古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

医師の羊水検査結果の誤報告によるダウン症児の出生・死亡につき、両親の家族設計選択の機会が奪われたとして慰謝料500万円が認容された事例

羊水検査の誤報告によって、妊娠中絶の機会を失い、ダウン症児を出産したものの、出生後3か月で、ダウン症によるTAMを背景とした肝繊維症の発症、肝不全を直接の原因として死亡した事例について、判決が出ています。

函館地裁平成26年6月5日判決は、「原告らは医師の診断により一度は胎児に先天性異常がないものと信じていたところ、出生直後に初めて子がダウン症児であることを知ったばかりか、重篤な症状に苦しみ短期間のうちに死亡する姿を目の当たりにしたのであり、原告らが受けた精神的衝撃は非常に大きなものであったと考えられる」と判断して、医師及び医療機関に対する慰謝料請求500万円を認容したものです。

ダウン症候群は最初の報告書の名前を付けられた疾患。21番染色体が過剰に存在して3本ある状態(トリソミー)により症状が発現します。
発生頻度は新生児800~1000人に1人。特異な顔貌のほか、低身長、小頭症、短い手指が見られます。根本的治療はありませんが、平均寿命は50歳を越えています。(医学大事典)

本判決は、誤報告によって両親の自己決定権が侵害されたとするものです。

つまり、「原告らは、中絶を選択するか、又は中絶しないことを選択した場合には、先天性異常を有する子どもの出生に対する心の準備やその養育環境の準備などもできたはずである。原告らは、医師の羊水検査結果の誤報告により、このような機会を奪われた」として慰謝料を認めたもの。特異な事案において、両親の受けた傷の大きさに寄り添った判決と評価できるでしょう。

なお被告らも訴訟前に一定の過失を認めていたようであり、入院治療費のほか見舞金50万円・香典10万円を支払っていましたから、実質的には損害額の加算のみが争点だったのかもしれません(判決が一審で確定したのもそうした理由でしょう)。

現行の母体保護法は、妊婦の身体的もしくは経済的理由の中絶は認めますが、胎児の障害を理由とする中絶は認めていません。
日本でも新型出生前検査が普及し始めており、その意味でも考えさせられる判決です。

・NHKクローズアップ現代「新型出生前検査 導入から1年~命をめぐる決断 どう支えるか」(14/4/28放送)

社会全体でいろいろな人がやはり知恵を絞って、妊婦さんの居場所、考える場所というのを作り、それからやはり社会の中で障害を持った人、病気を持った人たちが温かく迎え入れられている、あるいは生まれてきた子どもの将来をイメージできるような、そういう社会であれば、おのずと妊婦さんの考える決断の軸というのも変わってくるという可能性はありますので、やはり今、そういうことを考えるきっかけが、この検査を通して社会に提示されてるんではないかなというふうに思っております。
(むしろ障害があって生まれてくる子が、よりいやすい場所・社会であるような方向性に向かうように、社会的な議論が進むことが大事だということか?)
そうだと思います。(同番組)

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。