必要な財政支援のありかたについて検討すること、8つめは、肝炎対策推進協議会の人選にあたっては、肝炎患者等をはじめとした幅広い理解を得られるよう公正中立を旨とすること等です。

Q10 薬害肝炎救済法と肝炎対策基本法はどういう関係ですか?
A10 2008年1月に成立した薬害肝炎救済法は、2002年10月に提訴してその後、東京・大阪・福岡・名古屋・仙台の5地裁で争われ一審判決が出された薬害肝炎訴訟事件の解決のために成立された法律です。つまり、対象は、フィブリノゲン、クリスマシン、PPSBニチヤク等の特定の血液凝固因子製剤投与によって感染した被害者を対象とした法律でした。
一方、本日成立した肝炎対策基本法は、薬害か否か、そして感染原因を問わず、すべての肝炎患者を対象とした法律という関係になります。

Q11 薬害肝炎原告団弁護団の活動目標と肝炎対策基本法の関係は?
A11 薬害肝炎原弁は、提訴直前の2002年8月夏合宿で、大きな二つの活動目標を掲げました。1つ目は、薬害肝炎被害者の救済、2つ目は、全肝炎患者の救済でした。前者は薬害肝炎救済法で、後者は肝炎対策基本法で一定の道筋がたち、薬害肝炎原弁の活動も一つの大きな区切りの日を迎えました。

Q12 そうすると薬害肝炎原弁の活動も終了ですか?
A12 いえ、「道筋がたった」と言ってもその実現はこれからです。つまり、薬害肝炎被害者の救済(追加提訴による和解)も各地裁で継続中です。そして薬害肝炎救済法は平成20年1月16日の施行から5年間の救済を明記しており(同法5条「給付金の請求期限」参照)、少なくとも平成25年1月16日まで救済活動が継続します。
また、肝炎対策基本法についても、Q6Q7のとおり、これからの肉付けが大事になり、それをこれからも求めていくことになります。

Q13 具体的な薬害肝炎原弁のこれからの活動はどのようになりますか?
A13 大きく4つになるでしょう。1つは、訴訟を通じた薬害被害者の救済、2つは、国との基本合意に基づいて実施されている検証会議を通じた再発防止の実現、3つは、肝炎対策基本法を実現する恒久対策の実現、そして、以上を実現するために障害となる特定の課題を取り上げ、解決を求める年に一度の大臣協議の開催です。

「肝炎対策基本法成立に際しての声明」  薬害肝炎全国原告団代表 山口美智子

11月26日の衆議院可決を経て、本日30日参議院にて全会一致で可決し、肝炎対策基本法が制定しました。2年越し3度目の国会で、ようやく肝炎問題全面解決への大黒柱が立ちました。

2002年10月の薬害肝炎訴訟の初提訴以来、5年の闘いを経て昨年1月の薬害肝炎救済特別措置法が制定しました。その際、薬害肝炎原告団は、やっと全面解決への土台ができただけなので早急に350万人の患者に対する支援策の実現をと、当時の福田首相や舛添厚労相に訴えました。全ての政党も超党派でウィルス性肝炎患者の支援策の実現に向けてさらに取り組むと約束してくださいました。

ところが、国会も世論も、まるで肝炎問題は完結したかのような風潮でした。それからの1年半、薬害肝炎原告団は、あらゆる場で「肝炎問題は終わっていません」と言い続け、また肝炎患者3団体(日肝協、B型肝炎訴訟原告団、薬害肝炎原告団)が連帯し「もう待てない 350万人のいのち」のスローガンのもと、集会や街頭での全国キャンペーンを展開してきました。約28万筆の署名が集まり、国会に請願もしました。
しかしながら、不安定な政局に振り回され、与野党から提出されていた2つの法案も廃案になってしまったのです。またもや肝炎患者の命が置き去りにされてしまったと、会期末ぎりぎりまで諦めずに活動してきた薬害肝炎原告団は打ちひしがれました。それは、この間、薬害肝炎原告団の元原告等が治療を開始し、強い副作用をおして国会要請活動を重ねてきたからです。私自身、「今こそ勝負の頑張り時」と何度呼びかけてきたことでしょうか。

その後政権交代しての臨時国会では、政治の責任を果たして頂けると静観の体勢でいたのですが、国会召集となっても、肝炎法案は上程されないままでした。やはり当事者である患者自らが動かなければ何も進まない現状を改めて思い知らされ、薬害肝炎原告団は国会要請行動を重ねました。
その結果、まったなしの肝炎患者の状況を理解していただいた超党派の国会議員の方々のご尽力により、ようやく今日という日を迎えることができました。

薬害肝炎原告団の最終目標である「ウィルス性肝炎患者が安心して治療に専念できる恒久対策」実現への大きな一歩を踏み出したことは確かです。
全面解決への「大黒柱」ができたからには、予算措置という「梁」ができてこそ、しっかりとした肝炎患者救済につながります。「命を大切にする政治」が「命を救済する予算措置」を実現してこそ、政権交代の意味があるのです。

さあ、次なる闘いの先頭に立たれるB型肝炎訴訟原告団へ、薬害肝炎原告団から本日バトンを渡します。
そしてこれまで私たち薬害肝炎原告団を支えていただき、共に闘っていただいた皆さまに対して心より感謝申し上げます。

◆肝炎対策基本法の改正のポイント 

 肝炎対策基本法は2013年12月12日に改正されています。

 改正のポイントは以下の通りです。

 まず「基本的な方向」として、国の肝炎対策の全体的な施策目標として、肝硬変・肝がんへの移行者を減らすことを目標とし、肝がんの罹患率を出来るだけ減少させることを指標として設定することを追記しました。

 「予防」としてB型肝炎ワクチンの定期接種の実施を図ることを追記し、「肝炎検査」として職域での肝炎ウイルス検査について、地方公共団体や拠点病院等と連携し、研究班の成果等も踏まえ、医療保険者、事業主等関係者の理解を得ながら、その促進に取り組むことを強調してます。

 「医療提供体制」としては、検査陽性者の受診勧奨、フォローアップの取組を一層推進することを強調しています。

 「医薬品の研究開発」としては、肝炎治療に係る最近の動向を踏まえ、特にB型肝炎、肝硬変の治療に係る医薬品の開発等に係る研究を促進することを明記しました。

 「啓発・人権尊重」として、国及び地方公共団体が連携し、関係者の協力も得ながら、効果的な普及啓発を行うことを明記。その上で、肝炎患者等に対する偏見や差別の被害の防止に向けた具体的な方策を検討し、取組を進めることを追記してます。

 「その他重要事項」としても、肝炎から進行した肝硬変・肝がん患者に対する更なる支援の在り方について、従前の調査研究の結果、新たな治療法の開発状況その他の医療の状況、肝炎医療費助成や重症化予防事業などの施策の実施状況等を踏まえ、検討を進めることを追記してます。
 そして、国は都道府県に対して、地域の実情に基づいて、医療関係者、患者団体等その他の関係者と協議のうえ、肝炎対策に係る計画、目標の設定を図るよう促すことを追記しています。

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。